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迷宮都市へ行こう!  作者: エツゼンヒサト
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1 プロローグ

 なだらかに続く森の一本道は、そこそこ大きな馬車でもすれ違えるのに充分な広さを持ちながら、生い茂る木々に日差しはほとんど遮られていた。


 その中を、フードを被った男に引かれた荷車が一台、それ程急ぐでもなく、淡々とした速度で坂道を登っている。


 一見、なんと言うことのない風景のようであるが、それを常ならしめるものにしているのが、我が物顔で荷車の荷台に陣取って、ひたすらしゃべり続けているひとりの男の存在であった。高価そうな服で身を包み、幾分細身の細身の直剣を携えたその姿は、旅人にしてはかなり軽装で、長い金髪とその整った顔立ちは、一見、女性と見まごう程の美貌を備えていた。しかし、よく見てみれば、その体は細くはあっても男性特有のそれであり、マントの間から見える筋肉はかなり鍛えられたものであることをうかがわせる。


 それにしてもよくしゃべる男であった。先程から荷車の男が口を挟む暇がないくらい途切れることなく言葉があふれ続けいている。


「いやー、助かったよ。この坂道をヒトリで上るのにも飽き飽きしていたんだ。その上、こうやって乗り物にまで乗せてもらえるし。まあ、ちょっと変な臭いがするけど、我慢できないほどじゃない。忍耐は美徳だよな。」


カラカラと笑い声を上げる金髪の男に、「お前が勝手に乗ったんだろう。」という荷車を引く男の胸の内の叫びは届くはずもなく、


「それにしても、あんたなかなか体力があるな。この道を進んでいるってことは、目的は”迷宮都市”なんだろう?商人にも見えないし、探索者志望だよな。」



 さて、ここで”迷宮都市”について少し説明しよう。


 この世界には”迷宮(ダンジョン)”と呼ばれる特殊な地下空間がある。迷宮(ダンジョン)は、とある山脈の中腹からその内部に広大に広がり、魔素と呼ばれる、通常の空間には存在しない物質で満たされている。その中は、”魔物(モンスター)”と呼ばれる独自の生態系で生活する危険な生物であふれ、とても常人が踏み入ることのできる場所でない。ただし、迷宮(ダンジョン)では、ここでしか手に入れることのできない素材も豊富に存在し、それを求めて”探索者”と呼ばれる腕自慢達が、世界中から集ってきていた。

 そんな、”この世界にたった一つしかない”迷宮(ダンジョン)の入り口を取り囲むようにして造り上げられたのが”イスアイア”という、人口2万人ほどの小都市であるが、ほとんどの人々はその都市名ではなく、”迷宮都市”という通称の方をを好んで使っており、むしろ都市名などまったく知らない人々のほうが多かったのである。



「それで、魔法について知りたいんだっけ?探索者になろうって奴が、それを良く知らないというのは信じられない話だが…いいだろう、せっかくだし、簡単に基本からレクチャーしてあげよう。どうせ、もうしばらくは道中何にもないしな。野郎同士の身の上話なんて、お互いに聞きたくもないだろう。」


 金髪は、コホンとひとつ咳をすると、軽い調子で話し始めた。


「魔法、これは人間なら、みんな使える。使おうと思えば、誰でもだ。これまで例外はないんじゃないかな。それじゃ、なぜ世間一般に広まっていないか?それは単純で、それは、魔法を使う為に必ず必要な”魔石”、これが一般人には手に入らない。」


「そもそも、魔法を使う仕組みを説明しよう。ます、人間は皆、体内に魔素を持っている。これは通常”魔力”と呼ばれ、人それそれに容量の大小が存在する。これがいわゆる魔法の元となるものであるが、人間だけの力ではこれをいわゆる”魔法”と呼ばれる事象として、現出させることはできない。では、どうするか。そこで登場するのが、”魔石”の存在だ。」


「魔石は「地・水・火・風・光」の系統をベースにして、多様な現象を起こす。何もないところから、火とか、水とかを生み出すわけだけど、その魔石の種類が、大体この五つに大別され、魔石の種類によって使える魔法が異なってくる。まあ、簡単に言えば、魔石さえあれば誰でもいろんな魔法を使うことができるわけだ。こうして、目に見える現象として現れた魔法のことを”魔術”と呼び、主にそれを行う者達が、通常”魔術師”と呼ばれている。」



