第十五話:同じ道を歩いて
かなり間空きましたね。すいません。
これで第一部完です。最後にも作者コメントあるのでご覧ください。
作者コメント。
今回も稚拙ながら、挿絵を淹れてみました。3Dモデリングというのを少しかじりましたので。
一応、メギドをイメージしてみたのですが……精進します(汗)。
以下本編。
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気付いたら、そこにいた。
気付いたら、一緒だった。
それは当たり前で、当たり前でなかったと知るには俺達はまだ幼すぎたのかもしれない。
俺が今まで享受してきた時間が、とてつもなく尊いものだと知るのは、全てそれが現実として目の前で踊り狂ってからだ。
俺達はいつまでも子供でいる訳にはいかない。大人になるというのはどういうことだろう。
身体が成長すること?
自分で生活できるようになること?
後悔しない毎日を送れること?
自分に自信が持てる事?
俺には分からない。でも、きっと、その為に越えなければならないものがあるのだとしたら、それはきっと、とても残酷で哀しい。
「リク、レオのパターンを分析して送ったから!そっちで確認して!」
「あぁ………!」
俺は何の為に引き金を引くのだろう。何の為に剣を振るうのだろう。この痛い程の黒の世界で俺が手にしたいものは何なんだろう。
鮮やかな粒子ビームが暗闇を彩り、擦りあう金属が音のない筈の空間に響いていく。それは切な過ぎる程美しい旋律だった。絶え間なく波がたゆたう様に、俺達は変わっていく。それはどうしようもない事実で、そして俺が望んでいたことでもあったはずなのに、今は――――――。
「どうした?君の腕はそんなものではない筈だ?僕に遠慮しているのかい?」
「違う……!」
「それともなにか、ユーリがいるからかい?手加減のつもりなら愚かだね」
「違うっ!レオ、どうしてこうなってしまったんだよ!俺達は同じ道をっ……歩いていたんじゃなかったのかっ!?」
俺の問いにすぐにレオは答えない。言い淀んでいるはずはない。言葉を選んでいる、恐らく丁寧に。
「そうだね。僕達は同じ道を歩いてきた。それは間違いない、事実だ。でも、道は一本道ではなかった、それだけだ。違うかい?」
「あぁ、そうさ。いつだって人生は選択の連続だ!お前が何を選ぼうとそれはお前に自由かもしれない、だけどそれは、よく考えた結果なのか!?自分を偽ってるんじゃねーのかよ?」
俺がそう言った刹那、レオの放った粒子ビームが、俺のメギドに数発着弾した。機体が大きく揺れて、一瞬の間だったが、操縦が効かなくなった。
「リク!戦いに集中して!もう、私達は戻れないのよ」
「くっ……そう……みたいだな」
ユーリの叱責に、俺は目を覚ました。いつだって俺はこうだ。現実として目前に迫られないと腹を括れない。だから、大切なモノを失ってからでないと気付けない。
「うおおおおぉぉぉ!!」
乱射した粒子ビームが空間を裂いて、レオの乗るメギドへと襲いかかる。しかし、機体は華麗なステップを踏むように全てを回避した。
「覚悟を決めたようだね!でも、それだけでは僕には勝てないよ!」
「そうみたいだな、だから俺も本気でいかせてもらう!ユーリ!」
「分かってるわよ!データ再集計中!それまでは既存の物でなんとかして!」
俺は宇宙を駆け、撹乱させようと試みる。レオには大して効果がないかもしれない。それでも、今出来ることを行動しなければ始まらない。
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「ティラナ副隊長、マーゼ・アレインの基地を思われる建造物を発見しました」
「今はヴェクトいないんだから、隊長でもいいのよ?ふふ、フィエンとか言ったっけ?あの子泳がしといて正解だったわねぇ……。さて、どうしましょうか」
「政府からは我々に一任するということですが、隊長もいない状況ですし、無茶をするのは得策ではないかと思いますが……」
「そうねぇ……、確かに相手の戦力が分からずに突撃するのはお馬鹿さんだわ。でも、ここで一旦戻って……なんてことしてる余裕はないわ。人質なんて面倒臭い物を……!」
「まずは内部構造の把握が必要ですね。円滑に人質を救出して、迅速に、なるべく多くの構成員を拘束したいですからね」
「あぁもう、本当に面倒だわ。ひとまず、そのあたりの指揮はあなたに任せるわ」
「了解しました」
(人質なんていざとなったらなんとでも言訳が聞く……。ただ、構成員の拘束……。これだけは必ず成功させなければならないわね……)
