表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/53

第二章 第十八話 再起不能




 戦利品を回収してもらい、全員で荷物を持つ。


 改めて今回の戦いを振り返ると本当にギリギリだった。

 今までもギリギリだったが、今回は仲間が死んでしまう事態も考えられた。




 ゲームならいいだろう。

 たかがデスペナルティくらいは甘んじて受ける。

 だがここは現実で仲間はしっかり生きている。


 たぶん、自分は寂しかったのだ。


 元の世界でも、一人が多かった。

 友達と出かけるなんてこともなかった。

 仕事帰りに同僚と飲みにいくこともない。


 今、一緒にいるのは仲間だ。

 たった数日間だろうが、全員が『仲間』だと思っている。


 すごく嬉しくなり顔が緩む。




「なーにニヤニヤしてんだ〜? あたしの美脚でも思い出してんのか? ん?」


 顔を覗き込みながらそんなことを言ってくる。


「んっ! んんっ!! ヒバリさん。気持ちはわかりますが、そういうのは帰ってからにしてください」


(違うんですけど……)


 レオンを見るとぶふぅと笑っている。




 楽しいな。




「一応言うけど、考えてるのはこのパーティの今後だよ。3人とも今でも強いけど、まだまだ絶対強くなる。その成長を見れるのかな、と思うと楽しみでさ!」




 その時ふっと風が吹き、ヒバリの前髪が上がり笑顔が見える。


「……あっ」


「「…………!?」」


 その顔を見てマリベルが声を出し、残る2人は驚く。







 そして洞窟の出口に歩みを進める。






 洞窟を出るまでに、4人で色々と話をした。


 マリベルがなぜギルドで働いているか。


 レオンは元々貴族の生まれという話。


 リーアがなぜ鍛冶屋にいるか。




 そしてヒバリの強さについて聞かれる。


 それはこの世界の理を知っているからと答えた。


 ゲーム内でもそうだったが、他職の強さやスキルを知っておくと、効率よく攻略出来る。

 ゲームという文言は避け、そう伝える。

 そして今は天聖というレベル6の職業だと伝える。

 今更だが、この世界にはレベルという概念がなかった。

 また上位職へは転職ではなく、評価によりそう呼ばれると言うのだ。

 マリベルが賢者なのに魔道士だと思っていたのはそれが理由である。


「私、もしかしたら……今よりもずっと強くなれるかも知れない。ううん、強くなる。理由はわからないけど、今の私は、すごく、力を制限されているような感覚なんだ」


(それは……なんだろう? レベルキャップ? というのはレベル10以外インカーネートにはなかったよな。この世界にないとも言い切れないけど)


「実は、俺もなんだ……さっき戦っていたとき、俺はこんなもんじゃないはずなのに……もっと強かったはず、と思ってしまっていた」


 レオンも不思議そうな顔で語る。


(……もしかして、転生者で記憶が戻る兆候なのか? 確かに2人とも、単純にこの世界のレベル4にしては強すぎる気もする。わからないな……リーアもそうなのか?)






 リーアを見る。


 ん?リーアがいない。


「あれ、リーアどこ行った?」








ドサッ






「コイツのことか?」




「……は?」




 魔族が目の前にいた。


 黒い肌、黒い服を着ている。


 腰には闇色の剣を提げている。




 事態に追いつかず、魔族の様子を黙って見ていた。


 手にはリーアの頭を持っている。




 魔族の角は白1本、序列1位の魔族である。


 


 この光景に理解が出来なくとも体が勝手に動き出す。


 一気に加速し、魔族に斬りかかる。


 リーアの頭部を盾にされ、すんでのところで剣の動きを止める。


「ほう、速いな。ストライクプレス」


……ッパァアン!


 反対側の手をこちらに向け、魔法を使われる。

 詠唱はなく、予測出来るものではなかった。


 天聖にしてなお、すさまじいと感じる衝撃が全身に走り空気の破裂音とともに吹き飛ばされる。


「ぐぅッ……」


 息も出来ない衝撃を受け、壁に激突する。


 が、すんでのところで壁に向かってバッシュを放ち、自身の動きを止めた。


(リーア……ごめん……ッ!!)


 心の中で謝りながら、魔族に集中する。


「ヒバリ! お前はマリベルを連れて逃げろ! 俺が時間稼ぎをす……」


ズシャァ……


「うるさいぞハエが」


 素早い動きで魔族へ立ち向かったレオンは、ハエ呼ばわりをされ斬り殺された。


「レ、レオン……?? おまえぇ!!!」


 叫びながらまた魔族へ斬りかかる。


 魔族はリーアの頭を投げ捨てる。


「同じことを……バカめ」


 魔族が剣を抜き一振り。


 30cm強の黒い球体が無数に飛んでくる。


 避けたとき、マリベルに当たりそうだと思ったものはあえて全て受ける。


 途端に全身に激痛が走る。


(バカはお前だ! 今の俺なら耐えられるんだよ!)




