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迷宮都市へ行こう!  作者: エツゼンヒサト
2/14

2 ハイトとエミール

「なんてな。実は俺も迷宮都市(ココ)に来るのは初めてなんだよ。」


 悪戯っぽく笑う金髪に、なんだか気がそがれしまい、男は荷車を城壁の入り口へと進め始めた。城壁の大きさに比べれば、その入り口はひどく狭かった。都市は、周囲をすべて森に囲まれているため、一般の人間が出入りできる場所はここしかないはずなのだが、出入り口は大型馬車がやっと通れそうな門がひとつあるだけである。ただし、そのすぐ脇には、人間が通れる広さをもった通路もあり、どやらここで、出入りの人間は二つの列に分けられるようであった。列はそれぞれ、荷物を背負っただけの軽装の者達と、それ以外の馬車や荷車などの大きな荷物を持った者達に分けられるようで、自然、金髪と荷車は別の列へとなる。

 金髪は、荷車からヒラリと飛び降り、「それじゃ、また後でな。」と、さっさと軽装の者たちが並ぶ列へと移動してしまう。残された男は、おとなしく、いかにも頑丈そうな立派な荷馬車の後ろに並んでで、順番を待つことにした。

 列の先は、城門の手前で衛兵による入場審査が行われており、それぞれの列ごとに2箇所の小さな建物が設けられている。審査は思いのほか簡単なようで、列はまったく伸びることは無い。これならば、さほど待つことなく男の順番が廻ってくるようであった。



 金髪の列は、3名の衛兵によって管理されていた。それほど並んでいる者が無かったせいもあるが、ほとんど待つこともなく衛兵からの声がかかった。


「プレートを見せてくれ。」と言われても、もちろん持っていないので、迷宮都市(ココ)は初めてだと答えると、


「新人さんか、そりゃ済まなかったな。麓の入国審査で一度確認しただろうが、ここで再度紹介状を確認させて欲しい。」


と、列から外され小部屋へ案内される。勝手はわかっていたので、さっさと紹介状を見せれば、


「ドルプ国のシュトレーゼマン卿か、珍しい大物の紹介者が出てきたな。ちょっと待ってくれ、すぐ確認する。」と何やら台帳を取り出して、目的の項目を見つけ、「問題ないな。その先で、名前を記入したら、入ってもらって結構だ。わかっていると思うが、ちゃんと麓の入国審査で書いた名前を書いてくれよ。」と、他には何の検査や質問もなく通されてしまう。実に、あっさりしたものである。

 彼は笑顔で「ありがとよ、お疲れさん。」と衛兵に例を言い、言われたとおり、入国の際に使った偽名を記入してようようと迷宮都市への一歩を踏み入れた。



 入ったすぐの場所はちょっとした広場になっており、金髪はぐるりと辺りを見回すと、腰を下ろせそうな場所を見つけて落ち着いてしまった。どうやら、先程まで一緒だった荷車の男を待つようである。自由気ままに見えて、割と律儀なところがあるようである。

 特に何をするでもなく、のんびりと周囲を眺めて時間をつぶしていると、まもなく一人の青年が声をかけてきた。


「よろしければ、少しお話をさせていただきたいのですが?」



 いかにも商人といった風情の男であった。年のころは、まだ20をいくつも過ぎていないだろう。くすんだ金髪を肩ほどできちんと切りそろえ、ニコニコとやさしい笑顔を浮かべている。一見したところ、いかにも人畜無害といった風情である。


 その存在は都市に入ってすぐに気づいていたが、その立ち姿には取り立てて怪しい様子はなかったので、特に警戒をしていなかった相手である。一瞬断ろうかとも思ったが、この商人がどんな話をするのがふと興味を引かれ、相手になってみることにする。


