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七色の明日へ  作者: ohan
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第二十話:Boy meets the Earth with girl

タイトル、英語に置き換えました。どうも収まりが悪かったので。

※作者注 今回も稚拙ながら挿絵を描かせていただきました。えっと、ちょっと今までにない展開かもです。はい、すみませんm(__)m

また、恐らく過去最長です。八千字越えてるので、携帯の方はご注意ください。

以下本編をお楽しみください。


**********


「ひとまず、どういうことなのか聞かせてもらおうかしら?」

ティラナは、なるべく優しい女性を装って言った。もう船は出発してしまったが、まだ今なら戻ることが出来るだろう。それでも、何故彼がこの船に乗っているのか。まずはその理由を知りたかった。

彼女は、彼を一度危険に晒してしまったことから、少なからず負い目を感じていたのだ。

「クーを助ける為に、地球に行くんだろ?話は聞いてたから、誤魔化しでも無駄だぞ。それなら俺も連れてけ。俺だってあいつの為に何かをしたいんだっ」

リキは真面目な顔で言った。その瞳は真剣で、以前のティラナならそれから自分の瞳を逸らしていただろう。だが今は、それに向き合う強さを身に付けていた。

「なるほど……、貴方も清々しいくらいに馬鹿ね。地球がどんなところか分かっているの?」

ティラナはため息をつくと、肩をすくめた。

「馬鹿でもなんでも構わねー!俺は、あいつを助けるって決めたんだ!お前には、俺を連れていく義務がある!」

リキは、小さな体を目一杯使って必死に主張した。一瞬の沈黙が二人の間を流れた。視線は絡み合い、どちらも外そうとはしない。

ティラナは考えるそぶりを見せると、落ち着き払って答えた。

「そうね……いいでしょう。その代わり、これからは私の指示に従ってもらうわ。でなければ、この船に軟禁するからね」

その言葉を聞いて、リキは驚いたような顔をした。

「何よ、嬉しくないの?」

「いや……てっきり怒られると思ったから。拍子抜けというか……」

「へぇ、怒って欲しいの」

「いやいや、違う!へへっ、ありがと。ねーちゃん!」

リキは慌てて訂正すると、顔いっぱいに笑顔を広げた。

彼がどこまで考えているのかはティラナには分からなかったが、それでも彼を連れていくべきだと思った。友の為に何かをしたいと言うのは当たり前の感情であり、それを私が阻害するべきではない。何かあったら、私が守ればいい。守るなんて軽く口にはしたくはなかった、それがどんなに難しいことか彼女も既に知っていたから。だが、それを覚悟を持って言えないようでは、彼を守ることなんて出来はしないだろう、とも思った。もう、誰も失いたくはない。

二人を乗せた船は黒々とした宇宙を切り裂き、地球への航路を進行していた。

 

 二人の目指す先は、地球にある火星政府の医療研究所だった。一時姿をくらましていたセブンス医学部部長が、実はそこで一人研究を進めているとの情報が入ったのだ。もっとも本当かどうかは分からないので、それを確かめに行くんだけど、とティラナはリキに説明した。船が地球に到着するまでにもうしばらくの時間を要する。

「なぁ、そいつってクーの父ちゃんなんだよな?」

「えぇ、そう聞いているわ」

「なんで、自分の子供が一大事だって言うのに助けに来ないんだ?」

リキは、腕を組むと不思議そうにティラナに訊いた。

「私にだって分からないわよ。もっとも、自分の子供がそんな危険な状態だということすら知らないんだろうけれど。家族を捨ててまで、研究に没頭しているのでしょうね」

「ふーん……」

リキは口を尖らせると、不機嫌な声で呟いた。彼にとって父親とは、子供にとっては尊敬の対象であり、そして何より子供のことを一番に考えてくれる存在だった。

(そりゃ、仕事で忙しいと帰ってこないこともあったけどさ……)

