最終話:七色の明日へ
最終話となりました。
最後に筆者挨拶を書いておきましたので、ご覧ください。
傷付いて、傷付けて。
そうやって、識ることもある。
いや、そうしないと識れないこともある。
だから、生きることは辛い。ものすごく辛い。
辛くって、苦しくて、泣きたくなって、逃げたくなる。
袋小路に追い詰められて、逃げる為の道も術もなくなって、絶望して、諦める。
それでも――――――――きっと終わりなんかじゃない。
誰に後ろ指を指されても、嘲られても…………自分が負けてないと思っていれば、いつか必ず勝ってやるって思っていれば、必ず未来は開けるんだ。
**********
地球でのあの日から、一年が過ぎた。
あれからの日々は目まぐるしく、色々なことがあって、長い様な短い様なそんな一年だったと思う。
俺は、この一年でどれだけ変わったのだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・
いや、どれだけ変われたのだろう。
少しは、ヴェクトさんみたいに強くなれているのかな……。
「いや、まだまだだ…………」
鏡に映る自分の顔はやっぱりまだまだ子供で、出来ないことだってたくさんある。でも、いつかこの手で誰か大切な人を守らないといけない時が来る。その時の為に、俺は強くならないといけないんだ。
「あまり気負い過ぎは身体に毒だよ?リキ」
「うわわ!セレナか!なんでここにいるんだよ」
「扉が開いてたから。クー君も、もう待ってるよ?」
そういうことじゃねーだろと、突っ込みを入れたいのを我慢しつつ俺は苦笑を浮かべた。セレナのその悪気のなさそうな笑みは今でも俺には効果抜群だった。一年前、彼女と星空を眺めたあの時から、俺はずっと彼女には逆らえないのだろう。
それでも、将来俺が守るべき人はきっと彼女じゃない。きっとそういう感情を抱いたりはしないだろう。そもそも、俺なんかじゃセレナだって迷惑だ。
「じゃ、外で待ってるから!早くしてね!」
「分かってるよ!」
初めて出会った時の様にセレナはぱたぱたと部屋から出て行った。相変わらず、そういう所は変わらないんだろうなとしみじみ思う。
でも、時々のそういう発見が俺を救ってもくれる。
人は、確かに変わっていかなければいけない。でもそれと同じで、変わらない所だって絶対あるんだから。勿論、それを言い訳にして自らの向上から逃げるのは駄目だけど、それでもやっぱり変わらないことがあるのも悪くないんじゃないだろうか。
セレナは、火星に来て言葉遣いや仕草が変わった。俺もあの日から頑張って勉強するようにしたり、出来るだけ自分の事は自分でするようになった。クーも……きっと少しずつ変わってきていると思う。昔のクーを俺は知らないけど、初めて出会った時の自分を押し殺しているようなそんなことはなくなった気がする。
それでも俺達の関係は何も変わらず続いているんだ。それはきっと、すごいことだと思う。
意図的に変わらないことを維持するっていうのは、変えるってことと同じくらい難しい。あの事件は、その事実をたくさんの人に植え付けたと思う。
「ごめんごめん、ネクタイに手間取っちゃって!」
「うん、でもまだ歪んでる」
え?と俺が確認するより早くクーは俺のネクタイを直し始めていた。
「悪いな……ありがとう」
気まずそうに頬をかく俺と目が合うと、クーは柔らかく微笑んだ。ちらとセレナに視線とやると、セレナも嬉しそうに笑っていた。
クーは火星の病院に運び込まれてしばらくは集中治療が続けられた。以前治療を担当していた医師が言ったには肉体の損傷は驚くべき回復を見せている……ということだったらしい。どう考えても信じられないような医療に依るものとまで断言したとか。やはり、ライト=セブンス――――クーの父さん――――は、クーを救うために、治療を施したのだろうか。精神の錯乱はその副作用?今となってはそれを知る由もない。
退院したクーは、記憶が失われるといったこともなく、俺やサクラさん、リク兄ちゃんのこともばっちり覚えていた。もっとも、怪我をしてから地球で何をしていたかについては全く覚えてないとのことだったけど。
でも、俺は時々それが本当なのかと疑いたくなるような瞬間がある。なんでだろう?
