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第三章 第十三話 第二十階層




 中に入ると今までと同じ草原だった。


 違うのは時間帯か、夕焼け空である。


 


 遠目に見えるのはデスマンティス、いや、あれはキマイラマンティスだ。


 ベースはデスマンティスだが、体は倍以上に大きくキマイラという名の通り、別々の魔物が混ざって異形のものと化している。

 背には巨大なブルーホークの翼、ひと回り大きい大鎌は計4本、尾からはシルクキャタピラーの糸を出す。


 レベル5ではあるが、ハッキリ言ってレベル6より倒しにくい相手である。

 攻撃力、素早さ、デバフ、対空戦闘、さらには高耐久を誇る。

 同じくレベル5にキラーマンティスという魔物がいる。姿形こそデスマンティスと大差ないが、若干スマートになっており、素早さ特化で隠密持ちの魔物だ。

 ヒバリは、出てくるとしたらこっちがくるだろうと予想していたがどうやら外れだったようだ。




 出てしまったものは仕方ない。


 このあとは帰るだけだ。


 全力で潰すとしよう。




「全員、扉付近で待機。動くなよ。狙われたら一瞬で死ぬぞ」


 若干脅しておくと、全員が蒼白になり首を縦にぶんぶん振り出した。

 この様子なら大丈夫だろうとキマイラマンティスに向き直す。


 まずは扉から離れ、注意を自分だけに向けさせる。

 歩き出すとキマイラマンティスも警戒し、戦闘態勢に移る。




 先制あるのみだ。

 

 ヒバリが剣を掲げると光が集まってくる。

 