同時に、ティラナも自分の父の記憶を掘り返していた。いつも厳格で、自分を叱ってばかりだった父。今考えると、あれも愛情の裏返しだったのだろうなと思い巡らしていた。当時の幼い自分は、そんな風に振り返ることも出来なかった、最近会ってないけれど、親孝行したいなとしみじみ感じていた。


**********


 二人は、火星政府地球支部医療研究所の前に立っていた。研究所は、荒れ果てた大地に場違いなほど仰々しくそびえたっていた。ここは、数少ない地球に存在する火星政府の施設である。施設では、選ばれた極少数の研究員が“地球”という環境下において有益な研究を日夜行っている。ここに、セブンス医学部長がいるとのことだ。

二人は、恐る恐るドアを開けると中に滑り込むようにして入っていった。

「ティラナ=イチジョウ様ですね。お話は伺っております、詳しいことは中で。ところで、この少年は……?」

入るとそこは受付になっており、白衣を羽織り眼鏡をかけた女性が二人を丁寧に対応した。しかしリキの姿を認めると、眼鏡の奥の眼光が鋭くなり舐めるように全身を見回した。

「私の部下よ。まだ若いので色々教えたいと思ってるの。構わないでしょう?」

ティラナは動じる様子もなく、さらりと言った。

「ふむ……、そうですね。ティラナ様がそうおっしゃるんでしたら結構です。客人として丁重にもてなしましょう」

受付の女性は愛想笑いのようなものを浮かべると、二人を先導するように歩き始めた。

こちらのことを完全に信用している訳ではないなとティラナは思った。幼い頃より、たくさんの大人たちに囲まれ、そしてその扱いの手ほどきを受けてきた彼女は、自然と他人の顔色を伺うのが癖になっていた。それが、彼女が将来手にするであろう莫大な富を狙う賊などからも身を守る為に、彼女自身が身に付けた術だった。

リキは受付の女性、そしてティラナに追従する形で歩いていた。内装はシアンカラーを基調とした色に塗られていた。火星のモジュール内と酷似した造りであったた為、火星にいると錯覚してしまいそうだった。もっとも、身体を地面に縫いとめる重力が今は地球にいるということを教えてくれる。それが何だか嬉しくて意味もなく足踏みしてしまう。

「ん?」

ふと半びらきのドアから少女の姿が見えたので、リキは、立ち止まってしまった。こんなところに子供が……?と、人のことを言える立場ではなかったが、不自然に感じた。覗き込もうとしたが、いつの間にか回り込んでいた受付の女性に阻まれてしまった。

「申し訳ありません。お客様でもこちらをご覧になることは出来ません」

「ちぇっー」

女性の淡々としたな態度に、リキは不貞腐れたようにに舌打ちした。

「リキ!失礼なことすると、船に連れ戻すわよ?」

「あぅぅ……ごめんなさい」

ティラナの甲高い声に、リキはうなだれた。

しかし、そこの部屋からはまだ幼さの残る少女の声が聞こえてきたので、三人は一斉に振り向いた。

「火星からのお客様……ですか?珍しいですね。私、挨拶してきます」

「駄目ですよっ、セレナッ!貴方のことは、極秘なんですからっ」

無邪気そうな少女の声と、ややしわがれた女性の声が、その場にいる三人の耳に自然に入ってきていた。受付の女性は面倒くさそうにため息をつくと、勢いよくそのドアを開け似つかわしくない声で怒鳴った。

「セレナ!おとなしくしていなさい!…………え?」

セレナと呼ばれた少女はパタパタとスリッパの音をたて、開いたドアから廊下に飛び出して来ていた。

「貴方達が、お客様ですね?私はセレナ=アケルト、と申します。」

いきなりの登場に驚く三人に構うことなく、セレナと名乗るその少女は、ツインにしている長い銀髪を優雅にかきあげると、滑らかにお辞儀した。

その様子を呆けてみていたリキに、ティラナがからかうように言った。

「どうしたの?顔が紅くなっているようだけど?」

「な、なに言ってるんだよ!そんな訳ないだろ」

しかし実際にティラナの指摘通り、リキは赤面していたのでその反論も空しく響くだけであった。しかしそんな彼の必死さを気遣うこともなく、ティラナはセレナに向かって挨拶を済ませていた。そして貴方も早くするのよと、リキを急かした。