「いいぜ。ただし、それほど時間はないと思うが。」


「かまいませんとも、こちらは少し世間話をさせていただくだけです。それでは、お隣よろしいですか?」


無言でアゴをしゃくれば、失礼しますと軽やかに隣へ腰を下ろしてきた。


「申し遅れました、私、これから麓のアルレーヌの街で店を構えます、エミールと申します。以後、お見知りおきください。」


「ハイトだ。」


「ハイト様でございますね。先ほどから拝見しておりましたが、たいそう貴公子然としたご様子で、すこぶる男前でいらっしゃる。さぞや、ご婦人方が放っておかれないでしょう。」


「世辞はイイよ。くだらないことを言っていると、時間が無駄になるぜ。」


「イエイエ、これも商人なりのご挨拶ですので、様式美と思って、ご容赦いただければ幸いです。」


「気にはしねえよ。」


「ありがとうございます。ところで、ハイト様は、どなたかとお待ち合わせでいらっしゃいますか?」


「まあ、そうだな。」


「女性の方で?」


「男だな。」


「おや、もしかしてそちらのご嗜好がおありで?」


「いや、まったく興味がないな。」


「それは残念。」


「お前さんこそ、そっちの趣味の人かい?」


「いえ、まったく興味はございません。」


 感情のこもらない声の調子に、チラリと嫌味を混ぜたりもしてみるが、商人は変わらずニコニコとしたままで、変わらぬ調子で話してくる。どこまで本気か、まったく底を見せない男であった。



「失礼ですが、ハイト様は、この街には初めてお越しになったということで、よろしいでしょうか。」


「よく見ているようだな。違いないぜ。」


「恐れ入ります。それでは、その貴方の目から見て、この街をどう思われますか?」


「さあな。まあ、わかってる範囲じゃ、山奥の森のど真ん中にある鳥かごみたいなもんだな。」


「これは、手厳しい。しかし、なかなか的を得ていらっしゃるようだ。」


「大陸の西の果てまで、延々旅をさせられ、挙句の果てに山登りだ。しかもたどり着いた先は、周囲を見渡す限りの緑色ときたもんだ、迷宮(ダンジョン)でもなきゃ、誰もこんなとこには来ないだろう。」


「それには同意でございます。実際、大荷物での山の上り下りには苦労させられてますからねぇ。」


「まあ、お前さんらはそれが商売だから、自業自得だな。それより、よくこんな山の中に馬鹿でかい城壁を作れたもんだと感心するぜ。こんなにガッチリ壁を作ったら、街も大きくできないだろう?」


「そうですね、実際そのつもりは無いようでございますよ。この町ができて以来、街を拡げたことは無いと聞きますし、壁の外側に新しく街を造るという話もございません。」


「そいつは確かな情報かい? 迷宮都市はこれ以上大きくなることを望んでいないと。」


「何事にも完全ということはございませんが、おおむね。」


 ハイトは、エミールという商人への自分の興味が大きくなっているのを自覚していた。


「街は、あんまり人を増やしたく無いようでございますね。そのための紹介状制度でございましょうし。」


 それは知っている。初めて迷宮都市(ココ)を訪れたものは”紹介状”が必要であり、それがなければ入場することはできない。都市は、発行される紹介状の数を管理して、人口の過多を未然に防いでいる。


 ちなみに、紹介状を発行できる紹介者は、大まかに分けて、国家や有力貴族、都市と取引のある商人、個人として特別に認められたもの(最も多いのは、元探索者だったもの)となり、それぞれは、発行できる紹介状の数が年単位で制限されていた。


「紹介状制度についてはどう思われますか?」


「いいんじゃないか。こいつのおかげで、ロクデモない探索者は少なくなったって聞いたぜ。」


「たしかに。誰も、数に限りがある紹介状を、わざわざ無駄にはお出ししないでしょう。、みなさん、魔石や迷宮産の素材確保に必死でございますからね。自分たちが送り込んだ探索者に素材を収集させて、それをほとんどそのまま買い上げるというのが、現在の商いの在りようですし。国によっては、正規の騎士を送り込んできているところも少なくないようでございます。」


