第十四話:僕らの命-たたかい-の詩:後篇
今回、稚拙ですが少し挿絵を入れてみました。
作者欄
僕の落書きですが、少しキャラのイメージ画像を。
ちなみにリクとユーリとオーベルトとヴェクトはいません。それ以外の名前有りキャラはいるのではないでしょうか。セリフも服装も体型も適当ですので、あくまで(仮)として考えてください(笑)
誰が誰だか全員分かってもらえるでしょうか。
以下本編。
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「後はお前だけだ」
レータは静かに呟いた。その声がヴェクトに届いたかどうかは分からない。ただそこには堕ちたメギドが四機という、冷然とした事実があった。どれも全壊はしておらず、中のパイロットも恐らくは存命しているだろう。レータもリンも敵といえ人を殺すつもりなど毛頭なかったし、そんなことはしたくなかった。偽善かもしれない、甘えかもしれない、それでも二人はそれで良かった。二人が今守りたいものは全て守ることが出来たのだ。
「全員、生きているはずだ。火星へ連れて帰れ。そして伝えろ、僕達の我慢も限界だと」
「ふっ……」
それはレータには嘲笑のように聞こえた。ヴェクトのそれは、まるで赤子に呆れかえるような態度だった。
「何がおかしい!…………くっ!?」
レータは冷静さを失い、激昂して叫んだ。それに対する答えは言葉でなく暴力だった。一筋の粒子ビームがレータの乗るメシアの持つハンドガンを撃ち落としたのだ。
「どういうつもりだ!?」
「何故勝ったつもりでいるのか!?お前達が堕とした四機はいずれも急増メンバーだ、私の比ではない!」
ヴェクトの乗るメギドは右手に携えた剣を振りかぶり、レータの乗るメシアにそれを振り下ろした。
「ふんっ!」
「はっ!」
それをレータも右手の剣で受け止め、弾き返す。
「それがお前の答えなんだな!そっちがそのつもりなら――――!」
レータは再び戦闘態勢に入り、メギドの周りを弧を描いて撹乱する。それはやはり、地球の環境下では凄まじい速さだった。
だが、異変を感じたリンが声を張って叫ぶ。
「レータ君!」
ガンッ!!ガンッ!!
「ぐっ……!?何だと!?」
リンの声に反応するより早く、衝撃がレータを襲った。先程まではかすりもしなかった粒子ビームが、メシアを射抜いたのだ。
「確かに速い、とてつもなく。但し、動きが単調すぎる。機体の性能に頼りすぎている」
ヴェクトは独り言のようにそう言葉を紡ぐと、粒子ビームによる追撃を加えようとした。
その刹那だった。ヴェクトのメギドが持った銃が、大きな衝撃を受けて吹き飛び、それを受け止めきれずメギド自身も地を滑り後退した。
「……ッ!?」
ヴェクトが事態を飲み込もうと周りを見渡そうとした直後、再び大きな衝撃がメギドの背部を襲う。その機体が宙に浮き、近くの小さな丘に衝突するまで吹き飛んだ。
「ぐぁっ!!」
ヴェクトは思わず苦痛の悲鳴を漏らした。メギドは勿論、ヴェクトが受けたダメージも小さなものではなかった。コックピットの中は衝撃が緩和されるとはいえ限度がある。
「レータ君が帰れって言ってるんだから、ここは素直に帰ろうよ?ね?」
いつの間にかヴェクトの乗るメギドを足蹴にして、踏みつけるような姿勢をとっていたリンが言い放った。先程までの連続攻撃を行ったのはリンだったのだ。その口調は優しく穏やかだったが、声色はこれ以上抵抗するなという強い脅迫が込められていた。
「なっ……なるほど……私の負けだ。今回っ……はおとなしく退散しよ……う」
言葉切れ切れにヴェクトはそう言うと、リンの乗るメシアを押しのけ、堕ちたメギドのもとへ飛んで行った。