「リキ=ティスタ……、ティラナねーちゃんの部下です」

不服そうにリキは自分の立場を明かした。当然、これは二人の間で執り為された仮の関係である。リキが怪しまれない為にはそれが一番都合がよいとティラナは判断したのだ。

セレナは興味深そうにリキをまじまじと見つめた。

「へぇー、リキ君何歳なのですか?あっ、地球と火星だと一年の長さが違うから参考になりませんか。でも、見たところ私よりは年下ですね」

「えっ……えぇ多分そうだと思います」

リキはセレナにつられて普段滅多に使わない敬語になっていた。

「じゃあ、貴方がティラナさんを呼ぶように、私のこともセレナお姉ちゃんと呼んでくれますか?」

「は、はい……」

リキが、頷くとセレナは嬉しそうににっこりと笑った。リキは、その顔に一瞬見惚れてしまった。

「それでは、私と少しお話しません?構いませんよね?」

セレナは、ティラナの方を振り向くと瞳を輝かせて訊いた。

「え……えぇ……」

ティラナも気圧されたように肯定した。

「ありがとうございますっ」

セレナはうろたえるリキに構わず、その手を引っ張って消えていった。

二人が去った後には、大人二人がぽつりと残された。

「あの……よかったのかしら?」

茫然と、去りゆく二つの影を見送ったティラナは、物問いた気な視線を受付の女性に投げかけた。

「ティラナ様、貴方は彼女をご存じないでしょうか。セレナは……いつも同年代の友達と過ごすことすら許されておりません。あのようにはつらつとした彼女を見るのは久しぶりです。考えを改めました。たまには息抜きも必要でしょう」

受付の女性は、ティラナの前で初めて固い表情を崩すと、口元を緩めて微笑んだ。


**********

 

 「リキ君は、まだ各部に配属されてないんですよね?どこにいきたいのですか?」

「環境部……。父さんも、そうなんだ」

まだ緊張が解けぬ様子で、ほほをかきながら照れ臭そうにリキは言った。

二人は、長い通路を手持無沙汰な様子で歩いていた。どこかに向かうという当てがある訳ではなかった。ただ、久しぶりの同じくらいの年の子との会話をセレナは楽しみたかった。

「へぇ……すごいですね!地球や火星の環境のことはフィエンによく聞いていましたわ……、っと貴方は知らないですよね。すみません」

え――――――――

リキの周りで時間が一瞬止まった。世界の色が反転して、目が回りそうになる。嫌な冷や汗が、額から滴った。 

え……?フィエン……?ってあのフォーラムの場にいたにーちゃんの名前も……、フィエンだったよな?

偶然?たまたま?でも、そんなによくある名前じゃねーよな?聞いてみたら、はっきりする。でも、もし同一人物だったら?と、リキの頭に幾重もの感情が折り重なり、同じような言葉を反芻する。