「何!?」


「マリベル!! 逃げろッ!! サザンックロスッ!」


 魔族に向けスキルを放つ。


「なに……!?」


 だが当たるすんでのところで回避される。

 それを見越して違うスキルを放つ。


「スラッシュ!」


「ぐっ……」


「一閃!」


「なっ!?」


「サザンクロス!!」


(バッシュ! 一閃! スラッシュ! サザンクロス! 一閃! サザンクロス! 一閃! サザンクロス!!!)




 連続してスキルを使う。




「うぉぉおおお!! アトミック・レイ!!」


 枝分かれした光が魔族に降り注ぐ。

 今使える最大火力のスキルだ。


 これで倒せないまでも大ダメージは与えたばずだ。

 振り返るとマリベルはその場でしゃがみ込み、身動きが取れないようだ。


「マリベル!! 早く逃げてくれ!!」


「うっ……うぅぅ……! ヒバリさんを置いて、逃げるなんて……出来ない!」


 マリベルは魔法を詠唱している。


「違う! コイツは無理だ! 絶対に倒せない!」


 言い切るか、その直前にマリベルの後ろに魔族が現れる。




 ヒバリは一瞬で絶望する。




 マリベルのお腹から、闇の剣が生えている。


「ぐぷッ……。ヒ……バ、リさ…………」




「や、やめろぉぉおおお!!!」


 血を吐き、目が虚ろになっていくマリベル。


 それを見て嬉しそうに笑う魔族。




「フフっ、その顔…………イイぞ! フヒヒ」


 気持ちが追いつかない。


 助けたいのにマリベルに近づけない。


 きっと今の俺はひどい顔だろう。




「そうだ、どちらかの命を助けてやろう」


 選べ、とそう言う。




 マリベルは口を開けるも声が出ないようで、ゆっくりと腕を上げ、プルプルと震えさせながらもヒバリを指さしてくる。


 そんなマリベルを見て、どうしようもない感情が押し寄せてくる。


 もうどうしたらいいのかわからない。


 冷静な判断力はない。マリベルを助けたい一心しかない。




「そ、その女の子を……助けて、下さい……」




 ……勝てない。


 目の前の命も刈り取られる寸前である。


 それを阻止出来るなら……と思った。




「フヒヒヒっ。よかろう。よく見ていろ」




 マリベルはヒバリを見つめて口を動かす。


『ア・リ・ガ・……』


ズパッ


「ブブッ……ひゃーっはっはっは! 女の望み通り殺してやったぞ? 感謝しろ!」


 

 

 笑いを堪え切れない魔族は剣を片手に両手を上げ、大笑いしている。


 マリベルは胴を刺されたまま真横に切られ、上下に体が別れてしまっている。






プツンッ






 もう何も考えれなかった。


 考えたくもなかった。








 怒りに身を任せ、鬼神の如き形相で魔族に食ってかかる。

 叫びに叫んだ。ずっと叫び続けていたに違いない。HPやMPの残量など全く気にもしなかった。

 今、この場には俺と魔族だけだ。


 他は? 殺された……。


 誰に? 目の前の魔族に。


 どうする? もう……わからない。




 涙も出ない。


 ただただがむしゃらに剣を振り続ける。


 




 覚えているのは怒ったことと魔族に立ち向かっていたこと。


 それ以外は未だ経験したことのない感情、憤怒により記憶はなくなっていた。






 それから何をしたか、よく覚えていない。


 気付いたときにはオウロ街の入り口にいた。




 魔族は退けたと思う。


 手に彼らが愛用していた武器があるからだ。


 それ以外には何も持ち帰っていなかった。




(俺は…………弱い……ッ!! 強くなければ仲間を持つ資格もない!!)


 俯き、地面に顔を向けるも視線は定まっていない。


(今は仲間はいらない。レベルを上げてやり直そう……)




 いつかレベル10になったとしても、一人では敵わない敵も出てくるかも知れない。


 仲間が不要というわけではない。あくまでも"今は"なのだ。




 そして人間に敵対するものは全て殺す。


 魔物、魔族、魔王。


 特に3人を殺した序列1位の魔族は絶対に許さない。






 スキル戻りに指針を合わせ、ヒバリの物語は進んでいく。







第二章完結です!

明日は第三章をアップします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