 われわれの世界で例えてみよう。


 読者には、ライターを想像してみてほしい。ライターで火を点けるには火打石で火花を起こすことが必要だ。この場合、ライターを人体とすると、ライターの中にに詰め込まれたガスが”魔素”、火打石の働きをするのが”魔石”である。


 普段の生活において、人体で生成された魔素は、特に何に使用されることはなく、体のいたるところから体外に垂れ流し状態になっている。



「さて、その魔石だが、それじゃあこれがどこに行けば手に入るのかというと、当然そこら辺に転がっているはずがない。魔石は、魔物(モンスター.)しか持っておらず、手に入れるには、魔物を倒して体内から取り出さなければならない。つまり、例外もあるけど、唯一安定して魔石を供給できるのは、世界で唯一、魔物の存在する迷宮(ダンジョン)を持つ、”迷宮都市”だけということになるわけだ。」


「そして、魔石の価値をさらに高めるのが、れれをを装備した武器への様々な付与効果だ。武器に魔石をはめ込んで、魔力を送り込んでやると、まず、単純にその武器の威力が上がる。これは、切れ味だったり、強度だったりいろいろあるんんだが、まあ、ここではひとくくりに、武器が強くなると思えばいい。その上で、使用者の能力によって、特殊な攻撃ができるようにもなる。まあ、有名なところだと、火の魔石で剣に炎をまとわせて相手をぶった切る”火炎剣”と呼ばれる剣技だろうな。下手な奴が使うと、剣が痛むし、周りへの被害も大きいからおススメはしないけど、派手だし、比較的簡単に威力が上がるから人気があるみたいだな。」


「世間で魔法と呼ばれる現象の代表的なところはこのふたつだな。ただ、魔術というのはこれがなかなか使いどころが難しくて、使うのにもセンスが必要だ。それに比べれば、武器への付与は、比較的簡単に使えるし、世間には脳ミソが筋肉でできてる奴らのほうが多いから、使われる用途としては、こちらの方が、圧倒的に多くなっている。」


「そんな訳で、各国は血眼になって魔石を買い集めている。軍備増強はもちろん、魔石だって使えば壊れるものだから、いくらあっても充分ということはない。それこそ争奪戦が繰り広げられているわけだ。それに、当然それが欲しいのは国だけじゃない。金持ちや、研究者、傭兵連中をはじめ荒事に関わりがある人間たちはこぞって魔石を求め、こうしてその価値はさらに急上昇。そりゃ、一般人には手の届かない存在になっちまうよな。」


「でもさ、俺はそれはそれで良かったって思ってるんだぜ。なぜなら、魔法はなんだかんだいって諸刃の剣だからさ。楽に火が起こせたり、飲み水なんかが手に入る反面、使い慣れない奴が火事を起こしたり、子供でも簡単に人殺しができちまう。使い方次第ってことなんだろうが、過ぎた力は身を滅ぼすからなあ。」


 金髪はそう言って、これまでの彼に見られないしんみりとした様子で言葉を切ってしまう。何かしら思うところがあるのだろうが、この場でそれをうかがい知る事はできなかった。


「おっと、柄にもなく湿った感じになっちまったな。とにかく、そいうわけで、これから探索者になる俺達は、迷宮に潜って魔物を狩り、この魔石を集めるのが主なお仕事になるというわけだな。まあ、他にも高値で売れる素材も取れるみたいだし、ハイリスク・ハイリターン、命がけだが、その分稼ぎは信じられないほど大きい。誰もが憧れるというわけではないが、うまくやれば一攫千金の夢のお仕事、それが”探索者”だ。」


 そう言って、ニヤリと笑う金髪の様子は、ひどく魅力的で、ここに若い女性達がいたなら放ってはおかないのだろうが、唯一この場にいる男は当然彼を見ておらず、荷車は変わらず淡々と坂道を上っていくだけであった。


 その後も金髪の話は途切れることを知らず、探索者から金のことへ話が移り、いつの間にか女性のことになっていたりもしたのだが、それもようやく終わりを迎える。荷車が進む先は、木々のカーテンが途切れ、柔らかい光が彼らを包み込んだ。


 そこにあったのは、見渡す限り、視界一杯に拡がった城壁の姿であった。それは、森の木々よりもはるかに高く、まるでこの地へ来た者を睥睨して、拒んでさえいるように感じらる。


 そのスケールに圧倒されるように立ち止まる荷車の男に、金髪の変わらず明るい声がかけられる。


「オッと、ようやく到着だな。兄さん、ここが旅の目的地だ。


ようこそ、”迷宮都市”へ!」

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