「レータ君、大丈夫?」
リンの乗るメシアがレータの乗るメシアに駆け寄り、心配そうに言った。
「あぁ、ありがとう、大丈夫だよ。やっぱり、君を敵に回したくはないね」
レータは、苦笑しながら答えた。
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「アルト、データ解析完了。送信するわ」
「了解」
果てない宇宙空間で、二機のメギドがせめぎ合っていた。一機に乗るはカレン。もう一機に乗るは、防衛部部長アルト=コウザキ、情報部部長サクラ=セブンス。瀕死の状態のハルカの乗るメギドを他の防衛部員に任せて、アルトとサクラはカレンを捕えることに集中していた。
最初は防御に徹して、カレンの様子を見つつ情報収集していた二人だったが、遂にサクラが、カレンのメギドを掌握した。相手にサクラのようなオペレーターが乗っているのかどうかを、二人は知らないが、たとえ相手が一人であっても自分達は卑怯だと彼らは思っていなかった。相手をここで捕えること、それが今二人が、もっとも優先すべきことであり、そもそもこれはクリーンファイトでもなんでもない。純粋な“戦い”なのだ。自分達が主張せんべきことを貫くために、自分達の正義を貫くために、勝利は絶対の条件なのである。
「さて、反撃させてもらうぞ!」
アルトはそう宣言すると、メギドの右手に装備したライフルから粒子ビームを乱射した。それは第三者からしたら闇雲に放っているようにも見えるが、綿密な計算に基づいて行われている攻撃である。カレンの速さをもってしても、そのすべてを完全に避けきることは出来ない。幾重にも重なった粒子ビームがカレンのメギドの装甲を剥がしていく。
「なんて無駄のない動きをっ……!」
カレンは、敵でありながら称賛せずにはいられなかった。オペレーターとしてサクラ=セブンスがいることは確実であろうが、操作するのはパイロット本人だ。ここまで洗練された動きは、カレンには出来ない。
「だが、私はここで引く訳にはいかない。技術で勝てないのであれば、私自身を削るまで……!」
カレンはそう言うと、コックピット内のレバーを引いた。
(義父さん……恩は返します……!)
カレンのメギドは、先程より数倍のスピードで宇宙を駆けた。流星のように光を放ちながら、漆黒の宇宙を染め上げていく。無数の帯を描いて、アルトたちの乗るメギドの周りを纏うと、剣を構えながら、多角度に波状攻撃を行っていく。一撃、一撃は軽いものでも、それが数度繰り返されれば大きなダメージとなる。
「あの動きは……っ!速すぎる!」
「落ち着け、サクラ。このスピードならばまだ、耐えられる!あんな動き、そういつまでも出来るものではない」
アルトとサクラはそれに驚きながらも冷静に状況を分析し、チャンスを待った。カレンの波状攻撃にも、剣と機体を翻して、重大な損害にならないように防御していく。
「ぐっ…………がはっ!さすが、部長クラス……ッ!一筋縄ではいかな……い!」
カレンも身を削って攻撃を行うが、それもいつまでも続けられるものではなかった。それでも彼女には並々ならぬ決意があった。ここで負ける訳にはいかない。だがそれは、部長二人も同じである。
「我々はここで朽ちてはならん……!」
そして二機が交錯した刹那、アルトのメギドの剣が鈍り始めたカレンのメギドの脚部を捕えた。機体の勢いは殺され、脚部はスパークを発し出した。
「まだだ!」
カレンはそう叫ぶと、残りの力で最高スピードを持ち直し、アルトたちの乗るメギドへ迫って行く。
「私の切り札だ。ここで私と宇宙の塵となろう」
