第三章 第五話 ハプニング
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ギルドを出てから宿屋へ向かう。
「確か、翠の夕暮れ亭だったな」
教えてもらった報告に進み、看板を確認しているとそれらしい宿屋を見つけた。
入り口に小さく"翠の夕暮れ亭"と書いてあった。
「ここだ、結構でかいな……清潔感もありそうで期待出来そうだ」
扉を開け中に入るとロビーと受付があった。受付に向かうと妙齢の女性店員が受け付けてくれた。
「いらっしゃい、この時間だと宿泊です?」
「ああ、ダンジョン攻略の間、長期になるだろうが世話になりたい」
「初見の方は前金でもらってるけど大丈夫ですか?」
「問題ない、とりあえずこれで。飯はなしでいいが、ダンジョンに向かう日はここを出る前に携行食を用意してくれると助かる」
そう言いながら袋に入った金貨10枚ほどを渡す。
「いきなりこんなに!? ずいぶん儲かってるんですねー。ダンジョン許可証を持ってるんですか?」
「そうだ、これで何日分になる?」
「そうですね……一日一回携行食の用意をしたとして、それを含めると……約2か月と少しってところですが多めに先払い頂いてるので70日で!」
宿の相場はわからないが、サービスをしてくれているようだし、個人的には納得出来る金額のため、それでいい、よろしく頼むと答える。
「ウチの名物の大浴場は常に開いてるから入りたかったらいつでも入ってくださいね!」
なんと大浴場があるらしい。
この世界でまともに風呂に入っていなかったヒバリは体を休ませるため、部屋に案内されたあと早々に大浴場へと向かった。
「ふぅ……落ち着く……」
時間も時間だったため、今は貸し切り状態だ。
(今日は色々と話しすぎた気がする……情が湧くと後が辛いから嫌なんだよな……)
仲間だった3人を思い出す。彼らは短い間ではあったが自身を慕ってくれ、仲間だと言ってくれた。
そして殺された。見るも無残に、目の前で。いくら会いたくても今はもう絶対に会えない。
早くスキル戻りして彼らに会いたいな、と思っていると大浴場のドアが開く音が聞こえた。
(まぁ宿泊施設の大浴場じゃ誰かしらいたっておかしくないもんな)
そう思って顔に手拭いをかけ、上を向いていると、ちゃぷんっと中に入ってきた音がした。
あんまり近くにいるのもな、と思い手拭いを外し相手を確認してから離れようとした。
「………………ええぇッ!!?」
「〜〜〜ッッッ! キャァーーーッ!!」
さっきの獣人受付嬢だった……。
「うわっ! ご、ごめん! ちょッ…桶投げないで……痛ッ!」
パニックになったのは何も相手だけではない。闇落ちしたかに思われたヒバリも予期せぬ出来事に若干パニックになってしまった。
顔面に向かってくる桶すら避けれない程に。
出るときは最速。一閃の消えるモーションに近い動きで浴槽から消えていった。
(……いや、でも俺、入るとき男湯の確認したよな?)
念のため手拭いを腰に巻いたままで外に確認しにいく。
(……やっぱ男湯じゃねーか! てことはさっきの獣人が間違えたんだな!)
注意しに行こうとすると屈強そうな男たちが3人通路から近づいてくる。
(あの3人、これから風呂入るのか? クッ……どうする!?)
一瞬3人を気絶でもさせてやろうかと思ったが、善良な人間に対して暴力は振るえない。
(真っ当に事情を説明するか? いやコイツら冒険者だろ、ギルドの受付嬢だとバレたら可哀想だ。なら、受付嬢を隠すか? 3人が出るまでバレないようにずっと? 無理だ……そういうときは絶対バレるもんなんだ……)
詰んだ。解決案が見つからない。せめてここが男湯であることだけは伝え、あとは任せようと思い、急ぎ浴場に戻っていく。
ドアの前に立ち、声をかけるが返事がない。というか気配がなくなっている。
浴場へのドアを開いてみると、中には気配がなくなっていた。
なぜか背後に若干の気配を感じ、手を伸ばす。
グイッ
「えっ?」
ダァンッ
今は全く油断はしていなかった。冷静であったし何も問題はなかった。
だが気付けば体を投げられ、仰向けに大の字になっている。
(な、なんだ!? 後ろに気配を感じたと思ったら急に背負い投げみたいなのされたぞ……)
気配察知のスキルを持ち、天聖のステータスがあるヒバリに対し、気取られることなく投げ技を行える人間がいる。
絶対あの受付嬢だろ、と確信しているヒバリだったが、唐突に声をかけられ現実に戻る。
「お〜い、あんちゃん! のぼせたのは分かるがそこで寝られると俺らが風呂入れねーぞー」
さっきの3人組だった。
翌日、ダンジョンに直行しようとしていたが、昨日の一件もありギルドに顔を出すことにした。
まず間違いなく高レベルなはずだと確信している。それならばと次回のスキル戻り後に仲間に出来ないかと思っていた。
ギルドに入り受付に向かうも昨日の獣人はいなかった。
「昨日、獣人の女性に担当してもらったんだが今日は休みか?」
他の受付に声をかける。すると受付の下から猫耳が生えてきた。
(猫耳出てきた……これって隠れているつもりなのか?)
「ミリアのことですか? 彼女なら今日は別件ですが、どういったご用件ですか?」
なぜかかなり警戒されている。
(そこにいるのは違うのか……? それにしても今日は気配がダダ漏れだ……とりあえず誘き出してみよう)
「いや、昨日のことなんだが、どうやら彼女に迷惑をかけたようなんだ。それを謝りたくてね」
「昨日のこと……? それはどういったことでしょう? 私から伝えておきますので」
「不在なら仕方ない、実は昨日、彼女に紹介された宿で大浴場に入ってた時のことなんだが……」
「うわぁぁあ! いますよ私! 大丈夫です! どうしましたか!?」
ものすごい勢いで飛び出してきた。きっと風呂場でのことは話されたくないんだろう。
「あれ、ミリアいいの?」
「あーはい……もういいです……」
ミリアはうなだれながら何の用でしょう?と不機嫌そうにこちらを見てくる。
そして、彼女を鑑定する。
称号:[転生者]
名前:ミリア
職業:上忍
レベル:5
ランク:B
HP:352/352
MP:183/183
STR:160
INT:147
VIT:155
AGI:680
EXP:2,159,805/6,250,000
スキル
<体術:5>、<短剣術:5>、<二刀流:10>、<投擲:5>、<忍術:5>、<回避:5>、<隠密:5>、<追跡:4>、<魔法耐性:3>、<礼儀:5>
職業スキル
-盗む-消費MP3
-下忍術-一律消費MP5
-中忍術-一律消費MP15
-上忍術-一律消費MP30
転生者スキル
=忍道=
(転生者を見つけてしまった……とりあえず気になる項目が多すぎる……今は転生者スキルの忍道だけ確認しよう)
=忍道=
発動条件:常時
効果1:職業固定(職業派生が忍系統のみになる)効果2:必要経験値減少(1/50)
効果3:二刀流(初期から二刀流:10)
効果4:隠密ブースト(思いの強さにより自身の気配、音、匂いなどがなくなる)
いつものように考察しようと鑑定画面を見ているとミリアに手を引かれ、画面が消えてしまう。
「ちょっとお兄さんこっちきてください!」
ミリアは怒っているようで、ここでは何もできず、間もなく外に連れ出されていく。
また夜に更新出来ればします!




