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パパママ冒険者、お仕事中(2)

ニベア市内で子供たちが賑やかにそれぞれの課題をこなす頃、魔の森の中ほど。


「ふっふっふ。やっと見つけたぜ。飛鹿さんよぉ。何の恨みもないけど観念してうちの子のミルク代になりやがれ。」

「ガタガタ抜かしてるヒマがあったらしっかり狙いなよ。仕留め損ねた方が明日から夕食担当だからね!」

「なっ!お前こそ。俺が仕留めたらエール一樽かってもらうかんな。」

「はぁ?やれるもんならやってみな!」


ヤンとアンナの夫婦狩人はもう2日ほど飛鹿を追い続けていた。追い回しどちらが先に体力と根気が尽きるかの消耗戦の様相だった。

先ほどの会話だがこの時、夫連敗記録更新中である。


「ちょっと近づきすぎないでよ。臭いのよ。」

「ひでっ!お前だって。」

「私は清浄魔石で汗は流してるんだから!その臭いで逃げてんじゃないの!?」

「あ、もう俺だって使いたいけど男は我慢しろって言ったじゃないかぁ。」

妻がカッとなって言い返すがすぐに獲物に気づかれないか?と口を閉ざす。


「あぁあんたの顔よりそろそろ子どもたちの顔が見たいよ。」

「そりゃ俺だって同じだよ。」

出発前に3日の予定でギルド養育院に預けてきた彼らの子供は3歳と1歳。

目の前にいる時は逃げ出したいときもあるけれどやっぱり可愛い我が子だ。

養育院にはだいぶ慣れてきて別れる時も下の子は泣きながら、上の子は笑って手を振ってくれた。

預かり母も養育院の職員も大事にしてくれるとは知っているけれど寂しがっていないか?泣いていないか?ふとした瞬間に思い出して恋しくなる。



「本当にそろそろ仕留めてニベアに帰りたいんだよね。でもクスリ3匹じゃ割に合わなすぎるよ。」

アンナはじとりとヤンを見る。

昨日別行動をしているときにクスリを数匹見かけたけれどヤンがくしゃみをしたせいで取り逃がしていた。

あれを捕獲できていれば飛鹿にこだわり続ける必要もなかったのが惜しまれる。

飛鹿は捕獲に成功すれば1か月ほどは食費に事欠かない収入になるけれど、高価なだけに捕獲も難しい。

子持ちで狩りに出るヤンとアンナにしてみれば不意の出費に備えて二人で稼げる時は少し無理をしてでも稼ぎたいのは正直なところだ。


「この飛鹿を捕まえられたら、私しばらく子供たちと過ごしたいな。」

「俺だって日帰りの仕事にしたいよ。シャロンが立ったの見そびれたの今でも悔しいもんな。ルカのは見逃したくないぜ。」

金が入ると飲み歩いたりすることも多い冒険者の男の中でヤンは子煩悩で家のことも自分でこなすなかなかの夫だ。

この生活を安定させるためにもぜひとも狩りを成功させたい、とアンナは思う。

念の為持っていた通信魔術具で養育院には遅延連絡したけどこれ以上の延長は料金的にも携帯食糧の持ち合わせ的にも厳しい。


水場に近づいてきたものの周囲への警戒を怠る様子もない飛鹿に存在が気づかれないように息をひそめて二人は待つ。

あたりを見回し、ピンとたった耳から力が抜けたように見えた。

顔を見合わせ頷くと満月のように引き絞った弓から放たれた矢は急所を貫き仔馬ほどの大きさの飛鹿がどうっと倒れる。



「やった!!ついに倒したぞ!!」

首と足を射抜かれて数歩走って倒れこんだ飛鹿にヤンが歓声を上げて立ち上がる。

「早く!まだならトドメをささないと!」

そんなヤンを横にアンナはまだ足をばたつかせあがく鹿へと駆け寄り、ヤンも慌てて後へと続いた。


早く処理して持ち帰らないと鮮度が落ちて売値が下がる。延長保育代の支払いがあるからなるべく高値でないと死活問題だ。

上手く腹を避けて射貫くことが出来たので内臓に破損はないだろう。

手早く飛鹿を魔術具の布に包み、折りたたみ橇を用意し、帰る準備を整える。


魔法鞄を買えば楽にはなるけれどまだまだ養育院代もかかるしアンナが頷くか問題だな、とヤンは思う。

(魔法鞄買うか、武器の方を買い替えるか、これ相談しないといけないよなぁ。でも積み立て保育費って言うかなぁ。)



「やったぁ!私だあ!ほら矢羽根!私のがここであんたのは足だからね!」

血抜きの作業をしながら刺さった部位を調べていたアンナが喜びの声をあげた。

「わあった!分かった!はい。凄い凄いなぁ。」

折り畳み橇の組み立てをしていたヤンの返事はぞんざいだ。


「感情こもってないなぁ。ふっふっふ~。悔しいの?悔しいのね?これで私の4連勝だもんねぇ。」

「褒めてんじゃんか!はしゃぎまわるなよ。あぁ、もうさっさと載せろ。帰ろうぜ。明日の朝には着くように帰ろ。」

「えぇ。重いじゃん。一緒に載せてよ。」

「あぁはいはい。それよっこらせっと。」


折り畳み橇は持ち運びはできるけれど獲物を載せてしまえば引くのはなかなかに大変だ。

ただ狩りに成功した高揚感から二人の足取りは軽い。

魔物避けと血の臭いに引かれてくる他の獣避けの魔力香を焚いたランタンを片手に火の沈みかかった森を街道を目指してゆっくりと進む。

森から街道近くへ出ればギルドの管理した魔物避けの魔法陣の効果があるのでゆっくり眠ることが出来るだろう。


「明日さぁ。ギルドに着くじゃない。査定が済んだら浴場に行こうか。」

「え?シャロンとルカに会いに行くの後回し?」

ヤンが橇についた縄を引きアンナが後ろから押しながら森の中を進む。

「この間の狩りの時は『パパ、ママくちゃい。』ってシャロンが言ったじゃない。やっぱ気になるもん。」

「・・・・お前がそれなら俺近寄ってもらえないな。そうしよっか。」


「それから二人を連れて金色南瓜亭でご飯食べたいな。」

「いいな。あそこの香料焼肉うまいよな。子供たちはプリンかな?」

「焼肉・・・・やめてよ。この鹿食べたくなっちゃう。」

「査定前にそれはマズいよなぁ。」

美味そうな香りを漂わせる焼肉料理を思い出して二人の会話は弾む。

「それからぁ。私布買ってシャロンとお揃いの服を仕立てたい。」

「親子でお揃いか。可愛いだろうな。俺もルカと同じシャツ欲しい。」

「いいねぇ。・・・・あ、私裁縫苦手だった。」

「いっけね。忘れてたな。」

飛鹿はきっといい値が付くだろう。子供たちにおもちゃを買う余裕もあるかもしれない。


楽しい未来図を描きながらヤンとアンナは森を進んでいくのだった。


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