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魔法使い、なめんなよ

お盆って忙しいです(涙)

「じゃぁ俺はリナルドを手伝って転がしてる奴らを護送する準備してくる。お前はここの始末を頼む。」

ロッソがそう言って倉庫を去る。2頭のチビたちはふとティナとロッソを見比べていたが黒いチビちゃんは彼に促されトコトコとその後をついて行った。


「僕はティナと一緒にいるよ。とっても悪いオーラが近づいてきているからね。」

そんなことを言う白いチビちゃんをしゃがみこんで頭を撫でていると背後に近づく気配があった。


「ねぇ。逃げるならさっさととんずらすればよかったのに、どうしてそんなところに隠れているわけ?」

隠す気もない気配に向かってティナが声をかければロッソのそれとは違って随分と手入れの悪い剣をだらりと握ったままで物陰からニヤニヤ笑いのルイジが姿を現した。


「誰よりも早くエリクセンを見捨てて逃げ出したのに、わざわざここに戻ってきたという事は、よほど私に用があったんでしょう?」

「ボンボンがお上の手に渡るなら俺にも教えてくれてよかったろうにさ。薄情だな。ってか俺も対象なんだろ?」

黙ったことを肯定と悟ったのか、笑みを消すとゆらりと殺気を放つ。

「お前、ギルドの職員だよな。裏業務専門の。髪色違ってるから気づくのが遅れたぜ。最初からエリクセンをハメるつもりだったんだろ?俺ももろともにな。」

ルイジはそう言いながら手入れの悪い剣を構えながら大股で近づいてくる。

「馬鹿にしやがってよ。いたぶってやるよ。どうせお前は魔法使いだろ。だったら反射速度も力も俺の勝ちだ。お前の呪文は俺にはいっさいあたらねぇよ。その犬っころを売れば当座の金も手に入る。」

そう言いながら白いチビちゃんに目をやる。毛を逆立てて威嚇しているがさほど気にはしていないらしい。


「戦士の反応速度はわかっているけれど、私をあんまり舐めないでよね。

『万物に宿りしすべてのマナよ 我が呼びかけに答えてその姿を変えよ。燃え盛れ火の玉 』」


「当たるかよ!!」

詠唱の間に距離を詰めてきたルイジが振り下ろす剣を軽く横に流して避けながら、今度は無詠唱で大き目の火球を叩きこむ。

「だから!当たらねぇんだよ!!」

ルイジが剣を持たない手を眼前にかざすと、放たれた火球はじゅっと大きな音を立てて消し飛んだ。


「え?どうして?私の火球が?」

声は上ずらせて驚いて見せるティナにルイジの顔が歪んだ満足感にみたされた笑みを浮かべる。

「わっはっはっは。だから無理だっていっただろう。俺にはお前らへっぽこ魔法使いの攻撃はきかねぇんだよ。」

それでも油断なく右手の剣でティナの方をけん制しながら左手をかざして見せた。

ティナはそれでも往生際悪く、今度は風の刃を叩きこむがそれも霧散して消え失せた。

(やっぱり・・・そういうことですか・・・)

貧相で古ぼけた身なりをしているルイジには不釣り合いな内部が金色に煌めく黒い石が連なった腕輪が見える。

腕輪の方に向かってキラキラと煌めきながら分解されたマナが吸収されていくのがわかる。

予測が確信に変わり、ティナはこみ上げてくる笑みを隠しながらルイジに向き合う。


(やっぱり・・・・)

