救出
「く、くそっ!。姫様、お逃げください!」
カゲロウが立ちふさがるが、武器すらもってない素っ裸では対抗できない。
「きゃああああああ!」
姫を誘拐した女たちは、叫び声をあげて逃げ出していった。
「ぐふふ、覚悟しろ」
ビスマルクが姫に手を伸ばした瞬間、奴の後ろの壁がいきなり倒れてくる。
「ぶべっ」
奴は倒れた壁の下敷きになり、うめき声をあげた。
小屋の壁をぶちぬき、姫を救った俺は、前に立って格好よくポーズを決めた。
「姫、助けにきたぞ」
「ハンケツ仮面様!」
俺を見て、姫は嬉しそうな歓声をあげた。
「きっと来てくれると思ってたよ!」
カゲロウも感激しているようだ。それはいいけど、二人とも丸見えですよ。
「とりあえず、これを着ろ」
彼女たちを追跡するために持ってきたアイテムを手渡すと、カゲロウは悲鳴をあげた。
「きゃ⁉これはボクたちの下着!なんでそんなもの持ってんだよぅ!この変態」
「誤解だぞ。お前たちを探すのに匂いが必要だっただけだ」
なぜか俺は誤解を受ける事が多いな。俺は二人が下着を身に着ける間、後ろを向いて倒れたビスマルクを警戒した。
「また貴様か!何度もワシをこけにしおって」
倒れていたビスマルクが、憤怒の表情を浮かべて起き上がってくる。
「俺としては、ここでお前との因縁を断ち切りたいのだがな」
俺が両手を突き出して魔法を使おうとすると、ビスマルクは高笑いを浮かべた。
「ふふふ。以前のようにはいかんぞ。今度はワシが貴様たちを殺す番だ。見るがいい。『闇壁』」
ビスマルクの体から高濃度の闇の魔力が放出され、奴の体表を覆っていく。
「ウインドスピア」
俺が放った風魔法は、それに打ち消されて雲散霧消した。
「なっ?」
「ふふふ、貴様は風魔法を使うだが、闇の魔力で覆った私の体には効かぬ」
ビスマルクの放った闇魔法は、俺の風魔法を無効にするだけではなく、俺たちの体表面から体力と魔力を奪っていった。
「寒い……」
俺の後ろで、カゲロウがガタガタと震えている。
「今度はワシの勝ちだ!」
勝利を確信したぞスマルクは、長くて鋭い爪を振りかざして切りかかってきた。
「くっ」
俺はかろうじて短剣で受け止めるが、ビスマルクは余裕たっぷりの態度で力を込めてきた。
「ふふふ。剣もそこそこ使えるようだが、いつまでもつかな。時間がたつほどに貴様たちの命と魔力は削られていくのだ」
確かに、こいつの言う事は正しい。こうやって奴の爪を受け止めているだけで、俺の魔力が低下していくのを感じる。
こうなったら、こっちの魔力が尽きる前にこいつを殺すしかない。
「くそっ!ウインドソード」
やけくそで短剣に風の刃を纏わせて切り付けてみるが、ビスマルクの体に触れた瞬間刃が消滅した。
「無駄だ。闇の魔力で覆ったワシのシールドを敗れるのは、光の魔力のみ」
くそっ。俺が光魔法を使えないと判断して、煽るようなことをいいやがって。
焦っていると、やけにのんびりした声が聞こえてきた。
「光魔法を使えばよろしいのですか?」
サクラ姫が俺の後ろからやってきて、そっと俺の手にふれると、金色の光が俺の手を包んだ。それは短剣にまで伝わっていく。
「『光剣』」
俺の短剣は、太陽のような光を放ち、ビスマルクの目をくらませた。
「そ、それは聖剣フラガラッハ。おのれ、やはり貴様が勇者だったか」
何言っているんだか。この短剣は備品室から適当に取り寄せたもので、騎士の標準装備だぞ。
短剣の光に当てられたビスマルクは、一瞬ひるんで爪の力をぬいた。
「今だ!」
俺は片手でマスクを脱ぎ捨てると、「アポーツ」を使う。俺の手から消えたマスクは、ビスマルクの頭に転移してその視界をふさいだ。
「くっ」
ビスマルクが動けなくなった隙に、俺は奴の後ろにまわり、金色の光に包まれた指を尻に向けて思いきり突き出した。
「食らえ!地獄つき」
「アーっ」
どうだ俺のカンチョ―は。あの人に近づけるように練習したんだぞ。
俺はそのまま指先から奴の体内に直接空気を送り込む。これだけ密着していれば、闇の魔力に邪魔されることなく俺の必殺技が使えるはず。
『風船の手』」
「こ、これはなんだ。ワシの体が膨らんでいく……」
ビスマルクの腹が風船のように膨らんでいく。
「じゃあな」
俺が光に包まれた短剣で一突きすると、パーンという音とともにビスマルクの体は破裂するのだった。
「ふっ。きたねえ爆発だ」
俺はそういいすてると、慌てて顔を手でかくす。やばい、俺の正体がばれなかっただろうな。
「ぺっぺっ。汚い。あーん。また血と内臓がかかっちゃった」
「うふふ。びっくりしちゃいました」
カゲロウと姫の声が聞こえてくる。どうやら、爆発のどさくさに紛れて顔は見られなかったみたいだ。
「ハンケツ仮面。また助けてくれてありがとう」
「改めてお礼を言わせていただきますわ」
二人が近づいてくるので、俺は慌てて後ろにさがった。
「ち、ちょっと、今はまずい」
俺が慌てているので、二人は悪そうな顔になる。
「ふふふ。いい機会だね。顔を見せてもらおうか」
「お顔を知らないままでは、充分なお礼もできません。ぜひ素顔をお見せくださいませ」
二人がにじり寄ってくるので、俺は慌てて後ろをむいた。俺の尻が露わになり、二人の動きが止る。
「れ。礼などいい。では、さらば!」
二人が俺の尻に視線を集中させている隙に、俺は脱兎のように逃げ出すのだった。
「結局、顔はわからなかったね。ボクたちに見せてくれるのはお尻だけかぁ」
「でも、かっこいいですわ。うふふ。私、ファンになっちゃいました」
逃げ出す俺の後ろで、二人がそんな話をしていた。




