表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精と初恋  作者: りかちゃん
1/1

伯爵令息視点




 貴族学院の入学式で、俺は妖精に恋をした。




 実際には妖精ではなく、可憐な女性だったのだか、その時の俺には彼女は妖精のように思えたのだ。








 最終学年である俺は、友人の王太子が新入生歓迎のスピーチをするという事で、それを聞きに行っただけだった。




 今年はどんな新入生がいるのかと、ふと会場を見回していると、小柄な女性が目に入った。


 その女性は小柄であるものの幼い感じはなく、むしろ小柄でありながらも大人っぽい顔立ちをしていて、とても柔らかいピンク色の瞳をしていた。


 その瞳が綺麗すぎて、またふわふわの輝くピンクブロンドの髪までもキラキラと輝いているように見えて、同じ人間とは思えなかった。



 俺は自然と、


「あぁ、妖精がいる。」


と呟いてしまった程だった。




 それからはもう入学式の間中、彼女から目が離せなかった。


 もちろん、友人の王太子のスピーチなんて記憶に残っていない。





 入学式が終わり新学期が始まってからも、俺の脳裏にはあの妖精のような彼女の姿が焼き付いて離れず、暫くは上の空の毎日が続いていた。



 後に友人から、彼女は公爵令嬢でエレーミア・フィスターという名前だと教えてもらった。


 小柄で妖精のような外見で爵位も高いというのに、性格も淑やかでありながらも気さくで傲った所もなく男女共に人気があるらしい。




 しがない伯爵令息である俺とは違う世界の住人だと思った。


 確かに爵位で言うならそこまでの差はないかもしれないが、俺は伯爵令息と言っても、田舎領地の伯爵令息だ。

 この国の竜騎士団の竜を育てる家系であり、そのために田舎の領地でないといけないというのはあるが、滅多に首都にも来ることができないくらいには遠い田舎の出だ。

 そのためか15歳の入学時から首都に来て18歳の卒業の年だというのに、未だに垢抜けない外見をしていると思う。

 身長は200cmと高くがっちりと筋肉質で、顔も爽やかとは言い難いというか無骨である。無表情でいると、女性には怖がられて近寄っても貰えないような外見なのだ。



 多分150cm程しか身長がなく可憐な彼女とは、間違っても並ぶこともできないだろう。



 卒業後は領地に戻って竜の育成に関わらなければいけないので、この体型にも顔にも不満がある訳ではない。


 むしろ、必要なものであり恵まれているとさえ思う。



 ただ、彼女には釣り合わないのだと思うと悲しく思うだけである。



 そんな事を思いながら、気がつけば入学式から1ヶ月が過ぎていた。



 貴族学院とはいえ、学院内では爵位がそれ程重要視されない今ぐらい彼女と話してみたいと思うものの、勇気もきっかけもない毎日を過ごしていたある日、偶然にも食堂で彼女を見かけた。



 彼女は食事をのせたトレーを持ちながら、辺りを見回していた。

 最初は一緒に食べる誰かを探しているのかと思ったが、一向にその相手は現れなかった。

 それから俺も周りを見渡してみて、あぁ、食べる場所を探しているのか。と思った。



 幸い俺の近くは空いていて、彼女に声をかけるチャンスなのではないかと思った。


 しかし、俺のような外見の奴がいきなり話しかけて彼女を怖がらせたり気持ち悪がらせたりするのではないかと迷った。


 けれど、これは一生に一度のチャンスだと、もし彼女が不快に思うようであれば場所を譲って自分が移動すればいいだけだと自分に言い聞かせて声をかけることにした。



「初対面で声をかける無礼をお許しください。自分はニコライ・ルフナーと申します。もし、食事をなさる場所を探しておられるようでしたら、私の近くが空いているので、よろしかったらお使いください。」



「私はエレーミア・フィスターと申します。ルフナー様、よろしいのですか?どこに座ればいいのか分からなかったので、お声がけ頂けて嬉しいですわ。」



 初めて聞く彼女の声は、どこまでも澄んでいて綺麗だった。しかも家名とはいえ自分の名前を呼んでくれた!何と嬉しいことだろうか!