「まあ、そうなるだろうな。さすがに主力はいないらしいが、結構な実力者もいるとは聞いてる。」


「それだけ迷宮都市(ココ)の商品が魅力的だということでございましょう。そういえば、こういう話はご存知ですか?迷宮都市(ココ)では、入国から探索者登録まで一切の身元確認をやっておりませんから、他国ではお尋ね者になっている犯罪者が、大手を振って街を歩いております。有名なところですと…」


「有名どころだと、どんなのがいるんだ。」


「やめておきましょう。それは無粋というものです。」


「そこまで言って…、性格が悪いな。」


「いえいえ、あくまでハイト様のことを思ってのこと。そちらの方が、後の楽しみもごさいましょう。」


「フン、やっぱりいい性格してやがる。」


「ありがとうございます。褒め言葉と受け取っておきましょう。それで、これらの者達をいかが思われますか?」


「問題ねえな。そいつらだって、もう迷宮都市(ココ)以外には行き場が無いだろうから、そうそうバカはやれないだろう。」


「なるほど。ですが、他にも他国の間諜(スパイ)などが山のように入り込んでいますが?」


「それこそ、今更だな。あいつらなんて、嫌われ者の黒い虫と一緒で、どうやっても入り込んでくるんだ。完全に締め出せるだなんて思うのは、それこそ絵に描いた料理だろう。こちらの迷惑にさえならなきゃ、やっぱり問題ないな。」


「それもそうでございまね。それに、万一迷宮都市(ココ)で問題を起こしてしまいますと、紹介者にも罰則(ペナルティ)が与えられますから、彼らも表立った行動は取れないでしょう。中には、ここを追放されたものが、国許に帰ってさらに重い罪に問われたなどという話もございます。」


「おっかないはなしだな。」


「いやはやまったく。」



 ここまで、そこそこの時間がかかり、二人も結構な長話になっていたが、未だ門から荷車は現れない。ただ、ハイトは、エミールと名乗るこの商人との会話をすでに楽しみ始めていた。


「実際、他にも奇妙なことはございます。例えば、迷宮都市(ココ)では税金の類が一切ございません。私どもにとっては天国のような場所でございますが、これほどまでに優遇されると、逆に何か裏があるのではと勘ぐってしまいますのが、商人の悲しい性でございます。何せ、魔石だけでもその利権は莫大な富を生み出しますのに、迷宮都市(ココ)ときたら、それをほとんど放棄している。おかげで、魔石も素材も都市外へ持ち出し放題ですから、文句を言うのは筋違いなのでございますが。」


「商人にとっちゃ、いいこと尽くめだな。」


「まったくもって。ですが、それは、探索者の皆様もご一緒でございましょう。魔石や素材は、ギルド以外への販売が公に認められておりますから、自由に高値をつける商売ができる。」


「そこでお前さんらの出番というわけかい。」


「ところが、それほどうまくはいかないのが現実というもので…。

 有力パーティーには、既に特定の取引相手がございますし、先ほどの紹介者制度のおかげで、新規のかたですら既に契約済みというのが実状では、なかなか商売の手を広げることが叶いません。商品を仕入れようにも、相手は大棚の商店ばかりですし、ましては国家や貴族が出てこられては、吹けば飛ぶような個人商店ではとても歯が立つものではございません。分をわきまえて、細々とやらせていただいているのが実状でございます。

 何か良い手はないかと、街を散策しておりましたとところ、たまたま目に留まったのが、ハイト様でございました。」


「それで、俺に声をかけてきたと?」


「お恥ずかしながら。実は、私も何度か迷宮都市(ココ)には訪れておりますが、これまではあくまでお手伝いだけでございました。此のたび故あって、その知人から商業取引証を譲り受けることになり、どうにか自ら商いできるようになったばかりでございます。言ってみれば、ハイト様と同じ”新人”ということになりましょうか。この度は、その引継ぎもかねて迷宮都市(ココ)へ参っております。」


「いやいや、商人がその若さで店を持つとは、たいしたもんだ。あらためて、おめでとうと言わせてもらおう。だが、それなら結構忙しいんじゃないのかい。こんなところで油を売ってる暇があるのかい?」


「ありがとうございます。ですが、ご心配なく。連れは、今ちょうど野暮用がございまして、私も空いた時間なのでございます。」


「野暮用かい?そっちの方が重要そうだが…。」


「いえ、親しいとはいえ、詮索しないのも礼儀でございます。お気遣い無く。」


「まあ、いいさ。それであんたは、どうしたいんだい?

