これは一応一件落着?
このお話はこれで一旦終了となります。
ロッソの元に戻ると、もうヴィドックの人間は姿を消していて彼は足元にちょこんとお座りした『闇狼』の子を連れてティナたちを待っていた。
白いチビちゃんは黒い子の姿を見るとととと、と駆け寄って、じゃれあっている。
「終わったか。リナルドが馬車を用意しててな。こいつをギルドに引き渡したらルテテアでの任務は完了だ。」
ビアンカの背後で焦点の合わない目でぼんやりと立っているルイジを見ながらロッソが尋ねる。
魔術具の効力でルイジは今聞こえているけれど判断なんかはできない状態だ。
戻ってきたリナルドが改めて縄目を確認すると、睡眠薬をかがせて荷馬車に転がした。
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ルイジや他10名ほどをギルドに引き渡した彼らは、ルテテアの城門を出ると森の木陰で休憩をした。
他の旅人の目に必要以上に止まらないようにティナが軽い視認障害の魔法陣を展開した。
「さて。改めて聞こうか。君たちはどうしたい?住んでた山に戻りたい?」
「もうあそこはやだなぁ。飽きちゃった。」
白いチビちゃんが乱れた毛並みを舐めながら答えた。
「なに?ティナってば私たちを置いていくの?」
黒いチビちゃんがじっとりと責めるような目でティナたちを一人一人睨む。
「王宮に行くのは?大事にしてくれると思うけど。」
「今更知らない人のところに行きたくなんてないんだけど!」
「ですか。」
潤んだ目で見つめらながらもぐいぐいと来る『圧』を感じるのは気のせいだろうか。
「ティナってばめちゃくちゃ懐かれてるみたいなんだけど。あれ、もう断れない流れでしょ。」
「おふくろがガキの頃に言ってたの思い出すよ。ほいほい動物を拾っちゃいけませんってな。」
「ティナが連れて帰る、に私100ダルテン(通貨)賭ける。」
「え?俺もそう思うんだけど。」
リナルドとビアンカがヒソヒソと呑気にティナを賭けの対象にしようとしている。
「私は別にこの子たちを拾ってきたわけじゃないんだけど!!??」
「なぁ、ティナ。俺の意見を言わせてもらっていいか?」
傍らで見ていたロッソがふいに声をかけた。
「いくら幻獣とはいえ、意思があるなら尊重すべきじゃないか?ましてこいつらは言葉を使って明確に拒否の意思表示をしてるわけだし。だったら俺らが連れ帰るべきなんじゃないか?」
「さすがおじちゃま!わかってるぅ!」
白いチビちゃんがトンっと飛び上がるとロッソの肩に軽々と飛び乗った。
「待て。こら!誰がおじちゃまだ?」
「えー?その顔はおじちゃんでしょ。まさか俺は若い!とか言うの?」
「それはさすがに図々しいんじゃない?」
子供から見たら大人の年齢なんてわからないもんだよね、とビアンカとリナルドが妙に納得している姿にロッソが大きく舌打ちをした。
「やかましい。お前らもう黙ってろ。やっぱりあのフード野郎に引き渡すか?王宮に連れて行かれるぞ!珍しい魚は食い放題でも金の鎖でつながれるだろうな!」
ロッソがはやし立てる白チビを犬の子みたいにつまみ上げるが喜んで鼻先をペロッと舐めた。
「ティナ~。ロッソが僕たち連れて帰ってくれるって。」
「誰もそんなこと言ってないだろうが!」
白いチビちゃんの嬉し気な声に黒いチビちゃんがそっとティナに寄り添ってうるうるとした金色の目で私を見上げる。
これで「ダメ」とか言ったらものすごいヒトデナシ扱いをされるのではないか?とティナはふと思う。
「もうっ!わかったよ!雪狼と闇狼なら許可制だし!」
「ありがとう!でもね。でもね。僕らもそんな長くはいないよ。大人になる手前までのちょっとした間の同居人だと思って。」
「そうよ。いつかは母様に会いに行きたいし、仮の宿よ。そんなに迷惑かけないわ。成長したら人の街にはいられないと思うし。」
なだめるようにそう言われると、確かに彼らは自由意志で行動することが出来る。