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「それで、情報部から連絡は?」
「どうやら、情報部もサクラ=セブンス、アルト=コウザキ、カレンの動向を把握しきれていないようです。火星施設内にいないのは確定。問題は、どこまで飛び出しているかのようですね」
(ふむ……。これは真実なのか、それとも情報部側からの作戦か。いずれにしても、まだこちらに手札はある……。動かずに様子を見るのが得策か」
隊長ことオーベルト=アケルトの居所も分からない現在、全ての指揮系統は自分に任されている。下手なことは出来ないが、慎重に動きすぎてもここまで踏み込んだ意味がなくなる。この作戦の立案者である彼は、思考を止めず、あらゆる可能性を思案してはそれを練り上げていった。
そもそもこの作戦自体、賛同者がそれほどいた訳ではない。カレン、フィエンの拘束情報の勢いに乗じて自分が認めさせたようなものであった。それでも、もう始まってしまったのだ。全ての責任を背負う覚悟はある。必ず、成功させて見せる、そして誰も死なせはしない――――もちろん、あの人質の二人も事が終われば帰すつもりだ。
「サクラ=セブンス、アルト=コウザキと連絡が取れ次第、こちらに連絡するように伝えてくれ。もちろん子供を二人預かっていることも併せてな。危害を加えていないことも付け加えろ」
「了解しました」
後は、カレンが生きていることを祈るのみか、無力だな私達は。
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「はぁはぁ……さすがにやるね、リク。ここまでとは思っていなかったよ」
「……お前もな、こっちにはユーリがいる分有利だっていうのに。一対一ならば、もう勝負はついていただろうさ」
「それは、違うよ。今、ユーリが君といること。それも君の力なんだから」
自嘲気味に笑いつつ、レオは静かにそう言った。
「どういうことだ……!?」
レオの言葉の意味が分からず、俺は聞き返す。この時、どちらのメギドも動くことなく空間を漂っていた。
「そのままの意味だよ。ユーリが君といて、そして僕と戦っている。こうなったのは偶然でもなんでもなくて、君の力なんだよ。でも、僕にだって意地がある。抗ってやる、全てに」
レオは、自分自身にも言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「地球が壊れていく……としたら君たちならどうする?僕は、許せない。そんなこと……許せない。妹がいるということもあるけれど、それでも人間がそこまで身勝手に振る舞う権利なんてない筈だ。違うかい?」
「地球が!?どういうことだ?」
「リクっ!!!」
ユーリの呼び声のおかげで、すんでの所でレオの放つ粒子ビームをかわすことが出来た。しかし、息つく暇もないまま、粒子ビームが雨のように降り注いだ。俺は両手の得物も使い、致命傷にならないように攻撃を防いでいく。
「悪い、ユーリ……!油断した……!」
「謝るのは最後にして!まだ、終わった訳じゃない……!」
そうだ。レオの話していることが本当であれ嘘であれ、あいつは俺達と戦うことに躊躇がない……、いや違う、戸惑いがあるにせよ、腹は括っているんだ……!俺が半端な覚悟でこいつとやり合える訳がない。そもそも、昔から俺の考えていることなんて、いつもレオにはお見通しだったっけ。あいつの投げかける言葉全てに疑いを持たなければ、対等に渡り合えない!
「俺は、開発部にするよ!新しい世界を拓くんだ!」
「リク。あんた、そんなこと言って、開発部は学科の試験が簡単だからじゃないの?配属されてからは、どうせ勉強しなければならないのよ」
「そういうお前はどうするんだよ、ユーリ?」
「私は情報部かなぁ。レオは?」
「僕も開発部にするよ。リクと一緒だね」
「えぇ、お前が開発部?意外だなぁ、なんか。頭も良いのに。何でだよ?」
「秘密」
『なんでだよー!?(なんでよー!?)』
「あの時の答え、聞きたいかい?」
「戦いながら、おしゃべりか?もうその手には乗らないぞ!」
「つれないなぁ……僕が開発部を選んだ理由だよ」
呑気な声でレオが言う。しかし、今度は膠着状態ではなく、どちらの機体も激しく宇宙空間を駆っていたので、それはとても奇妙に思えた。実際、俺は上手く話そうとしても舌がもつれそうになる。
(まだ余裕ってことなのか……!)