 力を込め、敵に向けて振り下ろす。


「アトミック・レイ!」


 今まで以上に光が凝縮されており、敵に向かう光はより細かく、大きくなっている。


 光を追い、キマイラマンティスの姿を探すと両脚が消滅してはいるが、未だ戦意衰えず空に飛んでいる。


 跳躍から一閃を行おうとすると、糸を吐かれる。


 が、纏っていた絶星のうち、火の剣がそれを全て退ける。

 同時に水と風の剣がキマイラマンティスに向かうが大鎌で防がれてしまった。

 だが、大鎌も無事では済まず半分以上欠けてしまっている。


 ヒバリの跳躍の進路から逃れるように飛び去ろうするキマイラマンティスの背中に雷の剣が突き刺さる。

 全身を電流が走り、痺れさせたキマイラマンティスは一瞬の隙を作る。


 跳躍の進路上から逃れてしまった敵に対し、最後のとどめを行うべく、スキルのモーションに入る。


 そして光の剣が空中で静止、光の剣の腹に片足を付き、進路をキマイラマンティスへ変えたところでとどめを刺す。


「サザンックロス!!」


 体中が細切れになっていくが、ダメ押しだ。


 絶星のうち、残った氷と闇の剣をキマイラマンティスに突き刺す。




ストンッ




 軽い音で着地したヒバリはキマイラマンティスの残骸が降ってくるのを見上げている。


 魔石を見つけ空中でキャッチ。


 こぶし大の緑色の魔石を手に入れた。




「うおおおっ!! なんっすか! 今の!!」


「ヒバリさん、もはや英雄並ですよその強さ!」


「あなた、とっても強いのね! ここまで強いとは……私も驚きだわ」


「……助かりました。ありがとう」


「お兄さん! やっぱ私と付き合お!」




 ガングが今までで一番長く喋っていて、それに気を取られてしまった。


「ああ、感想はいい。まだまだ強さは足りないと思っているからな。あとサーシャ、結婚はしない」


「ガーンッ……」


「俺もそろそろ疲れてきてはいるんだ。早く帰ろう」


 そう言って魔法陣を探し始める。


「ちょっと! これ見て!」


 マリが今までで一番大声で叫び出した。

 何事かと思い、声の方に急いで向かう。


「わっ! ビックリした……来るの早すぎるわよ」


 そりゃ叫ばれれば来るだろう。


 マリが指差した方を見ると、宝箱が落ちていた。

 ちょうどキマイラマンティスを倒した位置のため、ボスドロップということだろう。


「とりあえず開けるか」


「待って! 罠かも知れない……」


 そう言われればそうだ。ボスドロップに罠はないが、マップに落ちている宝箱には罠がある。

 大抵が毒や睡眠などの効果が発動されるが、稀に別の階層に転移するものもある。


 だがここはボス部屋である。罠はないはず。


 ゲームの経験上のため言い切るほどの自信がない。


「おっ! 宝箱じゃん! あっ、ヒバリさんのっすね! 罠確認しますよ」


 ザックがやってきて慣れた様子で宝箱を確認する。


「罠はないですね、開けて大丈夫っす!」


 やはり罠はなかった。

 大して期待もせずに中を開ける。


 中にはミスリル製のショートソード、短剣、小盾。それに加えて指輪や髪飾り、キマイラマンティスの素材が入っていた。


「大したものじゃなかったな」


「いやいやいや! ヒバリさん大金持ちっすよ!?」


「どうした? おおっ、財宝……ッ!!」


「いや、ヒバリさんがこれみて大してものじゃないって言ってて……」


「ヒバリさん! これだけあれば普通の一般人はもう裕福に暮らしていけますよ」


「そうなのか、欲しければ持っていけばいい。俺は全て使わない」


 現時点で色々な魔石やシルクキャタピラーの絹糸がある。

 レベル10になるまでのお金があればそれでいい。


「これを!? くれるですって!?」


「ああ、このミスリルの小盾なんかアルフレドが使えばいいだろ。ほらっ」


 盾をアルフレドに渡す。


「いや、貰えないですよ……」


「こっちの短剣はザックだな」


「いいんすか! やった! ミスリルの武器だ!」


 ザックは素直にテンションが上がっている。


「おーいっ! なんかあったのぉー?」


 少し遠くからサーシャとガングが走ってくる。


「ああ、戦利品を分けているところだ」


「ちょっとヒバリさん、戦利品を分けるって……僕ら何もしてないんですよ!?」


「だが俺はいらないぞ?持って帰るつもりはない」


「え、えぇ……」


 じゃあ、ありがたく、と言い戦利品を確認し出すアルフレド。

 

「ねぇねぇ、お兄さん。私には何をくれるのぉ〜?」


 サーシャがおねだりをしてくる。

 そんなことしなくても勝手に拾えばいいものを。


「そうだな、ならこれでいいんじゃないか?」


 手に取ったのは黄金のティアラ。売ればご飯食べれるぞと言って渡した。


「そんな食い意地張ってないよ私っ!」


 ぷんぷんと怒り出すも、ありがとうと言い頭に付けて他の戦利品を確認しに行った。




 そんなこんなで5人は戦利品でホクホク顔をして、疲れも吹っ飛んでいる様子だった。

 





 特に忘れ物もなく、魔法陣に向かい全員で乗ると一瞬で入り口の魔法陣に到着した。


「じゃあな、これからは11階層以降はいくなよ。帰れなくなるからな」


 そう言って足早に立ち去る。




 魔石などの売却は明日にし、早く帰ってご飯と大浴場に行きたかった。


 翠の夕暮れ亭に早足で向かい、到着すると荷物を部屋に置き、すぐさま大浴場に入った。




「ふぁーッ! 疲れも飛ぶなぁ……」


 時間は夕方である。まだ人もまばらだが、他の客も利用していた。

 外の露天風呂は大きさもそこそこに風が冷たく非常に気持ちがいい。




「なぁ、そういや、あれ、聞いたか?」


「何がだ?」


「凄腕の剣士が一人でダンジョンに潜っている話さ」


「いや、知らねえがそれがどうしたってんだ?」


「その腕前が半端じゃないって話さ、余裕の一振りで魔物が爆散したって聞いたぞ」


「それ本当かよ! だったらパーティにでも入れてもらいてぇもんだぜ」


「ホントだな、付いていくだけで金が稼げそうだぜ!」




(ほう、そんなに強い剣士が俺以外にもいたのか。是非会ってみたいもんだ)


 噂話だろうと思っているヒバリは、まさか自分がその噂の渦中にあることに気付かない。

 いずれこの街全体に広がる話である。




 もう小一時間、湯船に入り続けているヒバリだが、一向に出る様子がない。

 中に入ってくる他の客が代わる代わるしているが、全く微動だにしない。

 時折り入ってくる会話に聞き耳を立てるだけで、常時無心になっている。




「久しぶりの風呂だぜ! ひゃっほう!」


「おい、風呂場で騒ぐなよ」


「……転ぶぞ」


 どうやら3人組の若者が入ってきたみたいだ。

 あんまり騒がれると耳障りだなと思いながらも顔を上に向けて手拭いを被せ、無心になる。


「おい! 体を洗ってから入るんだ」


「なんだよ、ケチくさいなー。だからアルはモテないんだぜ!?」


「おま!……ほっとけ!」


「………………」




 (騒がしいな…………まぁすぐ出て行くだろう)


 



「オイ……あっち行ってみないか……」


「ばっ……あっちは女湯だぞ、ダメに決まってるだろ」


「………………行く」


「おっ、イケる口だなっ」


「ちょっ、ダメだってば……」




 この3人組はなんだかんだ言いつつも女湯を覗こうとしているようだ。

 位置的にはヒバリが背を持たれている側。


 被害を受けては堪らない。

 前回も過失0の被害にあったばかりである。


 場所を反対側に移動し、彼らを見つけるとすでに3人分の肩車で壁を超えるところだった。

 

よく見ると見覚えのある奴らだ。






「お前らかい!」






 突っ込まずにはいられなかった。


「……ぬっ」


「えっ!?」


「う、わぁ」


 3人組は崩れ落ちていった。


 一番上にいたザックは腰から落ち、悶絶している。

 レバーを打ったのだろう。

 アルフレドはザックからかかと落としを食らい伸びている。

 ガングは無傷。さすが盾騎士。


「…………探していました」


「俺をか?」


 ガングに話しかけられ驚いてしまう。




「あぁ〜! お兄さんいるじゃんっ」


 壁の上からサーシャが顔を出し、ニコニコしてこちらを見ている。


「ちょっとサーシャやめなさいよ!」


 マイの声も壁の向こうから聞こえる。




 結局すぐに別れたばかりの彼らと会うことになってしまった。





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