煌めくマナは魔法陣が石に仕込まれている証だ。ルイジは魔力反射か魔力吸収の魔術具を持っている。


初めて絡まれた時に呪符から吸い出される魔力の流れに気が付いて魔法を使うのをやめた。

ルイジは魔術具を所有しているわりに魔力の流れには無関心だからヤツ自身に魔力を扱う力はないはずだ。

ビアンカに頼んでこれまでに察知範囲外で呪符で試してもらっているので間違いないだろう。



「そろそろこっちからいかせてもらうぜ。」

自分が圧倒的優位にたっていることを確信して、もう隠す気もないほど興奮しているのが目光から伝わってくる。

「魔法使いなんざ、魔法さえ封じてしまえば力も何もねぇ、ただの女と変わらねぇってことを教えてやるぜ。安心しな。俺は紳士ってやつだからよ。いい想いもさせてやんよ。」

ぐいと腕を伸ばしてきたルイジの手をすり抜けると、彼は驚き怒りを滲ませる。


「魔封じできるってわかればあとはそれなりに対処できるわよ。」

言いながら強化した腕でがっつりとその手を掴んでジワジワと押し返すと、ルイジの顔が驚きでわずかに歪む。

「魔法使い、しかも女のくせになんて馬鹿力だ・・・」

「身体強化済なのよ。見たことない?魔法は外に発動するだけじゃないんだよ。」

がっつりと掴んだ手をそのまま勢いよくひねりあげると、ルイジの肘関節がグキリと嫌な音を立てて曲がる。

「うわぁぁぁ。いてぇぇぇぇ!!」

痛みに力が抜けた瞬間にティナは刀を仕込んである杖を素早く抜くとルイジの顔を一閃し、そのまま勢いよく刀の柄を首筋に叩きこむ。ルイジは血を流しながら倒れこむ。

足元で口から噴いた白い泡と額から流れる赤い血にまみれて倒れるルイジをティナは足先で軽く蹴飛ばし転がした。

「魔封じさえあれば勝てると思った?甘いわね。」


起き上がろうとしたルイジをトコトコっと近づいてきた白い子竜が片足で押さえつける。

「犬っころが何しやが・・・。んだとぉ?」

子犬サイズの生き物が、軽く前足を置いただけなのに起き上がることもできずピクリとも動けない事実にルイジが硬直し、それどころか徐々に圧迫感と痛みにうめき声をあげる。

グルル、と低いうめき声をあげながら瞳の色と同じ赤いオーラが立ち上る。

丸くくりくりとした瞳は瞳孔が縦に裂け、害意を向けられていないのに瞬時怯えてしまうほどの殺気に、ティナは思わず息をのむ。

「あ・・・・。い、いやだ・・・殺すな・・・。殺さないでくれ・・・・。」

ぐわっと開いた牙を剥き、のど元に迫る白い生き物の動きにルイジは泡を噴いて気絶した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「無事に終わったみたいだね。」

ルイジの気を刈ってしまったティナの背後にのんびりとした口調でビアンカが現れた。

「ビアンカ~。ねぇねぇ、僕、かっこよかった?」

先ほどの殺気は綺麗さっぱり消えたチビちゃんがビアンカの肩に飛び乗ってじゃれつく。

「うん、すっごく怖かったよぉ。かっこよかった。」

そう言いながらビアンカは指先でチビちゃんの首元をくすぐり、チビちゃんがほっぺをペロリと舐めた。

「もう終わるまで陰でこっそり見てたでしょ。薄情。」

「ティナ、一人でできちゃうでしょ。私が入ったらジャマだと思って。」

それでも援護するつもりだったのだろう手に持っていたナイフをホルダーに戻しながらビアンカが笑った。


ぽんぽんと背を叩かれてチビちゃんがビアンカの肩から飛び降りると、ビアンカは用意していた手枷をルイジの手に、さらに行動を制限する額輪をはめる。

これを付けると術者の言う行動しかとれなくなる。ギルドでも許可を得た者だけが持てる逮捕の魔道具だ。はめられたルイジの目から意志の光がすっと消えた。



「ルイジ・デ・ヴィント。腕はよかったんだけどお酒とギャンブルで身を崩した元冒険者。ウェロナの街のギルド他5件のギルドから被害届出てたよ。」

ビアンカの横でティナがルイジが付けていた腕輪を壊さないように慎重に外すと魔力を遮断する皮袋に入れた。

「その腕輪はウェロナの街の冒険者、グイドの形見、娘から巻き上げたって。」


ギルドへ届けられる冒険者からの被害届はそれなりの数があるのでそのすべてを覚えておくのはまず不可能だ。

だけどビアンカの驚異的な記憶力はその不可能を限りなく数を減らすことが出来る。


「こいつ、どうなるの?」

「窃盗の罪、仲間から奪った咎でギルド内規約違反。また悪さしないように魔力紋を刻印の上、ギルド所有鉱山で賠償労働よ。」

ビアンカがよどみなく返答した。魔力紋で封印の上に労働罰なら10年近くは出てこないかもしれない。


「じゃ、そろそろロッソのところに追いつこうか。あれで絶対に気が付いてるからやきもきしながら待ってるよ。」


ビアンカが笑ってティナの肩を軽く叩いた。



次回で一旦終了です。

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