第一話:はじまり
久しぶりの投稿。
新たなPNで書いていきます。
人間に宇宙開発という道具が与えられて数十年……。
宇宙は人間にとって、決して遠いものではなくなった。
壊れていった地球、壊れていく火星、新たに開発される新衛星。
歴史は繰り返すのか。
『守る』ことが最善だとは思わない。けれど、『立ち止まらずに進むこと』が最善だとも思わない。
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「あれが、新たに発見された衛星……」
俺は望遠鏡と、情報部が発行した新聞の天文図を見比べた。
『木星に新たな衛星!人間が住める可能性も?!』
新聞の見出しには大きくそう書いてある。この星では他にも事件はたくさん起こっているのだろうが、このネタより大きなものはおそらくないだろう。
地球に住んでいた頃から、木星にはいくつも衛星が発見されていた。
俺が生まれるよりもちろんずっと昔からだ。それでも人間が適応できる環境の衛星は今まで見つかっていなかった。
ただ火星から研究するとなると話は別である。
「こうなると、……疼くね、体が」
火星が壊れたときに移住出来る可能性のある星だ。みすみす逃す手はない。必ず、開発部は動き出すだろう。
ピンポーン!
感慨にふけっている(自分で言うのもなんだが)俺に無遠慮なチャイムが響く。
「ふぅ、あいつか……」
俺は入口に向かった。
「待ってろ!今キー解除するからー」
といっても、あいつは俺の部屋の認証キーを知っていたような気もするよなとか思いつつ、入り口に向かう。その時だった。
ドン!
鈍い音ともに勢いよく少女が部屋に転がり込んできた。
「リク!、見た見た?!あの新聞……っても私たちが発行したものだけど!」
「その前に言うべきことがあるんじゃないでしょうか」
俺は入口で情けなく横たわっている。そりゃそうだ。キーを解除しようと、入り口のパネルに手をやった瞬間、ゲートが開いたのだから。
もっとも、こいつは微塵も気にしちゃいねーだろうけど。
「ごめんね!ごめんね!でも、つい興奮して……一応公にするまではリクにも伝えられないからね!我慢してたんだから!」
「……まぁ、いいや。情報部はいつからこれ、知ってたんだ?」
「まだこの事実が発見されたのは昨日よ!開発部の人が、発見したんだって!!」
昨日……か。そうなるとまだ細かいデータは出てないんだろう。
「っとなると、まだ本格的に住めるかどうかはわからないんだな?」
「そうね、でも多少の誤差ぐらいなら人間はふっとばすでしょ!なんだかんだいって火星さえ住めるようににしたんだから!」
「ユーリ……、情報部なんだからこまめにリークしてくれよ?開発部のタマゴな俺には大した情報は得られやしねぇ」
「同じ17歳でも、才能の違いよねえ……」
「うるさい!……この衛星の開発が始まるころには俺だって現場にたてるように…」
「はいはい」
同じ居住区の近所で育った俺とユーリは幼馴染だったが、進んだ道は違った。
彼女は、火星全体の情報を管理する情報部へ。
俺は、新たな他惑星や火星の未開発地を拓く開発部へ。
ところがどうだ、同じ15歳でそれぞれ配属になったのに、彼女はもう現場で働いて、俺はいまだにタマゴとして研修中。
開発部は確かに危険が伴う仕事だが、そろそろ現場に立たして欲しいものである。
「あ、あともうひとつ気になる情報があったわ。こっちはあんまり良くない話」
「……?なんだよ?」
「火星保護団体ってあるでしょ?開発部の敵だから当然知ってると思うけど」
「あぁ、火星を地球の二の舞にしてはならない!って謳ってるやつだろ?」
「そうそう、あれの動きが活発になってるらしいわ。この衛星発見によって。」
まぁ……それは当然な話になるだろう。
これによって、火星がより粗末に扱われる可能性が増えたんだから。
「なーんか、めんどいことになりそうだねぇ……」
「あら、嬉しくないの?衛星発見」
「嬉しくないように見える?」
「……見えないわね」
そう言って俺たちは口の端を上げて笑う。
長い黒髪の長身少女と、ボサボサの茶髪の普通の背丈の少年は、同じ生意気そうな顔になる。
「この星は俺たちが拓く!」
「この星は私たちが拓く!」
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僕たちはまだ何も知らない。
人間は地球で生まれて、火星に来た。
その理由も術も、知っている。
でも、僕たちはまだ、何も知らなかったんだ。