カレンの乗るメギドの、崩壊を始めた脚部の一部が開き、中から無数ものミサイル型機雷が拡散した。それは宇宙空間で一拍置いた後、周りを黄色い閃光が瞬き、爆発四散した。その爆発に巻き込まれたあとは塵すら残らないだろう、といった規模だった。
カレンはこの攻撃で、自らの命をも賭けていた。つまり、今のこの状況が信じられなかった。
「馬鹿なっ……、私は……何故生きている!?」
「分かっていたさ。お前の切り札など……。サクラが感知できない訳ないだろう」
「何!?」
カレンは、スピーカーから聞こえる不遜な男の声に反発して、問い返した。
「分かっていたというのか、アルト=コウザキ、サクラ=セブンス……ッ!」
「えぇ……、脚部の装甲が明らかにおかしかったからよ。恐らく、ミサイルとかそんなものじゃないかと思っていたわ」
今、カレンのメギドはアルトたちの乗るメギドに抱きかかえられるようにして宇宙空間を飛んでいた。背部のブースターも破壊されており、脚部も完全にない状態であるので、身動きすることは全く出来なかった。
「殺さないのか……私を……っ!」
「帰ってから聞きたいことがたくさんあるからね。答えてもらうわよ」
「くっ……」
カレンは悔しさと無念さを噛み殺して耐えた。今は現実を受け入れ、対処するしかない。まだ彼女たちの戦いは終わっていない。
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そこは暗い独房のようなものだった。もっともそんなものを生涯見たことなどなくて、あくまで想像するだけの産物だったのだけど、いざ自分が押し込まれることになるとは思ってもみなかった。
僕とリキはあの後オーベルトさんについて歩いていき、その途中で意識を失い、気付くとここへ連れられていたのだ。ここに僕達が連れられたこととオーベルトさんとどういう関係があるのだろう。オーベルトさんは無事なのだろうか。とリキに話すと、『何言ってんだよ、あいつが犯人に決まってるじゃねーか!やっぱり簡単に信じるべきじゃなかったんだよ』と愚痴っていたが、彼が犯人だなんて信じたくなかった。いや、彼等が……犯人だなんて思いたくなかった。
「何考えてるんだよっ!」
「え……?」
「どうせ、あいつのせいなんだよ!俺達を騙して何か企んでるんだっ!」
その言葉は正論であるように思えたし、僕だってそこまで馬鹿じゃない。それでも……
「じゃあ、フィエンさんも、カレンさんもみんな悪い奴だって言うの?僕は……そう思いたくはない!僕達は昨日一度会っただけだし、交わした言葉も少ない。……でも、それでも二人が悪い人じゃないこと位は分かるよ……」
「……っ」
僕のその裏付けのない、無茶な意見に、リキは罰が悪そうにうつむく。彼も分かってくれてはいるはず
だ、昨日の想い出を汚したいなんて思っているはずはない。
「おい」
「わあぁっ!」
僕達は声を出して驚いた。その声は独房の入り口から聞こえたものだった。
「お前達に言っておく。今回のことは隊長の意思であって、フィエンもカレンも関係ないからな。それに俺たちだって、お前たちを傷付けるつもりなんてない。分かってくれとは言わないが、隊長のメンツの為に言っておく」
「そんなこと信じられるか!いつになったら俺達を解放してくれるんだよ!?」
リキが反発して叫ぶ。
「信じようが信じまいがこれは事実だ。それにそんなに長い間拘束しておくつもりはない」
そう吐き捨てて、男は僕達のいる所から離れていった。彼の言っていることを信じたい。彼等がどんな目的で行動しているかなんてわからないけれど、それでも何かあるはずなんだ……!
