元傭兵の元貴族
初めまして、Dandyです。
この度は、『王国の機甲使い』という作品を投稿させていただきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
また、超速での更新は不可能であるため、一週間から二週間を目処に更新していく所存でございます。
銃弾が飛び交う中で接近戦を挑むのは難しい。だが、相手が的撃ち名人か雉撃ち名人かがわかってしまえば、交わすのはそう難しくない。
「いくぜぇえ!!」
右手のコントロールパネルに表示されている武装を確認し、発動する。「Expansion」の文字が浮かび上がり、『グランマスター』の右手に巨大な鉄の塊が握らされた。
これこそが俺のこだわりであり、俺のアイデンティティといっても過言ではない武装、チェーンソーだ。
持ち手の部分にあるボタンを握ると、何枚も組み合わされた刃が動き始め、銃声にも負けない轟音を上げた。
相手の数は三機。そのうち二人は的撃ち名人で、リーダーっぽい一人は雉撃ち名人。リーダーの銃弾にさえ気をつけていれば、ほとんど被弾はしないはず。現に突進しているというのに、二発掠っただけで的撃ち名人一号の目前まで接近できた。
「このっ」
相手がライフルからショットガンに切り替えて、俺を迎撃しようとする。だが、この距離なら俺の方が速い。
振り上げた物を振り下ろす。それはとても簡単な動作だが、その物によってはとんでもないことになることがある。俺の振り下ろしたチェーンソーは、的撃ち名人一号の右肩に命中し、なんとも言えない音を立てながら、コックピットごと両断した。切り口からは血が溢れ出し、中にいた奴が無事ではないことだけはわかる。
当然のことながら断面はぐちゃぐちゃで、とんでもない豪腕で引きちぎられたような印象を受ける。そこから機体はピクリとも動かない。
「コイツ、本当にただの傭兵か!?」
リーダーが武装を小型ブレードに切り替えて、接近してくる。向こうから接近してくるなら好都合だ。
「ジャック! お前は回り込んで隙を狙え!」
「了解!」
なるほど。二体一で分が悪いがアレをやってみるか。
「そらよ!」
「ぐっ!?」
持っていたチェーンソーを的撃ち名人二号の進行方向ぶん投げて、動きを止める。その隙にリーダーのブレードを掴み、拳でコックピットを攻撃する。
コックピットは他の部位よりも頑丈に作られているため破壊は難しいが、ちょっとした衝撃を与えて相手の操作ミスを誘発させたりビビらせるくらいは出来る。
だが、相手は雉撃ち名人。それなりに戦闘のセンスがあるか、場数を踏んできた奴らのようだった。この程度では操作ミスしたりビビってくれることはなく、こちらが蹴られて距離を取る羽目になった。
ちらっと的撃ち名人二号を確認すると、既に俺の背後に回っていてライフルを構えていた。
「やべっ」
咄嗟に避けようと操作するが、体勢が変わる瞬間にリーダーがこっちの機体を掴んできた。
「やれ! ジャック!」
「うおぁぁあああ!!」
的撃ち名人二号が雄叫びをあげながらライフルを乱射した。止まっているせいで銃弾のほぼ全てはグランマスターに命中し、段々と無視できないダメージが蓄積されていっている。
「この放せってんだよ!!」
チェーンソーがあればリーダーを一刀両断することができるが、後先考えずに投げたのが間違いだった。手元にもう展開可能な武器はなく、拳や蹴りで対応しようにも密着している状態では上手くいかない。
こうしている間にも装甲は削られていっている。
やばい。今までない程やばい。解説策を考えるが、現状を打開できるものはない。
「クソッタレ………」
こんなところで死ぬつもりはなかったが、俺も今までに結構殺してる。殺されても文句は言えないさ。
諦めて、俺は操縦桿から手を離して目を閉じた。
傭兵と一言に言っても様々である。世間的には「金さえもらえればなんでもやる、ならず者の集まり」と言われることが多いのだが、実際に傭兵家業を通してわかったことがある。
確かにならず者もいれば荒れくれ者もいる。道理を弁えない者もいれば仲間を殺した者もいる。
だがそれ以上に、いつ死ぬかわからない職業であるため、なるだけ悔いが残らないようにしようという行動をとることが多い。金が入れば豪遊し、女に飢えれば娼婦館に行く。誰もそれを咎めることはしないし、むしろ推奨してる。
金回りが良くなるという点で同意できるが、もっと単純な話だ。そうした傭兵の集まる街では、みんながみんな、同じような暮らしぶりをしているからだ。
「全く、相変わらず一人で無茶してんなぁ」
「悪い。今回はマジで助かった」
コイツはダルス・ローガン。傭兵の中でも俺と同じ若造で、ひょうきんな性格から、ベテランたちから可愛がられている奴だ。
で、俺の絶体絶命のピンチに駆けつけてくれた戦友でもある。
「別にいいさ。俺とお前の仲だろう?」
「何気持ち悪いこと言ってるんだよ。ホラ」
とはいえ、命の恩人に例の一つもないのは流石に気がひける。マスターに店で一番の安酒を頼んで、ダルスに渡した。
予想通り、ダルスは顔をしかめて酒を飲み干した。
「おいおい、俺は高いぞ?」
「引退した後にいくらでも養ってやるさ」
「あらやだイケメン」
まぁ、俺が傭兵始めた頃からの付き合いだ。今更改まって礼をするほど気を遣うような奴じゃない。
「で、セグナ。どうするよ」
ダルスが急に真面目な顔になった。コイツが真面目な顔をするのは、娼婦館での相手を選ぶ時か、戦闘中に追い詰められたときくらいだ。