「そうだね。竜はもともと自然の中にいるものだものね。そう言われたらちょっと寂しい・・・かな。」
「うん、人の世にある美味しいものをちょこっと食べさせてもらったらちゃんといつかは帰るから。」
「こいつら、食い物で選んだだけじゃないの?」
リナルドが笑いながら言う。
「「僕たちの成長ってゆっくりだから。せいぜい50年ちょっとお邪魔するだけだから大丈夫!」」
「「「「長いわっ!!」」」」
尾を振りながら呑気にのたまった子竜たちにティナたちはいっせいに突っ込んだ。
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「帰ったらトマさんにペットのお願いしなくちゃいけないな。」
「出てけって言われたりして。レジーナさんちにお世話になる?」
「え~?宿無し?それは困る。でもなぁ。姉さんちには行きたくないし。」
ティナだってあの新婚さんの中に入り込むなんて御免こうむりたい。まだ死にたくない。
「どうしたの?ティナ。困ってるの?」
ポン、と軽い足取りでロッソの肩に乗りながら白いチビちゃんが尋ねた。
「聞いてやるなよ。大人の問題さ。」
リナルドが肩をすくめながら笑う。
「お金、っていうのね。」
黒いチビちゃんがリナルドの肩に飛び乗るとなんだか訳知り顔みたいな表情をしてみせた。
「・・・なんで幻獣がそんなこと知ってるんだ?」
黒いチビちゃんの言葉にロッソが驚く。
「そりゃあの倉庫で見張り番が話してたからよ。ジゴクノサタモカネシダイ?カネノキレメガエンノキレメ?なんだかわからないんだけどね。」
「あの環境から出してやれて、ほんとによかったわ。」
ロッソとリナルドがため息交じりに呟くと同時に天を仰ぐ。
「あ、そうだ。それならさ、これあげるよ。」
白いチビがそういうとふっと身構えた。やがてゆらゆらと赤いオーラが立ち上り床にコロリと赤い光る石が転がった。
「え?」
「龍の雫?ちょっと待って、古のロットランド帝国の帝冠に着いてるって伝説が!!」
リナルドが息を飲み私が呆然とする中、チビちゃんはそれを咥えて差し出してくる。
「あ、それなら私のもね。」
そういうと今度は金色の雫を黒い方が差し出す。
「今世界で確認されているのは、ロットランド古王国のを分割した小指の爪サイズ、聖神教会の秘宝とか・・・。えぇぇぇ??」
リナルドの横でビアンカも呆然と成り行きを見守っている。ロッソに至っては完全に固まってしまった。
「待って、待って!龍の雫とかマジモン伝説だし!そんな簡単に渡されても!」
「要らないなら捨てていいよぉ?あ、みんなも欲しい?ちょっと待ってね。」
そう言うとリナルドの声にならない悲鳴とともにチビちゃんが鋭い爪で叩くと雫はあっけなく親指の爪くらいのサイズの4つに割れる。
「これならみんなで持てるよね。ケンカしないでね。」
呆然とする人間の混乱をよそに2頭は私たちに挨拶するように舌で軽く頬を舐める。
「これを持っていたら離れていてもどこにいるかわかるし、お話もできるんだよ。」
「はぁぁぁ??そんな効能まで?いいの?これ。俺が持っても?」
「私たちも母様とお別れするときにもらったの。ここ、見て見て。」
言われた通りに胸元の毛をかき分けてみると2頭の体に人の指先ほどの濃いサファイヤブルーの石が埋め込まれている。
「僕ら、これで母様とお話するときもあったんだよ。」
「ティナたちが来てくれなかったらこれで母様呼ぼうかと思ってたの。」
(・・・ルテテアの街にどえらいものが襲来するところだった・・・・)
平穏でないティナたちの日常はこれからさらに平穏さを失うのかもしれない。
ギルド職員裏方話、これで第一章終了です。
もう少しお仕事っぽい話が浮かんでいるので形になれば掲載するかもしれません。
その時は続きにするか?シリーズみたいにするか、どうするもんなんでしょう。
読んでいただいた皆様、ありがとうございました。