―――――本当に敵わない。
「ただの反抗だよ。父親に対する、子供の、普通の、そして幼い……。下らないだろ?それでも結局最後には、あいつの思惑通りさ。ざまぁないね!」
剣と剣が激しく交錯する。レオの攻撃は相変わらず、猛攻と呼ぶに等しいものであったし、突くところなんて見当たらないと思った。しかし、隣でコンピュータを叩いていたユーリが言った。
「リク!レオの動きに少し異変が……!単調に、粗くなってきているわ。ここしか攻めどころはないわ!」
「え?……あぁ」
俺には見えない僅かな変化をユーリは見抜いていた。これが、唯一の最後のチャンスかもしれない。
俺を、ユーリを、レオを救う最後の―――――――。
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「ったく、まだなのかしら……」
イライラした様子でティラナは地団太を踏んだ。折角敵の本丸を見つけて、しかもいつもうるさいヴェクトがいないというのにすぐに行動に移せなくてもどかしいのである。この任務、最重要項目は人質の救出、次いで敵要人の拘束となっているが、彼女にとっては逆であった。すぐにでも、テロリストの確保に力を尽くしたい。彼女もヴェクト同様、己の正義心からこの部隊に請願したのである。ただ、それが少しずれたものであることは、彼女の考えから明らかであったが。
「ティラナ副隊長!人質のおおよその居場所が端末の情報から分かりました!」
情報収集の指揮を任せた部隊員からの報告が届いた。ここからは、ティラナの仕事である。人質を救い、かつ敵要人の拘束。敵の戦力が分からない以上、この二つを完璧にこなすのは非常にギャンブル性が高い任務となる。勿論、味方の誰も失う訳にはいかない。
「部隊を二つに分けるわ!陽動班と救出班。陽動班は、人質の捕えられた方角とは別の方向で爆弾を作動させて気をそらさせる。もちろん殺傷能力の低いものね。誰一人として殺してはならないわよ」
「副隊長、それでは要人の確保は……」
「私達だけでは無理……よ。増援が来るのを待ちましょう。私達は今、出来る事をするの」
本当ならば、真っ先に戦いに出て、悪人どもをひっとらえたい。それが、彼女の正義だった。でも、この状況でそれが最善手でないことぐらいは分かっていた。
但し、彼女達は一つ大きな見落としをしていた。端末から居場所を割り出したのだが、それは本人達が端末を持っている前提の話である。クーとリキが端末を奪われていたならば……。
「作戦開始!」
彼女の声が、こだました。
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静かすぎる火星の端で、紅蓮の爆炎が上がった。
それは当初予定されていた規模より遥かに大きなものとなってしまった。
その爆弾自体の威力は大したことないのだが、要因というものは常にそこらかしらにあるものである。
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俺は朦朧とする意識と、所々痛む身体を無理やり起こした。何が起こったのか、全く分からなかった。
どこから思い出せばいいのか、どこからが夢でどこからが現実だったのか。そもそもここはどこだっけ?
「クー!!!」
思考するより早く、言葉が今の状況を正確に伝えた。そこには幾重にもの瓦礫の下敷きになった親友の姿があった。そうだ……!何か知らないけど、大きな音がして、爆発して、崩れそうになった壁の間際にいた俺を―――――!
「おい、大丈夫か!?しっかりしろよ!何で俺を庇ってんだよっ」
声にならない嗚咽を抑えて、必死にクーに呼び掛ける。意識がないのか、なんの反応も示さない。血も服に紅く滲んでいる。詳しいことは分からないけれど、それでもかなりの出血量だ……!なんとかしないとやばい!
「……ぅ……ちゃ……ぁ」
意識があるかは定かではないけれど、クーの口から呻き声が漏れた。
「ん、どうした?」
「に……ぃ……ちゃ……」
「兄ちゃんか……?お前兄ちゃんがいるのか?」
「う……ん……」
俺を俺と認識しているかは分からないが、返答は出来るみたいだった。
それでも一刻も早くこの瓦礫をどけて、クーを助けないといけない。だけど、俺一人の力では絶対無理だ……。誰か助けを呼ばないといけない。
「クー。俺、助けを呼んでくるから!絶対、助かるから!」
そう言葉を残して、瓦礫の山を超えて駆けだそうとした、その時だった。
突如死角から現れた人影。それが誰かも分からない。助けを乞わなければいけない。親友を救わなくてはいけない。それなのに……――――――気に入らなかった。その瞳が。
そして、見ず知らずの相手に俺は咆哮した。許せなくて。こんなことになった理不尽が許せなくて。
誰のせいかも分からない、誰に当たっていいかも分からない状況で、むき出しの敵意は、その場に現れた『そいつ』にぶつけるしかなかったのだ。
「お前らなのかあっ!!!」
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長時間に及ぶ戦闘に俺達三人は疲弊していた。いや、レオのことは正確には分からないが、間違いなくそうだろう。俺達は二人で戦っているのに、あいつは一人だから。それでもあいつが倒れないのは、背負うものの重み故なのか。
「僕は負けない……。負けられないっ!」
「レオ……」
ユーリが心配そうな声を上げる。レオのことが気にかかるのだろう、それは俺も同じだ。でも、もうどんな手だって通用しない。力ずくでねじ伏せて、それからだ。今のあいつにはどんな言葉もどんな思いも届かない。
「ユーリ、あいつが心配なのは分かるが、俺達が今とれる手段は一つだけだ……」
「うん、分かってる。躊躇なんかしてやらない」
そうだ。戸惑い、躊躇、迷い。これらは俺達三人をまとめて陥れる。もう、道は違えたんだ。
「俺達はここで……決別するっ!!!!!!」
二機の黒き機体が振った剣が宙を裂き――――――――。
第一部完。
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作者コメント。
長々と期間を使いましたが、第一部はこれで閉幕となります。
なんていうか、もう少しプロットを組むべきだったなと……(苦笑)
第二部では、ほったらかした伏線や、登場人物の過去なんかにも迫って参りたいと思います。
もちろん、火星政府とマーゼ・アレインの動向や、リク達三人の行方。クー君とリキ君の安否、シンランさんとレータ君は無事再会できるのか、と書きたい部分はたくさんありますので、どうぞ暖かい目で見守ってやってください。
第二部のプロットをちゃんと(笑)組み次第、引き続き、投稿していく所存であります。
では、ここまでお読みいただき誠にありがとうございました。
もし宜しければ、もうしばらくお付き合いください。