 国家や大商人を相手に、大立ち回りを演じて、これをばったばったとなぎ倒し。迷宮都市ご用達商人として名を上げたら、ゆくゆくは大棚の仲間入りってのが商人出世物語の相場だろう。」


「ふむ、それがそうでもないから困ったものでして。いえ、商人となりましたからには、「商いで成り上がって名を成したい」という気持ちは当然あるのでございますが、いざ店を持って現実をみてみますと、こう、何か目指すものが違うようにも感じられるのでございます。」


「びびってるだけじゃないのか?」


「そう言われますと、言葉を返せないのでございますが…、そうですね、なんと申しましょうか、”面白い商売”がしてみたい。というのが、もっとも適切な言葉ではないかと思います。自分しかできないことをやってみたい、例え他の商人に蔑まれても、自分で満足できる商いをやりたい、というのは、少し見栄を張りすぎではございましょうか。」


「驚いたな。」


「失礼ですが、何がでございますか?」


「こっちこそ、悪いんだが、あんたからそんな青臭い言葉が出てくるとは思わなかったんで、正直驚いた。」


 若い商人の見せた人間味に、ハイトの中での彼の評価はまた少し変わっていく。なかなか底をつかませない男であるのは変わらないが、歳相応の情熱は秘めているらしい。しかも、それは商人としては少し変わった方向を向いているようだ。変わった奴は面白い、先ほどまで一緒に来た荷車の男、奴も変わっている。探索者になろうというものは、そのほとんどが、傭兵として名を上げたり、国から選抜された兵士である。ところが、彼にはそのどちらでもないようだ。それは”匂い”でわかる。彼からは、その匂いが感じられない。一見隙だらけの素人に見えるが、大人の男と荷物を積んだ荷車を引いて楽々と山道を登っていく体力は、相当鍛えられている証拠である。実際、彼の所作の隙間からは、チラチラと何かを隠している様子もうかがい知れた。一言でいうなら、面白そうな奴だったのでここでこうして待っているのだ。面白い奴は、大好物である。



「どうやら、喋りすぎたようです。」


 エミールは、一瞬だけ頬を赤らめると、すぐさま元のニコニコとした彼に戻った。


「私としたことが、お恥ずかしい。こんなことまでお話するつもりはなかったのですが、お耳汚しでございました。お詫びに、ハイト様について、私が気づいたことをひとつだけご忠告をさせていただきます。」


「何だい?」


「ハイト様の格好は、ドルプ国産のものを中心に綺麗にまとめられており、どこから見ても、ドルプから来た貴公子と見受けられます。ところが、所作には、かすかにエネイル国貴族特有のものが見受けられ、それが、見る者が見ましたら、わずかな違和感を覚えるかもしれません。隣り合っている両国のことですし、そんなこともあるでしょうから、気にする者はまずいないでしょうが…」


 これには、さすがのハイトも顔色を変えずにいることはできなかった。まさか、この短時間に、こんな若い商人に見破られるとは思わなかった。決して隙を見せたつもりはなかったので、驚きもひとしおである。一瞬で外見はそのままに臨戦態勢になったハイトが、


「そうかい? そう言われても、何のことだかわからないいんだが。」


と、あらためて、エミールを観察してみるが、


「そうでございますか? これは偉そうに言いながらお恥ずかしい。若輩者の失言とお見逃しいたただければ幸いです。」


 たいして恐縮した様子も見せず、ニコニコとした笑顔もそのままである。ハイトは、そのまま状態を維持しつつ、「かまわねえよ、間違いは誰にでもあるさ。」と答えながら、少しだけ冷静に考えてみる。だが、ここでハイトに対してこの発言をするエミールのメリットを見つけられない。だとすれば、彼の言葉のとおり、単なる助言に過ぎないのだろうが、短時間で彼の偽装を見破ったエミールの眼は侮れない。少し嘗めていたなと、臨戦態勢は解きつつも、彼への警戒レベルをさらにひとつ上げる。



