第二章 第五話 買取額
ゴブリンとの邂逅から起きた事情を話していく。
異世界からきた、とは言わず当初の設定通り記憶喪失ということにしておいた。
ファサームは怪訝そうな顔をするも、すぐ元の顔に戻る。
「話はわかったよ。ありがとう。それと大剣は買取に出す、ということで間違いないかな?」
遺族に形見として渡したいとのことだったので、でしたらそれは買取ではなく差し上げますと伝える。
「いいのかい? これはミスリル合金で作られた大剣だ。溶かして売ってもひと財産だよ?」
うっ、と詰まりかけるも男が一度あげると言ったんだ。今更やっぱり……とは言えない。
「いえ、いいんです。そういうことであればお金をもらうわけにはいきません」
(ホントは喉から手が出るほどひと財産欲しいです!!)
本音は語らず、心意気だと言わんばかりにうなずく。
「そうか、君はいい人みたいだね。こういう仕事だ。相手をすぐ信用できるわけではないけど、君のことは気に入ったよ」
そう言って立ち上がり肩をポンポンしにくる。
「あ、そうだ。ミケル君、ヒバリ君に買取金を渡してあげてよ。もう査定終わってるでしょ?」
副ギルド長はミケルというみたいだ。
「はい、終わっております。お待ち下さい。」
ミケル君はお金を取りに行ったようだ。
時間があいてからファサームから声がかかる。
「ヒバリ君。」
「あ、はい。」
「君は転生者かい?」
ドッキーン!
嘘をついていた手前、心臓が飛び上がる。
(あ、でも転生者ではないな。だが近すぎて口から心臓出ると思った)
いや、冷静になると、この世界には転生者と呼ばれる人が存在するということに他ならない。
魔王と戦争をしていた時代、もしかしたらかつて英雄と呼ばれた人たちは転生者なのかも知れない。
「やっぱりね。いくらなんでもゴブリンジェネラルを一人で倒せるなんてあり得ないと思ったんだ」
違うと否定したいところだが、全否定出来ない自分がいる。
「大丈夫。誰にも言わない。それにこれは貴族の中でも限られた人しか知らないことなんだ。現代にもいるけど、みんな隠して欲しそうだったからね」
押し黙っているとファサームの中で色々と補完されたのか、話が完結したようだ。
「あ、でも国王様に聞かれたら答えちゃうかも」
(転生者の話しかされないと転移者ですとは言いづらいな。まぁ余計なことをいうとトラブルに巻き込まれるからな。あり得る話で解決するならそれがいいだろう)
嘘は付かないように、ファサームの話に乗っかる。
「国王様に聞かれたら答えるしかないですよ。気にしないでください」
「おっ! 話が分かるねー! やっぱりいい人そうだ。まだ隠してることはありそうだけど、とりあえずは聞かないでおくよ。何かあったときは頼りにしてるから、とりあえずこの街を拠点にしてくれると嬉しいな」
ちらっとファサームから聞いたが、現代の転生者は各地に点在しているという。
数こそ国で把握しているのが3人程度とのことだか、戦力としては圧倒的な力だそうだ。
基本的には自由にしているそうだが、過去にも冒険者のものもいれば、騎士団長や貴族のものもいたという。
その後は今後自分がどうするのか、どうしたいのかと根掘り葉掘り聞かれて、まだわかりませんと返す話しをしていた。
コンコンッとノックの音が聞こえる。ミケルが帰ってきたようだ。
「どうぞ」
ファサームがドアに向けて話す。
失礼します、と言い入ってきたミケルの右手にははお金が入っているであろう麻袋が握られていた。
さらに左手には紙が一枚だ。
「お待たせ致しました。こちらがヒバリさんの持ち込んだものの買取金です」
テーブルに硬貨が並べられる。
(金と銀、それに銅かな?)
「田舎では通貨を使わないと聞いている。簡単に説明するから覚えるように」
基本的には大陸東側、人間族の住むエリアでは通貨として硬貨が使われている。
希少価値とその重量によって価値が代わり、価値の高いものから順に、
白金貨
金貨
銀貨
大銅貨
銅貨
銭貨
となっている。
白金貨1枚=金貨30枚前後。
金貨1枚=銀貨50枚。
銀貨1枚=大銅貨5枚。
大銅貨1枚=銅貨5枚。
銅貨1枚=銭貨10枚。
ということらしい。
白金貨は時価により変動するとのことだ。
綺麗な硬貨を見つめて、いろんな金属の精製炉がこの世界にもあるんだなーと、意外と発達しているのかも知れないなと感じる。
「これは正規の買取額だ。無駄遣いしないように」
そう言って広げたままの硬貨と空の袋、さらに持っていた紙をこちらに寄越してくる。
紙には買取額が記入されてあった。
ゴブリンナイフ 銀貨2枚
ゴブリンブレイド 引き取り
火魔石(E)x2 金貨5枚
火魔石(F)x10 金貨2枚と銀貨2枚
火魔石(G) 銀貨1枚
割れた火魔石(D) 銅貨20枚
合計で金貨7枚、銀貨5枚、銅貨20枚になった。
試しに金貨を1枚持ってみると、思ったより軽かった。他の硬貨と長径は同じくらいだが、厚みが全くない。
「正規の金額か。では、私が少し色を付けてあげよう」
ファサームが金貨3枚を置く。
「えっ! そ、そんな、悪いですよ」
貸しだと言われても嫌なので遠慮をしてみる。
「これは君の心意気に対してだよ。まぁ……本音を言うとあの大剣が無料引き取りじゃあ可哀想だなってのもあるけどね。それじゃあ私は自宅に戻るよ。またね」
そう言って笑顔で部屋を出て行く。
指示するから来たのに帰るの?と思ったが、この街にも家の1つはあるだろう。
「ヒバリ、冒険者証を渡せ」
「!?!?!?」
一日で冒険者廃業か……まだ何もしていなかったけど、さようなら冒険者。
「何を驚いている。今回の成果が間違いなければ昇格だ。どうせ嘘は付いてないのだろう?」
本来であれば依頼を達成し、評価がされて初めて昇格とするものだが、ギルド長自らが確認に行くほどの事態であるということで、カードだけ先にグレードアップさせるのだという。
帰ってきてからギルド長の承認を持って正式に承認となるらしい。
真っ白なカードを渡す。
少し待っていてくれといわれ、部屋にひとり取り残される。
(ミケルさん、言い方がSっ気強すぎて怖いわ……ま、なんにせよ目的通りお金は手に入れたな。金貨が何枚かあるし、当面は大丈夫だよな)
貨幣価値がまだわからないが、銀貨や銅貨もある。
ある程度使って感覚的に理解していくしかない。
(まずは装備、そのあとは日常生活に必要な消耗品とか見ていくか。っと、その前にギルドのルールとか確認しておきなきゃいけないな)
ギルドカードを返されたら一度見に行こう、と思っているとドアが開く。
ミケルが戻りカードを返される。
「出来たぞ。特例ではあるがEランクだ。今後は討伐依頼を中心に受けていって欲しい」
これで終わりだと言われ、最後にギロリと睨まれながら部屋を出て行く。
(悪い人ではないんだけど、やっぱあの人怖いわ……)
出来たらまたあとで更新しますっ!
ダメだったら明日にプラスします!すみませんっ!