確証も何もないけれど、懐かしい感傷の様な不思議な感覚がふっと頭をよぎるんだ。
「今から学校?早くしないと遅れちゃうわよ」
「うわっ!ティラナねー……ティラナさん。おはよう……」
通路を三人で歩いていると、後ろから急に声を掛けられて動揺してしまった。無意識に昔の呼び方が口をついてしまい、慌てて言い直す。
「おはようございます」
セレナとクーは仰々しく深々とお辞儀して挨拶を交わした。
「おはよう。クー君もセレナちゃんも、体調はどう?何か困ったことがあったら何でも相談してね」
「ありがとうございます……。僕はティラナさんのおかげで今ここにこうして生きている。感謝してます」
クーは罰が悪そうに、顔を伏せて視線を落とした。クーが地球でどうなっていたかを本人にはほとんど知らせてはいなかったけど、聡明なクーの事だからきっとおおよその推測はついているんだろうと俺は思う。
ティラナさんはやめてよと困ったように笑った。そしてこう続けた。
「君達を、私達を救ってくれたのは、“あの人”なんだから。昔も今も彼みたいになりたくてずっと追いかけていたけれど、結局彼には一生敵わない……。本当に立派だった」
髪をかきあげて、労わるように穏やかな瞳でティラナさんはどこかを見つめていた。
ティラナさんだって俺を守ってくれた。
ティラナさんだって立派だったよ。
そんな言葉が胸から喉まで出かかって、無理矢理呑みこんだ。今俺がこの言葉を言うべきじゃない。
だから、俺は精一杯の激励を送る。ヴェクトさんの遺志を継ぐ同志として、誇れる道を歩む為に。
「頑張ってね、隊長さん」
「貴方もね、ヴェクトの言葉……忘れたら承知しないわよ」
ティラナさんは貫録をたたえた笑みと言葉と共に、去っていった。
…………忘れられる訳ないじゃないか。
**********
「そういえばさ、今日お母さんが皆にご飯食べにいらっしゃいって」
昼休み、俺達は三人でお弁当を囲んでいた。他愛のない雑談を縫って、クーはそんなことを言った。
「サクラさんが?」
「うん、なんか兄ちゃんたちも友達と帰ってくるみたい。多分、レオさんも帰ってくるんじゃないかな?セレナは聞いてない?」
「何も……聞いてないわね。まさかお兄ちゃん、クー君のとこでご飯を食べてうちに寄らずに帰るつもりだったんじゃ……っ!」
セレナは箸を握り締めてわなわなと震えだした。その背後には見えるはずのない烈火の炎が燃え盛っているような気させする。
リク兄ちゃんもレオ兄ちゃんも基本的には弟思い、妹思いだと思う。俺が見ている範囲ではこっちから連絡したらすぐ返ってきているようだし、時々は実家にも帰省している。それでもクーはともかくとして、セレナには少々物足りないらしい。
「まぁまぁ…………」
宥めるクーも、いささか気分が悪いと思う。条件が“違う”から。
サクラさんは、お仕事を引退して家でクーと共に暮らしている。
セレナの父さんは、俺達が火星に再び帰って来た時には行方を眩ましていて、誰も所在が掴めなかった。
そういえば、オーベルト=アケルトがセレナの父さんだという事実には驚いた……と言いたいところなんだけれど、もう驚くことに慣れてしまっているというかなんというかですんなりと受け入れた。もう、誰を憎んだり恨んだりしてもしょうがない。
「でもいいの。私には素敵な友達が二人もいてくれるんだから!」
セレナは、笑う。勿論、本心じゃなくて無理矢理笑ってるのかもしれない。
でもそれはセレナだけではないし、きっと誰でもそうなんだと思う。
笑いたい時に笑えて、泣きたい時に泣けるなら人生はなんて楽なんだろう。だから誰だって、素直になれなくてそんな自分が嫌になったりする。
だけど、俺達は独りじゃないから――――――――――――――――。
情けなくて嫌になることもある自分。そんな自分を必要としてくれる人がいる。それはどれだけの救いだろう。
**********
火星政府内でも重要な会議にしか使われない、厳かだがどこか機能美を感じさせる円卓の机に一人の女性が姿勢を正して座っていた。時折、大きな眼鏡をいじっては退屈を紛らわせていた。
