閑話 マリベル視点
また閑話です。苦手な方は飛ばしてください!
私は人が嫌いだ。
なんでかって?
そんなの明確に理由があるわけじゃないけど。
しいて言えば、今まで生きてきて辛いことの方が多かったからかな。
この世界には魔法がある。
修行に修行を重ねた人が会得出来る可能性があるという魔法。
それがなぜか、私には10歳になってからすぐ使えてしまった。
最初は一つの魔法しか使えなかった。
アイシクルロックという魔法だ。
これは直径10cm程度の氷を標的に向かって飛ばす魔法だった。
初めてそれを見た両親は喜んだ。
こんな歳から魔法が使えるなんて、将来は宮廷魔道士かな?
そう言って周りの人もみんな優しくしてくれた。
でもそれは最初だけだった。
喜んでるみんなの期待に応えようと家庭教師を雇われて、友達と遊ぶことが出来なくなってもよかった。
魔道士になるには食事制限も必要だと言われ、美味しい食べ物が食べれなくなった。
修行だと言われ冷たい滝に打たれても、訓練だと言われて色々な魔法攻撃を受けても、頑張ろう、私が頑張ればみんなが笑ってくれる。
そう思っていた。
だが何年経ってもその結果は現れなかった。
指導が甘すぎたと言われ15歳からはより一層厳しくなっていった。
その頃にはもう誰も私に期待していなかった。
修行でも訓練でもない。
体罰だと思い始めた。
両親も私の顔を見る度に悪態をついて来るようになった。
不真面目な子だ、こんなことなら家庭教師なんて付けなければよかった。
才能なんてないなら最初からそう言えと。
そんなのわかるわけない!
私は当時10歳だったんだ!
こんなに無理矢理させられてるのだって誰のせいだ!
みんなのせいだ! みんな悪者なんだ! いい人なんていない! 才能がなければ誰も見向きもしないんだ!!
そして17歳になり家庭教師が二度と来ることはなかった。
両親は多額の請求をされているようだった。
お前のせいで借金したんだ、稼いでこい! でなれば売りに出す、とまで言われた。
だったらもういい。ここには二度と帰らない。
そして冒険者となった。
雑用の依頼などをこなしていき、Eランクになったところで魔物の討伐に誘われる。
家庭教師がいた時代に無理矢理連れて行かれたこともあったため、二つ返事で了承した。
だが、それは罠だった。
男の冒険者たちについていくと、森の奥で身ぐるみを剥がされる。
ああ、私はもうここで死んでやろう。
そう思った。
でも死ねなかった。
なんでだろうか、私は死んではいけない。
強い使命感のようなものが沸いてきた。
街に戻ると親から無心される。
せっかくの一人暮らしなのに。
ウンザリだ。
娘の心配はしないのですね。
もういよいよ、無理かなと諦めようとしていたときに領主がやってくる。
事件の話は聞いている。
借金は帳消しにした。
よければギルド職員として働いてみないか。
ということだった。
借金がなくなり、親から離れられ、普通に暮らしていけるのであればお願いします。と伝えた。
そして生まれた街を離れ、オウロの街のギルド職員として働くことになる。
ギルドのみんなは優しくしてくれた。
すごく働きやすい職場だった。
でももう今から誰かのために頑張ろうとは到底思えなかった。
その日暮らしの生活でいい。
とりあえず死ななければ。
この時、実はすでにレベル3の賢者となっていた。
本人はもう何にも興味を惹かれることがなかったため、その事実に気付くことはなかった。
そして、10年が経つ。
彼を初めて見たのは火山に向かうときだ。
その前にも何回か見てはいるのだが、風景と同じで彼を彼として認識はしていなかった。
顔を合わせると彼は緊張しているようだった。
挙動不審でナヨナヨしているように見える。
襲って来ないならそれが一番いいなと思う程度だった。
火山に向かう途中、魔物を圧倒する彼を見るとずいぶんと腕が立つんだなと思った。
火山で初めて戦うであろうサラマンダー相手でさえも臆することなく私を守るように戦っていた。
そして帰り際に見つけた洞穴に入り、奥にいくとファイアドレイクの群れがいた。
これは死ぬかも知れない、と思うと急に彼に抱きつかれ、そのまま走り出すではないか。
結局そういうことなのか? と思ったが様子がおかしかった。
インフェルノドラゴンがいたと言う。
確かに抱えられたとき、大きな影を見た気がする。
その話を聞いていると、嘘をついているようにも思えず、彼は私のことを守ってくれたのだとそう思った。
そして今、目の前で繰り広げられた対メタルゴーレム戦。
やっぱり私たちを守るように戦うんだね。
そう思って見ていた。
あまりに綺麗な動作に見惚れてしまった。
ああ……
私……
この人のために生きていたんだ……
心の底から、そう感じてしまった。




