体験型相談サービス
「ごめん、今時間空いてたりする?」
「ああ、空いているぞ」
「……相談したいことがあって」
携帯にはそんな文字が表示されている。あれ以来ほんとによく相談が来るようになった。今日で十回目だろうか。
「どうしたんだ?」
いつもいつも懲りることもなく俺のことを頼ってきている。来る度に思うのだが、良くもまぁそこまで悩みを抱えてくるものだ。
「もう、何もかもやる気でないの。
家にずっと居られるのはいいけど……やらなきゃいけない課題もあるのに体が動かない。
授業とかはなんとか出ていられるけど、このままの生活はもうむり……どうしたらいいのかな……」
ああ、本当に幸福であることを知らないらしい。いままでいじめられていたというのなら仕方ないのかも知れない。
「何もする気が起きないのか?」
「うん
友達にも言われたんだ。このままあんたどうやって生きていくつもりなのって
私にもわからないよそんなの……
けど、このまま苦しいだけの人生はやだな……」
その苦しみだけを抽出したかのようにソイツは喋る。そして、俺が何を言おうと、どんな答えを出そうと最終的にソイツが納得することはない。
「なら、好きなことだけやって行きていけばいいじゃないか
どうせ、このご時世だ。好きなことで突き抜けたほうが良いと思うんだが」
「でも、そんなこと出来るわけないよ……
親からも、先生からも、友達からも言われたの。大学くらいは出て就職したほうがまだいいよって」
そしていつもどおり、私には出来ないよなどとのたまう。俺もいつもどおりイラッとくる。
「それとこれは関係ないだろ。会社にずっといるやつがどれだけいると思う?どうせ人生に2、3回は転職するんだ。それだったら始めから就職するなどという選択肢を外したって良いと思うぞ」
ああ。そうだ。関係ない。わざわざ昔の連中に沿って上げる必要なんてないんだ……
そうして次の応えを待つ。
――――――
「入りますよ」
ノックとともに若い女の声が部屋に響く。白髪の見え始めたその男は画面に目を向けたまま、入室を促した。
「どうですか、皆の顔は。
あ、その白衣は脱いだほうが良いんじゃないですか?」
湯気がたつマグカップを置きつつその男に声がかかる。
「まぁ、上々だな。良い顔してるようだぞ
あとそれは余計なおせっかいだ。もうこぼすことはない」
「そーですか。でも、粗行が悪いほうがこの趣味が悪い仕事には似合ってるんじゃないですかね」
「いいんだよ、全員喜んでるだろ?それと、趣味は悪くないぞ。俺はただ皆の成功を祝っているだけさ」
女の声は辟易しているようだが、顔は苦笑いを浮かべている。
男が指差した画面には、数十人が口角を上げていたり、真剣な表情をしていたりと忙しそうであった。
「で、相談自体はちゃんと全員に回ってるんですか?これ」
「そこは抜かり無い。感情がなくとも俺より頭がいいやつだからな」
「はぁ……そうですか。」
「疑うと言うのならあいつを見てみろ、あの男が受けてる相談はいつも難儀なものばかりだが楽しそうだぞ」
女はちらりと示された箇所を見つつすぐに視線を男に戻す。
「この人達、ほんとにこんなことしていていいんですかね……」
「そこらへんは使う人の意図次第だ。俺らはあくまで提供しているだけだからな」
女は見てられないとばかりに顔を手で覆って入るものの、振り返ってきた男の足はしっかりと避けている。
「娯楽の無くなった世界も難儀なものですね」
「なに、ストレスも成功体験の一つってことさ」
それはさておき、と男は言葉を続ける。
「菓子も持ってきてはくれないか?如何せん糖分が足りないのでね」
「ブラックって言っておきながら、それ要求するの恥ずかしくないんですか」
「いいんだよ。これが様式美ってものだったろ?」
「まぁ、いいですけど……この平和が続くなら」
「ん?」
「なんでもないです」