「くっそぉ……これからどうする、クー?」
「こうなったのは連れてきてしまった僕の責任だ。君は必ず家に帰してあげるから心配……しないで」
「何言ってるんだよ!?二人で帰るんだろ?早くここから抜け出す方法を考えようぜ?」
「うん……そうだね」
僕は力なく頷いた。ここから抜け出す方法なんてあるのだろうか……。でも、リキだけは何としてでも脱出させて上げたい。恐らく、彼らの目的は僕だろうから。僕を使って、お母さんを利用するつもりなんだ……!でも、何の為に?どうしても手に入れたい情報がある?……分からない……。
「リキ、そういえば端末は……?」
「え?あぁ……ねーよ。盗られてる。クーの方は?」
「僕のもないみたいだ。こっちから連絡を取るのは無理みたいだね」
「抜け目のない奴らだっ……!」
うん、これで僕達からの連絡は事実上不可能となった訳か……。何か方法……方法は……。僕は暗中模索した。
「……くくっ」
「……?どうしたんだ?何かおかしいのか?」
「いやさ……僕って今まで生きてきてこんな状況に出くわしちゃったことなんてないから、なんていうかな、楽しいって言うのは不謹慎だけど、少しドキドキしてる」
不思議な高揚感だった。幼少より火星で暮らす僕にとって、生死を分ける―――というのは大げさかもしれないけれど――――といった場面に遭遇したことなんてなかった。だから、今のこの瞬間がどうしようもなく貴重な時間に思えるのだった。
「はぁ……呑気だなぁ、でもなんとなくは分かるっ。これが一人だったらきっと寂しかっただろうけど」
リキが苦笑して答えた。でも、その通りだ。僕だって一人なら、今笑うことなんて出来なかっただろう。
だから、僕は初めて理解する、友達というものを。
「カレンとフィエンの状況は?」
「フィエンから先程連絡が入った!無事のようで、今こちらに向かっているそうだ。カレンは現在、アルト=コウザキとサクラ=セブンスと交戦中の可能性が高いということだ」
「なるほど……情報部に連絡を入れてください。息子を返して欲しくば、そちらもカレンから手を引けと。」
「…………」
「どうしました?」
「本当に隊長は、……このプランを?」
「えぇ、提案したのは私ですが、認証くださったのは隊長です。何か?」
「いや……いい。ただ、あまり気持ちのいいプランじゃないと思ってな」
「甘い……ですよ。もうこれは話し合いなどというものじゃない。“戦争”なんです。覚悟を決めてください」
「……分かったよ」
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居住区や研究所、各部の本部、政府の根幹がある部分を火星の表だとしたら、ここはまさに火星の裏だった。通常誰も足を踏み入れない領域、そこに二機のメギドが向かい合って浮遊していた。
「君たちか……やっぱり来たんだね」
「当たり前だ。どういうことか説明してもらうぞ、レオ!」
「君達に説明しても理解してもらえないだろう。お願いだから、ここは引いてくれ。僕は君達と戦うつもりはない」
その声に偽りは感じられなかった。いや、俺がそんなことを勝手に決め付けていいものなのかは分からないけれど、それでも親友の一人としてそれくらいは言わせて欲しい。俺だって、こいつとここで戦うつもりなんてないたのだから。
「レオ。あなたは許されないことをしたわ。私とリクだってあなたと戦うつもりはない。それでもあなたが何も言わないのであれば、その時は……」
俺と同じ機体に乗っているユーリがスピーカーを通して言った。
「強気だね、ユーリ。僕は君のそういうところが好きだった」
「茶化さないで!」
ユーリが真剣な声でレオを制した。
「レオ。俺達には理由を話してくれてもいいだろ。一体何があったんだ?」
「ごめん、今は何を話してもいい訳になる。それでもいつか君達も気付く、何が正しいのか」
「はっ、何だ?まるでお前が完全な神みたいな言い方だな。どんな理由であれ、お前のやったことは立派な裏切りだ!」
俺は、気に食わない。こんなの、俺達の知るレオじゃない。俺は抵抗する、目の前にある現実に。
「あぁ、理解しているさ!なるほど、やはりタダで帰してもらえるほど甘くはないようだね」
レオはその言葉ともに、メギドで腰に滞納してあったハンドガンを抜いた。それは恐ろしく自然な動作で、まるでそうなることが当然の様だった。まるで、この瞬間の為に今の俺達がここに配置されたようだった。
「ユーリ、覚悟決めろよ……」
「こうなるしかなかったのね……」
俺の言葉に、悲哀を込めた声色でユーリが応じる。それでもユーリだって分かっているはずだ。だから、俺と来たのだから。
俺達はここで―――――――
―――――――――――――――――決別する。
「今まで俺達は、一緒に歩んできたと思ってた。ずっと同じ未来を目指すと思っていた。全部偽りだったっていうのか?」
「そうじゃない。今まで僕らが歩んだ軌跡は間違いじゃない。でも、それは過去のことだから。だからこれからは、……未来は、違う道を、……お互いが信じる道を歩んでいこう」
次回、『第十五話:同じ道を歩いて」
「ありがとう、俺はお前を」
「ありがとう、僕は君を」
『忘れない』