第一章 第七話 上位ゴブリンと王位ゴブリン
レベルが上がり追跡スキルもあるため、急ピッチで跡を追う。
森の中を十数分走り続けると、ぽっかりと開けたところでゴブリンたちを見つける。
座っているゴブリンも多く、どうやら休憩をしているようだ。気配を殺し、様子を伺う。
(普通のゴブリンが50匹くらいいるな。他にはメイジが5匹、ソルジャーも5匹か)
中央に女子供が20人ほど倒れている。外傷はなさそうで眠らされているようだ。
(さて、どうするか。このまま突撃しても村人を盾にされると厄介だな…。)
戦略を考えるも急には何も浮かばない。
(村人のフリをして襲ってきたら逃げてみるか?)
ゲームでいうところの釣りだ。レベル上げをしようとパーティを組み、釣りをするのは遠距離攻撃持ちだと最初に教わり、それからずっとパーティ戦では釣り役をしていた。
釣りを行うのはそれに、慣れている者がするのが安心安全である。
(剣士だろうがここはリアルな世界なんだ。石でも投げれば何体か釣れるだろう)
安全マージンを取り石を投げることにする。
少年時代、親から強制的に野球クラブに入れられ、せっかくの土日がいつも消えてたなと思い出し、ふつふつと沸いてくるこの恨みを今ここでゴブリンにぶつけてやろう!
硬球と同じ程度の手ごろな大きさの石を拾い、腕を振りかぶり全力で投げつける。
(くらえっ!!)
ビュオッ
バキィッ!
全力で投げた石は時速250kmを超え、ゴブリンメイジの頭にヒットする。
その一撃で頭が陥没し倒れる。
(え! すごっ! 力が上がるとその辺の石ころだけで武器になるのか)
「ギギャッ!?」
ヒバリは自身の姿を晒し、注目を受けた上でゴブリンたちとは反対に走り出す。
「「「グギャーーーッ!!」」」
ゴブリンたちは一斉にこちらに走り出す。そこそこ釣れたかなーと確認のため後ろをチラッと振り返る。
半分くらい釣れればいいなと思っていたが、なんと全てのゴブリンが釣れてしまった。
(こ、こんなに来られたらさすがにやばいかも……やっぱゲームと違って上手く行かないな……)
失敗したかな、とも思ったが一目散にこちらに向かってくるゴブリンたちを見ると案外そうでもないかな、と思えてくる。
(それにしてもゴブリンは戦略とかなく本能のまま動くんだな)
考えながら走っているとメイジが放った魔法ヒバリのすぐ横の木に当たり炎が弾け、火の粉が飛んでくる。
「うわぁあっつ!!」
反射的に振り返るとすぐ後ろにはゴブリンソルジャーが5匹いた。
ゴブリンソルジャーはショートソードを持っているのが特徴だ。
力もありスピードも速く、剣術スキルを持っていて、動きも俊敏かつ流暢である。
(うお……思ったより速い! だが他のゴブリンと離れすぎだ!)
先行しすぎていたソルジャーたち。ヒバリはここぞとばかりに後ろに振り返り、剣を構える。
二次職の剣士となったことでステータスが大幅に上がり、剣術スキルも取得しているヒバリにゴブリンたちが敵う道理はない。
ソルジャーと言えど力と素早さが上がっただけだ。元々スペックの高いヒバリからすると、連携を取らない同程度の相手なら、囲まれない限りこちらの方が強いと確信を持って言える。
これも死戦をくぐった経験則からくるものだ。
ゴブリンソルジャーが飛びかかってくる。
まず両手持ちで一振り。正面の1匹を一撃で仕留める。残り4匹。
そのすぐ後ろにいた2匹目には片手の斬り返しで首を狙うが、ショートソードでガードされる。
右足に力を込め、グッと力づくで斬り付ける。残り3匹。
3匹目は左から飛びかかってくる。2匹目を斬り倒したあと、勢いのまま体を回転させ後ろ足で3匹目を蹴り上げ遠ざける。
4匹目は正面から横に剣を振るってくる。
体を捻りながらバックステップを行い、後ろから狙ってきていた5匹目を両手持ちで下から斬り上げる。残り2匹。
その斬り上げた剣を正面に向け、4匹目に叩き下ろす。残り1匹。
体勢を崩していた3匹目にとどめを刺し、ソルジャーを殲滅する。
まさしく秒殺である。
その後、ゴブリンメイジ、ノーマルゴブリンを難なく殲滅。
村人を救出するため、先ほどの広場へ向かう。
到着すると現場は血の海だった。ヒバリは一体どういうことだと頭を抱える。
(ぜ、全員死んでる? 女も子供も……な、なんで……)
絶望感に打ちひしがれていると、全身を衝撃が襲う。
ッガン!
(ぐっ……は……!)
その衝撃は強く、剣士であるヒバリは100メートルほど吹き飛ばし木に叩きつけられる。
ゲハッ!
口から血が吐き出される。頭も揺れ、朦朧とする。
(な、何が起きた……? 攻撃されたのか……?)
必死に現状を把握しようと思考を巡らせていると。
「オマエ、ゴブリン、コロシタノカ?」
不気味な声だが言葉が聞こえ、顔を上げる。
目の前には3メートルを超える痩せ型のゴブリンがいる。
痩せ型ではあるのだがやたら筋肉質だ。
部分的に金属の防具を纏っており、これがキングなんだな、と確信する程の覇気がある。
声の主は持っている2メートルは下らない太い棍棒でヒバリ吹き飛ばしたあと、素早さのみでそれに追いつき声をかけているのであった。
「オマエ、ノセイデ、ゴブリンヘッタ。コレカラ、フヤシテイク、ハズダッタノニ」
このゴブリンキングは計画的に村を狙っていたのだ。体はほとんど動かない。
HPを確認する余裕もない。おそらくそれは残りわずかだろう。このまま死ぬしかないのか。
「コタエナイナラ、イイ。シネ」
ゴブリンキングが棍棒を振り上げる。
(俺は死ぬのか? 少し強くなったからといって調子に乗るべきではなかったな…………どうせ死ぬならせめて一撃与えよう)
残る力を振り絞り一撃目の棍棒を避ける。棍棒を全力で振り下ろしたため、キングに一瞬の隙が出来る。
何も考えずただ目の前の敵に一撃入れるため飛びかかる。
「ぅ……ぉぉおおお!!!」
心臓を目掛け持っている剣を突くように動く。無意識にスキルを発動する。
本来なら横薙ぎのスラッシュであったが、突きの動作により前へ、自分の力以上に鋭さの増す突きが出る。
ゴブリンキングは回避しようと試みる。だが発動したスキルは速く回避が間に合わなかった。
渾身の力で突いた剣はキングの回避行動により心臓ではなく、体の中央に突き刺さる。
貫通はしなかったが、それなりに深くはさせたつもりだ。
「グァ……ギギァ!!!!!」
(やっぱりダメだったか……だが、それなりの傷は負わせた。当面は動けないだろう)
同時に棍棒が左から音を置いて迫ってくる。
バゴンッ!!
凄まじい勢いで吹き飛ばされる。50メートルほど真横に飛んだあと地面に落ちさらに飛ばされ、勢いのまま地面に擦られながら止まる。
手足はあらぬ方向へ折り曲がり、目は虚に閉じてゆく。血を吐くことも出来ない。
(もう痛みも感じないな。目も開かない。声を出すどころか何も音が聞こえない。終わったな……)
…ズズンッ…
振動が伝わる。
『エクストラスキル =起死回生= を発動します。』