「フィエンというのは、私の大切な友人なのです。色々な事を教えてもらったり、遊んでくれたりしたんです。最近は余り会うこともないのですけれど」

様子が変わったリキに気付くこともなく、セレナは言葉を続けた。そこまで言い終えると、彼女は憂うように瞳を伏せた。また、その様子にリキも気づかない。

「元気だといいのですが――――」

「なぁ……、そのフィエンって人って――――――――」

セレナの声を遮り、震える声でリキはセレナに、その“フィエン”の特徴を訊いた。まさかと思った。ただの偶然だと、そうであって欲しかった。

しかし――――――――そのセレナの口から飛び出す言葉一つ一つが、リキを苛む棘だった。真実は冷徹で残酷であると、リキは若くして気付いたのだった。

「あいつは……あいつは……クーを……っ」

無意識に喉の奥から、声を絞り出していた。この時、リキは既に足を止めていた。セレナもようやくリキの様子がおかしいことに気付く。


『今回のことは隊長の意思であって、フィエンもカレンも関係ないからな』


そうだ、あの時の男も言ってたじゃないか。フィエンは関係ない。

やめろ……、やめて……それ以上言うな……俺……っ

リキは、必死に自制をかけようとする。今から自分が吐く言葉は最低の言葉だ。

「クーをっ……騙してたんだ!そして、クーを傷付けた!あんなやつのことを友達とか言うなっ!」

肩を震わせて、嗚咽をこらえながらリキは叫んだ。そしてセレナを放って、一人走り出していた。

俺は……最低だっ!あいつはっ……あいつはなんも関係ないのに……っ!それでも……それでもクーはっ……


『クー……クー=セブンス。クーでいいよ』


『じゃあ、フィエンさんも、カレンさんもみんな悪い奴だって言うの?僕は……そう思いたくはない!』


『なんていうかな、楽しいって言うのは不謹慎だけど、少しドキドキしてる』


「うぅ……ああぁあ……」

リキは、両膝と両手をついて倒れ込んだ。見つめる地面は灰色で、どこまで来たのか分からない。一人になって、抑えていた涙が溢れだした。それは何に対する涙なのかさえ、分からない。それでも止めどなく、それは激流となって押し寄せてきたのだった。


**********

 

 「あら、ファイリスさん。そういえば、二人は大丈夫かしら?もう夜も更けているというのに」

未だリキとセレナの姿が見当たらないことに気付いたティラナが訊いた。窓に映る空は、既に藍に染められている。ちなみに、ファイリスというのは受付の女性である。遺伝子工学の博士号を持っているということで、ただの受付役の女性ではないのである。あの後、二人は別室に移りセブンス医学部長についての話を展開していたのだった。

一度研究所に姿は見せたものの、またすぐにどこかへ行ってしまった、というのがファイリスがティラナに話した事実だった。そして、いつ戻ってくるかも分からないという。ティラナは、どうしたものかとファイリスに相談していたのだ。

「若い者同士、色々あるのでしょう」

抑揚のない声で、ファイリスは言った。

何か知っているかのような彼女の表情に、ティラナは不思議そうに彼女の顔を見つめた。


 ファイリスは、先程、一人で廊下を歩いていたときに交わした会話を思い出していた。

『あの……セレナさん……』

今日ここを訪れた少年が、息を切らしながら私に話しかけた。その少年の意図を素早く読みとった私は、最後まで話を聞かずに口早に言った。

『展望台へ向かいました』

展望台へ一人歩いているセレナを彼に会う前に見たのは事実だ。セレナの寂しげな背中と、焦っている少年、おおよその事情は掴めた。

知りたい情報を入手した少年は、お礼の辞すら述べず駆け足で去っていった。それを見送っていた私は、顔をしかめたが、やがて穏やかな気分になる。

「精々悩め、少年少女よ」

ついつい、年長者の感傷に浸ってしまった。まだ私だって若いのに。


**********

 

 「さっきは……ごめんな……」

リキは、セレナの背に向かって謝罪の言葉を述べた。

セレナは一人ベランダで、ベンチに膝を抱えて座っていた。長い銀髪が風になびいている。そして、大きな毛布にくるまって星を眺めていた。昼間は燦々と陽が降り注いで暖かかったのに、夜になると急に風が冷たくなってきた。地球の気候をあまり知らないリキはそういうもんなんだと納得をしていた。

くるりとセレナは振り返ると、笑ってぽんぽんと自分の隣を叩いた。

(座れって……ことなのか……?)

