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今回はセラン視点です。
「おい、セラン」
「お父様、何かご用ですか?」
「ああ。少し俺の部屋に来てくれ」
お父様に数日ぶりにあったと思ったら、急に部屋に呼び出される。
こんなことは過去にはなかった。お父様はいつも私には関心がなく、いつも自室か兵舎で鍛錬か書類仕事をしている。ごくたまに会っても、よそよそしい挨拶を交わすだけだったのに。
緊急事態だと、将軍の娘の勘が告げた。
まあ緊急事態と言ったって、せいぜいスパイか何かのために利用されるだけだろう。全く、いつもは放置する癖に都合よく利用しやがって。
お父様について、屋敷を歩く。
数分先のことを考えたが、多分良いように使われるだけだろう。
「セラン。お前、カザンハードの姫に会わなかったか?」
「カザンハード王国の第二王女、アムリア・クラウ・ノズ・フィアレント・ザスト・カファトリムルアのことですか。姫本人には会っていませんが、おそらく姫の使いであろうコンジョウアツキには先日会いました」
席に着いた瞬間、鋭い声で問いただされる。
私のいうおそらくは、間違いなくと受け取ってもらっても構わない。
カザンハードにたまに転生者が現れることは知っている。内通者によって転生者のリストも手に入れてある。その中には、コンジョウアツキという名もあった。彼の言動や知識などを考えても、転生者本人で間違いない。
そして、転生者の前世の娯楽の情報をアムリアが集めていることも知っている。アイドルとやらも娯楽だろう。
となると、彼は姫の使いと考えられる。いや、そうとしか考えられない。
姫の使いのことはよく覚えている。
記憶力は良い方だし、使いは超のつく変人だったから。
ここまでなら、お父様の耳にも入っているだろう。問題は、その先だ。
「お前はなぜ姫からの誘いを断った?」
不満そうにお父様が言った。
今の言葉を意訳すると、お前はアイドルとやらになれ、ということだろう。
お父様の言うことは絶対だ。私が逆らったらどうなるかわからない。本当に最悪だ。
その思いは隠して、私は物分かりの良い優等生ぶる。
「私の間違った判断で断りを入れてしまい申し訳ありません。今すぐにでも、姫の元へ潜入する準備をいたします」
「ああ。早いに越したことはないからな。お前はアイドルになり姫の元に潜入して、城の造りや兵士の力量、財政や兵の配置、結界の強度など、この国にとって有利になる情報は全て持ち帰れ。お前にこの国の未来がかかっているんだ。是非頑張ってくれ」
「私には勿体無いお言葉です。ブレイア王国のためならこの命も惜しくはありません。精一杯貢献させて頂きます」
このやりとりが阿呆らし過ぎて鳥肌が立ってきた。
どうせこのミッションにはお前の出世しかかかってねーよ。国のためとかなんとか言ったって、どうせ軍幹部の地位が欲しいだけだろ。
精一杯貢献?お前のために捨てても惜しくない命なんてあるわけないのに。
それに、姫の使いは楽しそうだった。こんな国同士のしょうもない争いで、せっかく姫たちが作っているアイドルをぶち壊したくなんてない。
夢中になれる何かがあって羨ましいと言ったが、あの言葉は本気だ。
「じゃあお前は魔法学校は続けながら、姫の元へ潜入してくれ。数週間ずつ潜入と学業のローテーションで回せ」
「了解致しました」
おいおいおいちょっと待て、私の休みを返せ。
自分で了解しておいてこう言うのもおかしいが、週一日の休みと貴重な下校後を異世界の娯楽に捧げられるか。
自分の娘が魔法学校中退なんかしたら外聞が悪いのはわかるが、少しは私のことも考えろ。そんなハードスケジュールなんてやってられるか!
「では明日からでも潜入開始だ。よろしくな、セラン」
そう言うと、私は邪魔だとばかりに退室を促される。
最悪なことに、明日から潜入。
自分の部屋に戻ると、どっと疲れが湧いてきた。
ここからカザンハードの城までも早い馬と高度な魔法を使っても一週間はかかるのに、それを何回繰り返せば良いのだか。
私はため息をついた。