第一章 第一話 ゴブリン急襲
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視界がブラックアウトした後、加速感はなくなり今は無音だ。
ああ、俺は死んだのか。
そう思っていると、ボーッとしていた意識が徐々に回復してくる。
(……ん? 死んで……ないのか……? 今のは、なんだったんだ? 暗くて周りも見えない……どうなってるんだ…?)
何も見えない中、視覚以外の感覚を使い気配を探ると何かジメジメとした感覚と湿っぽい匂いを感じる。
シートベルトを外そうと体を動かすと、初めてそこで自分が寝ていることに気付く。
(ベルトがない、というよりシートすらないし俺寝そべってるし)
パニックになりそうなところを必死に思考し、現状の分析を図る。
(墜落事故とかか? いや、飛行機はまだ離陸前だった……。離陸するときの加速で何か苦しくなってきて……。そうだ! 他の乗客達は!?)
目も慣れてきた頃、他の人たちは、と思い付きキョロキョロと必死に辺りを見回す。
誰もいない。
だが耳を澄ますと虫の音、風の音、木々の揺れる音と慣れてきた視界で少しずつここが何なのかわかってきた。
(ここは……森か!? しかもこの暗さ……夜だよな。でも一体なにが起きているんだ?)
月明かり照らす森の中、上体だけ起こし地面に座ったままの剣人は思考を巡らせ、思い当たる節を考えていくがまとまらない。
自分の服を確認しながら、再度辺りを見回す。
(俺以外の人たちはどうなったんだろ? 一緒に転移したのかな?)
普段は一人でいることが多いが、こんな事態だと一人でいることが急に心細くなる。
服は着ているが荷物がない。周りには人もいない。どうすればいいかもわからない。
絶望感の漂う中、死にたくないと本能的に願う。
そんな願いを打ち消すように野太い不気味な声が聞こえてくる。
「グギャギャギャ!」
「グギャッ! ゲギャッ!」
「グギャギャッ」
その声はドタドタと走る足音を立てだんだんこっちに近づいてくる。
(恐っ!! なんだ!? に、にげるぞ!!)
声とは逆方向へ急いで走りだす。
気付けば空が見え、少し明るくなってきている。
振り向くとそこには子供くらいの身長の明らかにゴブリンである生物が剣人目掛けて走ってきている。
(うわっ! こわっ! なんでいきなり3体もエンカウントするんだよ! 落ち着いてから1体ずつだろ普通!)
元々学生時代はスポーツ万能であった剣人はそれなりに足が速い。運動神経も良く、勉強も学年トップレベルに出来ていたが、妬まれたのか恨まれたのか友人と呼べるものは一人も作れなかったのである。
そんな青春時代のせいだろう。
いい年して未だに他人とはまともにコミュニケーションが取れない。
すでに30分くらい走っている気がする。
最初こそ全力で走ってしまったが、度々後ろを振り返り、ゴブリンが諦めるのを待っていた。
その作戦は失敗し延々と追って来られ距離が離れていく様子もない。
(最近運動なんてしてないからもう体力が……。木に登るか!? いや、登ってこられたらアウトだ)
迎え討つにしても武器もなければ相手の戦力もわからない。
この危機的な状況で予想以上に走ることが出来ていたが、さすがにもう絶対絶命である。
(何かスキルとか魔法とかないのかよ!)
異世界に来ていることを確信しているため、試しに、と走りながら右手を後ろに向ける。
「ふ、ファイヤ!」
何も起こらない。
(魔法名が違うとかか? まぁ魔法の使える世界とも限らないし、俺には魔法の才能ないかも知れないし?)
といいつつ息を整えてもう一度。
「ファイヤーボール!」
すると走っている前方に炎が見えた。
(え? あの炎……動かないし、全然違う場所に出てきたし……思ってたのと違う)
同時に前方から男の声が聞こえた。
「伏せろ!!」
ピュンッと音を立て、炎を纏った矢が迫る。
「えっ!?」
反射的にスライディングの要領で地面を滑り矢を躱す。
「ギャッ…」
後ろを見るとゴブリンの頭部に矢が刺さっており即死させていた。それとは別の2体のゴブリンが警戒してか動きを止めていた。
(まじまじ見るとイメージのゴブリンと全く同じだな…。ていうか今!矢が当たるかと思った!)
矢が放たれた前方を見ると少し離れたところに弓を構えた、いかにも狩人といった見た目の男が立っていた。
「大丈夫か!? あと2匹いるからそのまま端っこに座ってろ!」
「だ、大丈夫です。す、すみません。ありがとうございます」
ゴブリン、標的変えたな。
あ、それと言葉通じる。と安堵していた。
お礼を言っている間に残り2体のうち一体の首元に矢が刺さっており、残り1体は刃物を持って狩人に襲いかかっていた。
(あ、危ない!)
刃物が狩人に当たるかと思われたその時。
「ファストスマッシュ!」
狩人は腰のナイフを右手で握っており、素早い動きでナイフを動かす。
ゴブリンの刃物は空を切るのであった。
(今の動き、ほとんど見えなかった……。手に持ってるナイフで切ったのか。あと今スキル名叫んでたよな!? やっぱあるのかスキル! ということは魔法もやっぱりある!?)
今襲われていたとは思えないほど、ワクワクが抑えきれない。
「ふぅ、あんた……見たことない格好をしてるがここで何をしてたんだ?」
ジーパンにTシャツ、パーカーというありふれたファッションスタイルである。
(うわ! どうするんだこういうとき…素直に言っても通じないだろうし……とりあえず……。)
「あの、助けていただいてありがとうございます。実は私自身、記憶がなく気付いたら襲われ逃げていたのです。」
「記憶がない?ホントかそれ?」
「は、はい。ここがどこかもわかりません。それに先程襲って来たのはなんだったのでしょう?」
ここがわからないのは事実だ。話を違う話題にし、これ以上追求されないようにする。
「にわかには信じられないが……。そうか、嘘は言ってなさそうだな……。まぁいい。さっきのはゴブリンだ。少し先にゴブリンの巣があるからそこからきたんだろう。ここは俺の住んでる村とのちょうど間くらいだな。」
(あいだ!? なんてところにいたんだ…。もしかしたら俺はさっきまでゴブリンの巣付近にいたんじゃないか?)
思い出すだけで恐怖に身が震える。
「そ、そうですか。あの、もしよろしければその村へ着いて行ってもいいですか?」
(このままここにいたら死んじゃう!)
「まぁ見たところ何ももたずにここにいたんじゃ野垂れ死ぬのがオチだしな。だが俺は今狩りの途中だ。とりあえずついてきてくれ」
「わかりました。よろしくお願いします。」
狩りに同行することになった。
その間、いろいろと話を聞いた。
狩人の男の名前はハモンド。
妻と子供がおり村では狩人として生活をしているという。
先程のゴブリンは狩りをしているとたまに見かけるが、積極的に倒しているわけではないとのことだ。
ちなみに捕まると巣に連れて行かれ、男は食料に女は繁殖の道具になる。
ゴブリンの巣にはゴブリンキングがおり、その強さは計り知れない。触らぬ神に祟りなし。お互い牽制し合う程度だという。
(え……? それ危なくないか? さっきもいきなり襲われたし。身近にそんな強いやついたらいつやられてもおかしくないんじゃ……)
そう不安に考えているとハモンドから、ゴブリンキングは防衛に専念しており村を出てくることはないから心配はいらないと言われる。
その後、大きいキジのような素早い鳥を3羽仕留め、村へと帰路に着く。
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