 ふたりの間の空気が、軽い緊張感をはらみつつ、微妙なものへと変化したところで、やっと、ハイトの待ち人がガタゴトと音をたてながら城門から現れた。

 どちらからともなく、フッと息を吐くように軽くなった空気に、


「オヤ、どうやらお待ちの方が到着されたご様子。名残惜しくはありますが、どうやらここまでですね。できれば、このエミールをこれからも御ひいきにしていただければ幸いです。」


「残念だが、それは確約できねえな。ただ、名前は覚えとくぜ。」


「充分です。(えにし)は結ばれました、後は、次の出会いをお待ちするばかりです。それでは、その時まで、ごきげんよう。」


 エミールは、そういい残すと、ゆっくとした足取りで街の通りへ消えていった。

 ハイトは、何とも言いがたい気分に、少し苦虫を噛み潰したような表情になるが、まあ、考えようによってはいい出会いであった。いまひとつ得体の知れない男ではあるが、どだい、商人などみな似たり寄ったりである。これから迷宮都市(ココ)で活動していくにも、独自の手駒は持っておきたい。その点、あの若い商人は、頭も切れそうだし、なかなか情報にも通じているようである。機会があったら、一度使ってみるのも面白いなと、心のうちでうなづいていると、荷車は、ハイトを通り過ぎて、そのまま進んでいこうとしている。


「オイオイ、ここまで待っていたのに随分つれないじゃないか? 置き去りにすることはないだろう。」


 荷車の男は、フードのせいで表情は良くわからなかったが、少し驚いたように、自分を待っていると思わなかった。さっきも誰かと話していたようだし、そっちと待ち合わせだと思ったと答える。


「俺だって迷宮都市(ココ)は初めてなんだぜ、そうそう知ってる奴なんかいるわけないだろ? えっ、じゃあ、さっき話してた奴は誰だって? うーん、さっき知り合いになった。結構面白い奴だったんで、お前さんを待ってる間にちょっと話をしてたのさ。」


 荷車の男は、ひとつうなずくと、何の話をしてたんだと聞いてきた。


「うーん、世間話かな? 後は…、そうだなあ、うまそうな肉だと思ってたら、ちょっと毒があったみたいで、苦かったっていうはなしかな…。」


 さらにうながされたので、


「料理? そう、まあどう料理してやろうかって言う話ではあるな。何の肉かって? 何だろう、ネズミかなあ。」


 と答えれば、ネズミの肉は臭いからやめたほうが良いと、どうやら真面目に忠告されてしまった。


「あはははっ、ワルイワルイ、そうだな、ネズミは食わないことにしよう。確かに食うのは骨が折れそうだ。それにしてもお前さんは遅かったな、えらく時間がかかったみたいだけど?」


 と尋ねれば、どうやら、彼の紹介者が問題だったようで、いや、問題のある人物ということでなく、誰も聞いたことの無い名前で、台帳で調べても似たような名前がいくつかあったため、とうとうギルドに確認したらしい。そうしたら、わざわざギルドから確認の人間が来たようで、最終的に問題は無かったとはいえ、通過するのにかなりの時間がかかってしまったということだ。


「そりゃ災難だったな。それじゃ、あらためて、これからどうする? さっさと探索者登録して、到着祝いでもやらないか?」


 と誘ってみれば、やることがあると返事か返ってきて、おもむろに荷車は動き出してしまう。ハイトは、すばやく荷車に並んで歩き始めると、


「そうか、それで何をやるんだ? 面白そうなことならつきあうぜ。」


と、まったくめげることなく声をかける。すると、荷車の男は、これは断っても無駄だとあきらめたのか、一言だけ彼に応えた。


「商売だ。」

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