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第三章 第四話 第十階層攻略




 第十階層に到達し、ボス部屋に入ったヒバリは辺りを見渡す。


 そこは所々が岩で出来た、作りの粗い神殿のようだった。

 いつかのゴブリン戦と同じくらいの広さがある。


 その中央には1体の魔物が立っていた。

 顔は醜く、悪魔のような風貌、背にはコウモリの羽を生やした2mほどの石像、ガーゴイルだ。

 

 ガーゴイルのレベルは4の下位であるが、石の体の割に小回りが効き、空を飛ぶ。

 魔法が効きにくい上、半端な物理攻撃は通らないため、かなり厄介な魔物である。


 もっとも、これもヒバリの敵ではない。


 こちらを見据え、空を飛び始めたガーゴイルに対して、空剣聖の特性でもある跳躍を行う。

 足に力を込めガーゴイル目掛けて剣を振る。


 跳躍のスピードについて行けず、回避が出来なかったガーゴイルは片側の羽を切り落とされ、地面に叩きつけられる。

 瞬時にガーゴイルへ向かい、目にも止まらぬスピードの連撃を浴びせるとそのまま動かなくなる。


 落ちていた土色をしたこぶし大の魔石を拾い、宝箱のドロップがなかったことを確認する。


「特に苦戦もしないな、一度戻るか」


 ダンジョン攻略開始から現在まで約12時間かかっている。

 食料も持参していたため、まだまだ潜れるが一度買取品の精算と転移魔法陣の効果を試すためギルドに戻ることにする。




 神殿の奥に行くと魔法陣があり、そのさらに奥には降るための階段があった。


 今回は転移魔法陣の上に乗る。すると魔法陣が光り出し、周囲を光りで覆う。






 気付くとダンジョンに入る際に見かけた魔法陣の上にいた。


「……入り口だな」


 階段を登り外へ出るとダンジョンの受付をしていた人に声をかけられる。


「おかえりなさいませ、生きて戻ってこれたみたいでよかったです。いかがでしたか?」


「ああ、特に問題なさそうだった」


「それは何よりです、次は2階層ですか? メンバーの追加はいつでも出来るので、挑む前に声をかけてくださいね」


 心配して気を遣ってくれているのだろう。だが次は2階層ではなく11階層だ。

 それにメンバーは入れるつもりはない。ありがとうと一言だけ伝え、ギルドに戻る。


(受付では魔法陣を使ったかどうかはわからないんだな……)




 すでに辺りは暗くなっており、飲み屋からは騒ぎ立てる音が聞こえてくる。


 ギルドに入り、真っ先に買取カウンターに向かう。

 ギルド内にはバーカウンターあった。そこで酒を出しているようで、室内は少し酒臭くなっている。


「買取を頼みたい……これだ」


 買取カウンターにはルーペを片手に持った背が低そうな50代くらいの男が座っていた。

 声をかけ、魔石と液体を全て置くと、まじまじと魔石を見始める。


「ほほー! これはガーゴイルの魔石か。なかなかガーゴイルは出てこないから貴重なんだ」


「そうなのか、いくらだ?」


 どこでも知人を作る気のないヒバリはあえてぶっきらぼうに買取額を尋ねる。


「まぁそう急かすな。すぐ金を持ってくるから待っててくれ」


 戻ってきた買取担当に、魔石は全て同じではないのか、と聞くと例えば魔法使いの杖に組み込んだ場合、魔法の威力に補正がかかるとのことで、今回で言うとガーゴイルの魔石は土と風属性を持っており、2属性の威力を向上させるという。

 魔石にも色々な使い道があるそうだ。




(インカネートオンラインにはなかった設定だ……ここはリアルな世界だし、それくらいは普通か? いや、やはり全てが同じとは考えにくい)


 まず魔王の脅威があるというのに、人間族のレベルが低すぎるのは明らかにおかしい。

 これだと一方的に蹂躙されるだけだ。


(そもそも俺がこの世界にいるのは、そのバランスを保つためということか? だとしても俺一人いたところでそれが変わるのか?)


 考えに没頭していると買取担当がお金を渡してくる。


「ほれ、買取金だ。色を付けて金貨25枚ある。一応確認してくれ」


 すぐに確認し問題なかったため、「助かる」と一言伝えて買取カウンターを離れる。

 



 当分、この街を拠点にすることになる。宿泊施設を聞くためギルドの受付に向かう。

 ここでも受付は多いのだが、夜のため開いている受付は一箇所だけだった。


「少し聞きたいことがあるんだが、少しいいか?」


「はい、どのようなお話でしょうか?」


 猫耳獣人の可愛い受付嬢だ。ギルドの受付嬢は見た目で選んでいるのだろうか。


「宿泊施設を紹介して欲しい。どこかオススメ出来るところはないか?」


「それでしたら翠の夕暮れ亭がよろしいかと。少し料金は高いですが冒険者用のサービスも充実しており、この街唯一の一日中出入りが自由な宿になります。他の方々もよく利用されていますよ」


 (時間を気にしないで済むのはいいな、そこにするか)


「わかった、ありがとう。今日はそこにする」


「とんでもございません。あ、それとダンジョンにはもう入りましたか? 攻略階層によりランクの昇格もありますのでボス部屋に到達しましたら是非カードをご提示ください」


「ダンジョンに入ったことがわかるのか?」


「いえ、たまたま許可証を提示していたのが見えたので……私たちがカードを見れば攻略階数を確認出来ます。ホントに今日来ていきなり入ったんですか?」


「ああ、すでに10階層はクリアしてきた」


「……またまたご冗談を………………えぇ? 本当なんですか?」


 無言でいると本当なのか、と確認してくる。

攻略階数がわかるならカードを提示するのが早いだろう。


 ほら、と言ってカードを差し出す。


「あ、ありがとうございます……確認してきますのでお待ち下さい」


 パタパタと後ろに下がり何かカードに細工をしている。


 数秒後、ガバッと戻ってきて小声で話し出す。


「一人で第十階層を攻略したなんて聞いたことがありませんよ!? 前代未聞です!」


 小声なのだが相当驚いているようだ。


「それもかつての英雄なら可能だろう。それに各地に点在すると言うBランク冒険者でも出来そうなものだが?」


「そもそもが一人でダンジョンに入る人がいません! とりあえず10階層攻略者ですので、Eランクから昇格の試験を受けて頂ければと思います」


 一人でこれならCランク以上なんですが……とブツブツ言っていた。


「いや、昇格はしなくていい。今はダンジョンにしか興味がない」


 依頼を受けるつもりもなければ、変に悪目立ちして指名依頼なんかでレベル上げを止められても困る。

 今はダンジョンに集中するべきだと考えている。


「えぇ……普通は喜んで昇格試験受けるのに……」


 変な目で見られるが今日はもう宿で寝ようと、また明日くると受付嬢に告げ、ギルドを出て行く。




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