 にこりと笑いかけてくれた顔もとても可憐で、俺は見惚れてしまった。

 


 彼女は、見惚れて動かないでいる俺の隣にすっと座りこちらを見ると、



「ルフナー様、お言葉に甘えて、お隣に座らせていただきますね。」



と笑顔で声をかけてくれた。



 それなのに俺は、



「はい、どうぞ。」




 とその一言しか返すことが出来なかった。


 しかも、無表情でだ!


 折角の彼女の笑顔に、言葉に、そんな表情や言葉でしか返せない自分がとても情けなかった。



 しかし、彼女はそんな俺にも終始優しい笑顔で話しかけてくれた。

 俺もあまり記憶はないが、何とか返事を返せていたと思う。





 そんな素晴らしい時間はあっという間に過ぎていってしまった。



 あっという間すぎて悲しくもあったが、おかげでその日の食事は今までの人生で一番美味しい食事となった。多分。

舞い上がりすぎて味など全く覚えていないが、彼女と隣で食べる食事が美味しくない筈がないので、間違いなく人生で一番美味しい食事だった。




 それから、学院内で度々彼女を見かけるようになった。


 見かけると、ついつい彼女を目で追ってしまう。



 先日の食堂での彼女との食事は夢のようなひと時で、もうあんな幸運は訪れない、俺の一生の宝物にしようと思っていた。



 しかし、彼女は俺を見つけるとにこりと笑顔を向けてくれるのだ!



 その何と愛らしいことか!言葉を交わすわけではないが、花が綻ぶように笑う彼女の笑顔はとても魅力的であった。



 そんな笑顔を向けられると、ただの挨拶のような物だと分かっていても、彼女が俺に好意を持ってくれているのではないかと期待してしまいそうになった。




 そんな期待が頭を過ぎる度に、何を馬鹿な事を考えているんだと自分を叱責した。



 彼女のような可憐な高嶺の花が、俺のような無骨で垢抜けない男に好意を寄せる訳がない、思いあがるのも甚だしいと何度も何度も叱責した。



 そうしないと、叶わない夢を見てしまいそうだったからだ。



 その叶わない夢はとてもとても甘く魅力的だった。叶わなくても良いから、見続けたいと思ってしまう程には魅力的だったのだ。








 そんな魅力的な夢に翻弄されていたある日の休み時間に廊下を歩いていると、中庭で彼女の声が聞こえた気がした。



 しかし、聞こえた彼女の声が食堂で聞いた声とは違い怒りを含んでいるように聞こえ、どうしても気になってしまい、駄目だとは思いつつも俺は中庭へと向かった。





 すると、中庭からはこんな話し声が聞こえてきた。




「あなた方が仰っている事の意味が全く分かりませんわ。ルフナー様はあなた方とは比べ物にならない程素敵な方ですの。大柄で筋肉質な体躯は頼りがいがあって素敵ですし、お顔だって少し強面な所はありますが笑顔は可愛くてずっと側で見ていたいと思う程魅力的ですの。性格だって、明るく素朴で思いやりがあって優しくて、ルフナー様は将来きっと素敵な旦那様になられますわ。あなた方とは天と地程の差がありますの。分かりましたら、もう私に声をかけないで下さいな。」



 彼女は怒りを滲ませた声で彼女を囲んでいた令息達にそう言いきると、くるりと向きを変え歩き出そうとした。


 その向きを変えた方向は俺のいた方向で、そこでようやく俺がいた事に気づいたようで俺と目が合うと顔を真っ赤にさせて固まってしまった。



 俺には話の内容が分からず、何も言えず動けないでいた。



 しかし、暫く固まっていた彼女だが、はっと我にかえったのか、慌てた様子で俺に話しかけてきた。



「ルフナー様!どこから聞いていらっしゃいましたの?!」



「申し訳ありません。立ち聞きするつもりはなかったんです。そこの令息達に、彼等の言っている意味が分からないと言っていた所から聞いていました。」



 すると彼女はただでさえ真っ赤な顔を更に真っ赤にさせて、



「も、申し訳ありません!一度しか話した事のないルフナー様のことを勝手に話してしまい、さぞご不快に思われた事でしょう!けれど、あのように思っていた事は本当ですの!ルフナー様が魅力的であると思い、感情が昂りついあのように話してしまいましたの!私のことを気持ち悪いと思われるとは思いますが、どうか、嫌わないで下さいまし!」