リキは不安を抱えながらも、とぼとぼとベンチに向かい隣に座った。セレナがふわりと毛布をリキの肩にかけた。大きな毛布だったので、二人が入ってもまだ余裕があった。時々風が、その生地を揺らした。






挿絵(By みてみん)






「先程のことでしたら、気にしておりません。むしろ、謝らなくてはいけないのは私の方です。考えが及びませんでした、すみません。ただ、私もフィエンのことを信じたいのです。その点において、私は貴方からどう罵られようとも構いません」

セレナが静かに、ただ芯の強さを感じられるような、リキにそう思わせるような声で言った。

「うん、俺だって本当の所はよくわかってない。だから、ごめん」

重ねて、リキは謝った。それを見兼ねたのか、セレナは苦笑すると話題を変えた。

「今日は星が綺麗ですね……。ただ、いつも見られるという訳でないのです。貴方は運がいいです」

リキはセレナの言葉を聞きつつも、黙って空に浮かぶ無数の星を眺めていた。火星からでも星を見ることはできるけれど、地球から見るそれはまた違った趣があった。ついつい、魅入られてしまう。

(それに……)

ちらり、と隣に座る少女に目をやった。月と星の光に照らされたその横顔は息の呑むほど美しくてびっくりしてしまった。その一瞬少女からは幼さの面影が消えていた。

リキは自分の頬に一筋の涙が伝っているのに気付いた。

(俺……また泣いてるの……?)

「ど、どうしたのですか?」

セレナは慌てた様子でリキに声をかける。リキは、涙を毛布で拭うと困ったように笑った。

「わかんねーんだ、何も。でも俺は生きていて、あんたも生きていて……クーだって生きてる。何だかなーって」

リキは、自分でもなんで泣いているのか分からなかった。それでも涙は溢れて来て、戸惑いは増すばかりだった。自分の中に芽生えた感情を言葉に表すことが出来ない。そんな自分の不器用さが悔しかった。

その様子を見て、セレナも同じ困ったような笑みを浮かべると彼を無言で胸に抱きすくめた。少女の白く細い両手は、少年を優しく包んだ。

リキは、暖かい気分になって全身を委ねていた。そして、再び無意識のうちに口から言葉を並べていた。

「俺の友達に、クーってやつがいるんだ。知り合ってまだ少ししかたってないし、お互いのことなんてほとんど知らない。それでも……あいつは絶対俺の友達で……」

「……はい。それは……素敵ですね」

セレナは渇いた花に水をやるように、リキに柔らかく言葉を添えた。

「でも、事故?事件?良く分かんねーけど……で怪我をしてやばい状態らしいんだ。だから、俺はここにあいつを助けられる医者を探しに来たんだ」

驚く程すらすらと言葉が口をついで出てきた。何でこんなことを話しているのだろう、とリキは思った。

「それで地球に……。でも……すみません。私にはその辺りのことは何一つ知らされてないのです。何か、協力したいのですが……」

無念そうにセレナは俯く。

「いいよ、大丈夫。俺が……絶対見つけるから。だから……」

「……だから?」

セレナは、言い淀んでいるリキを促すように言った。

「後少しだけ、このままでいさせて……」

「えぇ、もちろん」

ありがとう、とリキは心の中で呟いた。声に出すのは今更ながら気恥かしかった。

「一つ……約束して欲しいのです、貴方の手で友人の復讐などしないよう。決して、力ずくでの解決などを求めないよう」

「うん……分かってる」

クーが傷付いて、俺やいろんな人が悲しんだように、俺が誰かを傷付ければきっと誰かが悲しむ。そんなのは絶対に嫌だとリキは思った。

しばらくの間、二人は身を寄せ合って瞬く星屑を眺めていた。風はいつの間にか優しくなっていて、地球に祝福されてるような、そんな錯覚を二人に起こさせた。 

「俺たちで、作れるかな。誰も哀しまない、誰も傷つかない世界――――」

天を仰いで、独り言のようにリキは希望をこぼ した。

「……大丈夫です、私たちならきっと――――――」

その希望は途方もなかったけれど、月と星々はその輝きを絶やすことなく、二人を照らし続けた。壊れていくこの世界で、二人はこの上なく小さくて、儚くて、脆い迷い子だった。どこに向かっているのか、どこに辿り着くのかさえ分からない。それでも彼等は――――――――。


**********


次回、「side:副部長達の憂鬱」


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