「何がだよ」
「お前の実家、元伯爵家なんだろ? 剥奪された爵位を取り戻したくはねぇか?」
「………」
俺が没落した伯爵家の出身であることは誰にも話していないはず。どうせどっかの情報屋にでも調べさせたんだろうが、元貴族の傭兵なんて誰にも嫌われる存在だ。だから自分の出生については誰にも話していなかったが、知られたのがコイツである意味救われた。
「まぁ、どうしようがお前の勝手なんだが……リーデル学園。そこで王宮護衛官を育成するらしい。身分や年齢を問わず、SCAが使えれば誰でもいいんだと」
「他の入学条件は?」
「入学金さえ払えば、とりあえず籍は用意してくれるらしい。そこからは完全に実力のみが物を言う世界だ」
入学金か………一応金はあることはあるが、気は進まない。五年ほど傭兵家業をやった中でそこそこ稼いではいるが、両親への援助かSCAの修理費がほとんどだ。王国が絡むとなると、入学費も高いはず。それを払うだけの余裕があるかはわからない。
「ダルス。悪いがその話は聞かなかったことにする」
「なんでだよ。お前にお誂え向きな条件じゃねぇか。入学金さえどうにかしちまえば、あとは実力だ。三年も戦場を渡りあるいてるお前なら、貴族のボンボンなんざ目じゃねぇよ」
「それは………そうだが………」
「おいおい。まさか、入学金を払ったら親父さんや御袋さんへの援助ができなくなるとでも考えてるのか?」
その通りだよ。だがこのバカにそれを言おうものなら、援助は俺に任せとけとか言いかねない。それくらいは自分でやるのが筋だろう。
「そんな入学金くらい、俺が出してやる」
「……はぁ?」
「人生長いからな。戦友割引ってことで、期限なしの利息なしでどうだ?」
「どうだ? じゃねーだろ! なんでお前にそこまでされなきゃいけねぇんだ!?」
確かに戦友で親友。お互いに助け合ったことも少なくないが、そんなことまでしてもらう義理はない。
だがダルスは自分の持っていたカードを俺のズボンの中に突っ込むと、急ぎ足でそのまま去っていく。
「お、おい!」
「俺はアンタの父ちゃん母ちゃんに救われたんだ! 恩返しくらいしてもバチは当たらねぇよ!」
「待てよ!」
股間にカードが入っているという現状で動けば激痛が走る。人前で自分のズボンに手を突っ込むのは嫌だったが、そうも言ってられない。
「あんの野郎………」
なんとかカードを取り出してダルスの後を追おうと外に出たが、ダルスは既に自身のSCAで街を出て行っていた。
こんなものを押し付けられてため息が出た。カードを見ると、何度も使った跡があり、このカードにどれだけの金が入っているかを想像させる。
傭兵の仕事はピンからキリまであるが、ダルスはその中でも報酬の高い仕事ばかり選んでいた。報酬が高いということは、それだけ不確定要素が多く、危険であるkとの証明でもある。そのため、仕事を受けるかどうかは、文字通り報酬次第ということである。
「………ぁああクソッタレがぁぁあぁあああああ!!」
こんなモン渡されちゃ王宮護衛官になるしかなくなるだろうが! 親にどう説明しろってんだよ畜生が!
そんでもって、十倍にして返してやるよクソ野郎!!
「ちょーっと強引だったかねぇ……」
セグナにカードを渡しはしたが、俺の予想は二つ。
一つ目は、人から金は借りないと言って、カードを一生使わずに置いとく。二つ目は、大人しくリーデル学園に入学してくれるが、十倍にして返してやると言ってるか。
まぁ、どちらにせよ俺にとってあの金は必要ない。自分が暮らすくらいの金なら、傭兵の仕事をすれば簡単に稼ぐことができるしな。
「どこに行こうかねぇ」
セグナが追跡してこないように押っ取り刀でここまできたが、肝心の行き先を決めてない。できればセグナが王宮護衛官の職に就くまでは、顔を合わせない方がいいかもしれない。
「んじゃ、二つ隣の国へ行ってみますか」
俺の乗ってる『キャニスター』のウィングを全て展開し、出力を最大まで引き上げる。闇医者ならぬ闇メカニックに頼んで魔改造してもらったもので、最高速度は現存する正規SCAの三倍。その代わりスラスターが溶けたりすることもあるが、国一つ跨ぐくらいなら問題ない。
最高速度での飛行を楽しみながら、我が戦友のことを考える。
確かに、リーデル学園の入学金は安くない。その金だけで十年は暮らせるくらいはある。あれだけ稼ぐのは苦労したし、そのために何回か死にかけたりしたし。思い返せばバカなことをしたと思わないでもない。
だが、セグナの両親は俺と、俺の家族の恩人だ。
俺の住んでいた場所は、元々セグナの家、ハーファルト家の領地だった。隣国と接してるから戦争があれば真っ先に戦場になる。
あの時、戦火に巻き込まれたハーファルト領では、戦争難民が続出。残っている物資は駐留軍へ 優先的に回せと言われていた。
だが、セグナの両親は駐留軍は王都からの支援で十分だとわかっていたらしく、物資は難民のために解放した。そのおかげで死にかけていた父さんは薬で治療できたし、餓死寸前だった母さんはなんとか命を繋ぐことができた。
だが、国軍に逆らった罰として、敵国の侵略を防いだ後に財産と爵位を没収された。
だから、今度は俺が助ける番だ。
傭兵といっても、世界観によって様々です。『もしSCAのようなロボットが兵器運用されているなら、こんな風に使われるだろう』という妄想です。
あと、何故チェーンソーなのか。
かっこいいからです。