やがてもう一人、顔立ちは端正で若々しいが熟達者特有の物腰の柔らかさと、その豪胆さを備えているような青年が隣に腰を下ろした。
青年に気付いた女性が声をかける。
「エルド……貴方も呼び出しですか?」
「あぁ……ミサキもか?まだ僕たちだけみたいだけど、部長達全員が集められているのかな」
「さぁ、どうでしょうか……?」
二人はここに急に呼び出されたのだが、その理由も分かっていなかった。それぞれ部長の座が空いたことにより、一年前より副部長から昇格していた。もっとも、サクラは実家よりバックアップ態勢をとっており、ミサキのサポートは行っていた。
やがて、白ひげをたくわえた二人の良く知る政府の中枢の男と、その後ろに見知らぬ男が新たな部長の腕章を身につけてやってきた。
政府の男は恰幅のいい身体を揺らして、快活そうに笑いながら二人に声をかけた。
「やぁ、お疲れ様。他のものは都合がつかなくてな。君達にまずは紹介しておこうと思う。科学部長に就任するレータ=カミヤ君だ」
そう言って政府の男は、後ろに立つ青年の肩を持った。
レータですと黒髪の青年は、丁寧に二人にお辞儀した。二人も、部長らしく堂々とした仕草で挨拶を返す。
「彼は地球の軍にいた頃から優秀な科学者でね。地球に残っていたみたいだが、政府の方に復帰して貰うことになった。これからは宜しくやってくれたまえ」
男の言葉を聞いて、二人は一瞬眉をひそめる。
「地球にいた……信用できるんでしょうねぇ」
ミサキが疑わしげな視線でレータの全身を見回した。
「ま、僕の目が黒い内はこの火星で変なことはさせませんよ」
それに対しエルドは、余裕たっぷりに微笑んだ。
「ははっ、精々信じてもらえるように頑張りますよ」
レータは苦笑いと共に、渇いた笑い声を上げたあと、二人に握手を求めた。
リン。これから僕は、誰かを傷付ける為じゃなく、何かを壊す為じゃないことに自分を捧げることで、今までの罪を償おうと思う。勿論、一生かかっても払いきれるものじゃないかもしれない。
君は、僕がシンランを信じ続けることを願ってくれた。君のおかげで僕たちは分かたれずに済んだんだ。だけど、彼女と一緒になることは出来ないよ。それでも、僕たちの目指していることは同じだから大丈夫。
これからも、僕や施設のみんなを見守ってくれるかい?
君の願っていた世界を必ず、この宇宙のどこかにいる君に届けてみせるから。
**********
火星政府開発部室。
そこで一人の女性が、自らのデスクに座って書類を纏めたり、引き出しを漁って何かを探したりととにかく忙しそうにしていた。
そこに、もう一人体格のいい男が部屋に入ってきた。女性の姿を認めると、落ち着いた声で言う。
「シンラン部長……!何やらお忙しそうですね……」
「ツバルか。あぁ、明日から何人かが月に異動になるからな。その為の準備だよ」
あぁそうかと、ツバルは両手をぽんと叩いた。
「異動と行っても、全員が自主希望だがな。月はこれから重要な意味を持つ。開発を早急に進めなくてはいけない」
シンランは険しい顔をして、正面を見据えた。いや、彼女にはこれから先進めていく様々なプランが視えているのかもしれない。その様子をツバルは慈愛に満ちた表情で見つめた。
「シンラン部長……なんだかお変わりなられましたね。以前の貴方も好きでしたけど、今はもっと魅力的ですよ」
「ッ……。馬鹿なこと言ってないで仕事しろ!」
「はいはい……」
ツバルの軽口にシンランは大声で反論してツバルを追い出した。
お前こそ変わったじゃないかと、シンランは胸の内で毒づいた。
いや……違う。お前は元々そういうやつで、でも私が近寄りがたい存在だったから、なかなか自分を出せなかったのかもしれない。
私はレータによってデザインから人間へと変わったと思っていた。そして、いつかは再びデザインに戻る運命だとも一時は思った。そうじゃないんだ。今の私を支えてくれているもの、そんなに軽くはない。
レータともう一度やり直そうとは思わない。そして、それを一番強く思っているのは恐らくレータだ。
あいつは自分を許せない。そして私も自分を許せない。
だから――――手を取り合ってでなくてもいいから――――二人同じ想いのもとで、これからを見守っていこう?