と言われてしまった。


 俺の頭の中では、彼女が令息達とした話の内容も分からずかなり混乱していたが、彼女が俺の事を魅力的だと言ってくれている事だけは理解できた。


 そんな夢のような事があってもいいのかと思ったが、混乱した頭の中はただただ喜びの感情が溢れていた。



 だからだろう。俺はあろうことか彼女の前に跪き、



「嫌うなんてとんでもないことです。フィスター様にそのように思っていただけて気持ち悪いなどと思う事はあり得ません。寧ろ、これ以上の喜びはないでしょう。私の方こそ、フィスター様の事をとても魅力的な女性だと思っているのです。フィスター様より身分も低く、田舎貴族の私ですが、フィスター様さえよければ、私と結婚して頂けないでしょうか。」



と求婚してしまった。


 言ってしまってから、俺は酷く後悔した。いや、後悔はしていないか。

 しかし、もう少し順序があったのではないだろうか。

 彼女が俺の事を魅力的に思ってくれていたとしてもそれは恋愛的な意味ではなかっただろう。その気持ちが少しでも恋愛的な気持ちになるよう努力し、そこからやっと婚約の打診をして、了解を得てからお付き合いをして、やっと求婚できるのだろう。

 その色々な間をすっ飛ばして俺は求婚してしまったのだ。しかも、学院の中庭で見知らぬ令息達の前で。

 はっきり言って、ムードも何もあったものじゃない。むしろ、マイナスの要素しか思い浮かばない。何と滑稽な求婚であろうか。

 しかし、言いたくなってしまったのは事実であり、言ってしまったものは取り消せない。

 もうどうとでもなれ!と俺の頭の中は大混乱状態だった。



 しかし、盛大に振られると思った俺の予想に反して彼女は声を震わせながら、



「ほ、本当ですか?ルフナー様!こんな私をお嫁さんにして下さるのですか?」



「本当です。私はフィスター様、いえ、エレーミア様と結婚したいのです。」



「ルフナー様、もう取り消せませんわよ?私、絶対にルフナー様と結婚いたしますわ!後からやはり嫌だと仰っても、絶対に取り消しませんわよ?絶対ですわよ!」



 と言ってくれた。


 俺は信じられないくらいに嬉しくて夢じゃないかと思った。


 そして、これが夢ではないのだと確認したくて、



「エミーリア様、抱きしめさせてもらってもよろしいでしょうか。」



「も、もちろんですわ、未来の旦那様。」




と頬を赤らめながらも優しく微笑んでくれた彼女を、出来る限り優しく抱きしめた。



 初めて触れた彼女は驚く程小柄でふわふわしていい匂いがした。






 それから俺は、彼女ことエレーミア様と婚約した。



 彼女の実家である公爵家へと婚約のお願いをしに行く時には、緊張で胃がどうにかなってしまうかと思ったが、フィスター公爵家の方々は意外な程好意的でいてくださった。


 寧ろ公爵様本人は、


「相手が君なら問題ない。娘を宜しく頼むよ。少々お転婆ではあるが、娘を幸せにしてやって欲しい。」


と優しく仰ってくださった。

 


 そこから話はとんとん拍子に進み、すぐに婚約となり、俺の学院卒業後には彼女の卒業を待たずに結婚する事になった。


 俺は彼女の卒業まで待つと言ったのだが彼女は、



「早くニコライ様のお嫁さんになりないんですの。」



と言って、俺の卒業後すぐに結婚する事が決まった。



 そんな風に言ってくれる彼女がとても愛おしくて愛おしくて、俺は明日死ぬんじゃないかと不安になるくらいだった。



 だが、俺は明日死ぬ事もなく、ただただ幸せな毎日だった。



 結婚してからは更に幸せで、いつまでも可憐で愛らしい奥さんと共に幸せに暮らす事ができたのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


素直で素朴な伯爵令息視点はこれで終わりです。


次は、色々隠しているけれど、純粋にニコライが大好きで何とかお嫁さんになりたい公爵令嬢エミーリア視点を書いていきたいと思っています。


次話も読んで頂けるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