私達にしか出来ないことも、まだまだあるはずだから。
**********
大きな展望ガラスからは、海の様に果てしない砂漠が延々と続いている。その先にあるのは、かつては生命の息吹きに包まれていた青い青い母なる地球である。
長い黒髪を手で撫でつけながら、女性はじっとその景色を眺めていた。
ここは月の端、かつては“マーゼ・アレイン”の本部として使われていた基地であった。今は月の開発拠点となっている。
部屋のドアが開き、一人の男性がゆっくりと室内に入って来た。男は女性の姿に気付くと、歩み寄って同じように外の風景に目をやる。
しばらくの沈黙が流れた後、女性の方が口を開いた。
「エクスル。シンランから連絡が来た。明日の朝、火星を立つそうだ」
「そうですか。これで、月の開発も活発になりますね」
「あぁ……」
二人は揃って、地平線の果てに煌めく星々の海を眺めていた。まるで、そのどれかに“誰か”を探す様な、もう二度と逢えない誰かを星に映して、それに心の中で語りかける様な。そんな他愛のない、だけどどこかささやかな愛おしさを感じる行為は、束の間の安らぎを与えてくれた。
明日、火星の開発部から新たな人員が月に派遣されてくる。現在の月の開発は元マーゼ・アレインを含む少数の人員で自主的に行われていたものだったが、政府の方とカレン、エクスル側との話し合いの末、協力体制の下、以後は進められることになった。カレンとシンランは時々連絡を取り合って、デザインの生き残りの者たちの手助けなども行っていた。
「カレン……辛いですか?」
エクスルは心配そうに問いかけた。
「辛くないと言えば嘘になる。私はまた何も守れなかったのだから。ハヤブサもフィエンも義父さんも……」
もっとも、オーベルト=アケルト――――マーゼ・アレイン隊長――――は、一年前に姿を消してから誰の前にも姿を現していなかった。その生死すら二人には分からない状況だった。
カレンは無念そうに瞳を伏せる。だが、その悔恨すら日々薄れていくようで、そんな自分が時々嫌になる。背負うべき罪は永久に消えてなんかいかないのに。
そんな言葉を聞いてエクスルが言う。
「何故、貴方がそこまで自らを戒めないといけないのです?それでは彼らに失礼ですよ。彼らは皆、己とその信念の為に闘ったのですから」
「そうだな……。こんなことを聞かれたら、皆に笑われるか、怒られてしまうな」
カレンは強張っていた表情をふっと緩めて、ぎこちなくだが柔らかに笑った。
「今、前を向いて新たな道を歩み始めている貴方を、フィエンもハヤブサも隊長も、皆が祝福し応援しているに違いありませんよ」
カレンからは顔を背けたままそっけなくエクスルは言った。気を使ってくれているのだろう、その絶妙な距離感がなんとも彼らしくて、カレンは嬉しくなった。
「……ありがとう」
彼らの未来もまた誰にも分からなかったし、彼らを恨んでいる人だって少なからずいる。例え、原因の所在がどこにあったのだとしても、失ったものは二度と戻っては来ない。それは誰に対しても平等で、責められるべきは、彼らだけではないのかもしれない。
そして人は痛みを知る。失うことの痛み、自分ではなく大切な人が傷付くことの痛みを。
カレンもエクスルも、その痛みを二度と忘れない。
そして忘れないことが、分かりあうことへと繋がっていく。
**********
「よっリク!久しぶり!」
「あぁ、久しぶり。元気にしてたか?副部長さんよ」
久しぶりに会うユーリの姿はなんだか大人びて見えた。少し恐縮しそうだったので、俺は憎まれ口を叩いて誤魔化そうとする。
「元気……は元気だけど、忙しくて敵わないわよ。サクラさんもミサキさんも、全然そんなところ見せてなかったのになぁ……」
ユーリはうーんと伸びをして、天を仰いだ。そんな様子を見ていると、なんだか前と変わっていなくて俺は少しほっとしたような気分になる。
「ま、忙しいのはお互い様だよ。肩書きこそついてないけど、俺だって現場じゃ結構頼られてるんだぜ?」
「ふーん……?」
「なんだよ、その目は……」
なんだかユーリを羨んで、見栄を張ってしまうような自分が懐くかしくてくすぐったい。新鮮な空気を胸一杯に吸い込んだような、気持ちのいい清涼感だった。こんなやりとり一つで、俺の中でのしがらみとか僻みとか、そういったもやもやがゆっくりと解けていった。
「レオとハルカは……まだみたいね」
「あぁ。まぁ、約束の時間までまだあるしな」
俺はそう言って自分の端末を確認した。
今日は、レオ、ユーリ、ハルカと俺の家で食事するということになっていた。クーも友達を連れて来るとか言ってたし、大人数になるなこりゃ。
だから、仕事が終わってから待ち合わせをして四人で向かうということになっていた。待ち合わせ場所にユーリが指定したこのエリアは、展望が良くて一面に広がる宇宙を全身で感じているようだった。星々の瞬きは果てしないようで、永遠にこの景色が変わらないような錯覚さえ起こしそうになる。
「一年か…………」
「………………うん」
俺が何気なしに呟いた言葉に、ユーリは頷いた。
「父さんの……ライト=セブンスの計画は成功すると思うか…………?」
俺の問いに珍しくユーリは言い淀む。俺に遠慮をしているのか、それとも本当に分からなくて考えているのか、それとも考えることすら出来ないのか。俺にはそれは分からない。
だがやがて、ゆっくりとユーリは自分の思いを語り出した。
「ライトの計画……。最近少しずつだけど、世間にも広まりつつある“地球再生計画”。貴方には悪いけど途方もない話だと最初は思ったわ。いえ、今だってそう思う自分がほとんど」
「変な気を回すなよ。俺だってそう思うぜ。あいつは狂ってたさ。“地球から全ての生物を消し去って地球の再生を待つ”だなんて、どう考えても現実味がない」
「でも、その考えに同調して協力者がいたことも事実よ。そして、紆余曲折を経つつも賽は投げられた。これからどうなるかは私達の世代では到底分らないことだけれどね」
「そうだな……。ライト=セブンスの計画の成果が分かるのはこれからずっと先の話だ。でも成功するにしろ失敗するにしろ、俺はあいつの考えが許せない」
「そうね……それだけの頭脳があって何で一人で決めてしまったのかしら……?」
「人は、どれだけの力があろうとも一人では何も視えない。もし視えてるとしたらそれは幻想だ。だから……争いが起きる」
「うん……だから私達は話し合わなくてはいけない。武器を持って戦うのではなく、分かり合うことでしか、得られないものだから」
「綺麗事かもしれない……。俺達が偉そうに講釈できるものでもないかもしれない。でも、もう過ちは繰り返したくない」
二人を包む宇宙は表情を変えることなく、悠久を漂い続ける。それは、当然のように一年前とも二年前とも変わらず在り続けた。だが、その間に二人に積み重ねられたものは重く、そして大きい。
ただ、あの頃の自分に唾を吐いて卑下したい訳じゃない。あの頃の自分達はあれが精一杯で、一生懸命に生きていたんだ。
「やぁ、こんばんは。待たせたね」
「ええ雰囲気の所邪魔したかいな」
レオとハルカが並んで集合場所にやってきた。
「そんなんじゃねーよ。そっちこそ一緒に来るなんて聞いてなかったぞ?」
ハルカの茶化し言葉を受け流しつつ、俺は逆襲を試みる。
「実は僕たち付き合ってるんだよね」
「なっ!?」
「嘘ッ!?」
「……冗談っ」
「あれ?冗談なんや?」
『え?』
まるでコントの様な一連の流れだった。結局勝利者はハルカということでいいのだろうか。
俺達は並んで、星屑の中を突き進んでいく。目的地は俺の家。目的は、みんなでご飯を食べること。
幸せとか、生きる為の理由とか、そんな小難しい理論は並べるだけ無駄だってことに、俺達は気付くことが出来た。だからこんな些細な、だけどこんなにも胸躍らせる楽しみを生きる糧にして、毎日を歩んでいこうと思う。
「レオは、明日月に向かうんだろ?」
「そうだねー、ここで開発を続けるのもいいんだけれど、あそこで僕は頑張っていこうと思ったんだ。今度は誰の意志でもない、僕の意思で決めたこと。セレナにも許してもらえたしね。……もっとも時々は帰ってくることを約束させられたけど」
レオはくすりと落とすように笑った。
俺達の道はどこまでも一本道じゃない。何度も分かたれて、交わって、誰にも分からないどこかへ向かっていくのだろう。でも、それは可能性。無限の可能性だ。
「これから、うちらはどうなるんやろうなぁ……」
「そんなの誰にも分からないわよ。だけど、だからこそ楽しいんじゃない?」
「そういうことだね。僕たちは、誰も知らないそれぞれの明日を生きる。そうでしょリク?」
「あぁ。だから向かおう、七色の明日へ――――――――」
『七色の明日へ』完
**********
筆者コメント。
まずはここまで読んで頂いて本当にありがとうございました。
感謝をしても尽きません。ありがとうございます。
拙い表現や見苦しい箇所多々あったと思います。それでも、なんとかここまで書いて来れて本当に良かったと思います。そもそも飽き症の僕がここまで来れたこと自体が……笑
正直、伝えたいことが多すぎて詰め込み過ぎたと反省しています。もう少し一貫したテーマがあれば、引きしまった内容になったのかなぁと今更ながら思います。それでも、この作品を生んでリクやユーリ達に出逢えたことは一抹の後悔すらありません。
彼等が描く明日はどうなるでしょうか?勿論、笑顔や幸せだけで塗りつぶすことは出来ません。だからこそ、人はそれを欲して毎日頑張っているのかなぁとか時々思います。
また、新しい作品の構想とかもありますし、これからも書き続けられたらいいなと思います。
もちろん、プロットはちゃんと書かないとね!(笑)
それでは、最後に重ねて。
本当にありがとうございました。