嫁なしルッツ、怪我をする(後)
昨日の続きです。
「今日のヤマも無事に終わり。あとはのんびり閉店まで事務作業だねぇ。」
夕方には早い時間、ギルドは見習いの子供たちが薬草査定に多くいたが、厳しく教育されている彼らは大人よりよほど行儀よく査定を待っている。
整然としたギルドホールを見ながらティナがのんきな感想を述べる、と同時に
「やぃ!!職員誰でもいいから出てきやがれ!!」
松葉杖を付きながらギルドへ転がり込んで来る男が一人。
「あ、ルッツさん。どしたの?松葉杖で来たの?今依頼受けてたっけ?あれ?頭もどした?」
血相変えて転がり込んできた男の姿にティナが首を傾げる。
「来たの?じゃねえよ。なんで俺はポーション使えないんだよ!?毎回毎回安くない保障金払ってんだぞ?」
さほど低くはないティナの身長だけどルッツはそこそこの大男だ。のしかからんばかりの勢いで迫ってくるが、ティナなので動じない。いよいよとなればぶっ飛ばせばいいし。
「はい?待って待って落ち着いてくれる?」
「これが落ち着いていられるか!?」
手を振り回そうとしたルッツは忘れていた。手には松葉杖があることを。そして自分は骨折していることを。
「いってえ!!」
「ちょ。大丈夫?ルッツさん。」
片足でバランスを崩して盛大にずっこけたルッツをティナは軽々と引き起こす。もちろん身体強化をつかってるからできる行動だ。
とりあえず椅子に腰かけさせてティナも向かい側に座る。
「で、どうして怪我したの?ってかポーションがどうしたの?」
「何度も言ってるだろ。ポーションが使えないんだよぉ。治療院で!」
ルッツは治療院でのやり取りとティナに説明した。
「で、治療院で暴れようとしたら助手の子に叩き出された、と。ルッツさんをたたき出せる助手って凄いなぁ。冒険者にスカウトしよっかなぁ。」
ティナがあらぬ方に脱線しかけるのをルッツは引き戻す。
「俺は今これだし!ってか今は関係ないし。ギルドの依頼遂行中じゃないとポーションが割引にならないのは知ってるけどよ。自腹でもダメとかどういうことなんだよ?」
規約では依頼遂行中にケガをした場合ポーション使用時の価格は市価の60%から90%割引で購入することが出来る。
今回ルッツは依頼中ではなかったけれどそれでも通常の冒険者購入割引価格で治療を受ける事にしたかったのだが治療院で処方を拒否された。
ティナはギルドカードでルッツの活動履歴を確認していく。そして負傷治療歴を見て眉をしかめた。
「ルッツさん、ポーションには回数制限と期間制限あるの知ってますか?」
「はぁ?」
「規約に書いてあるでしょ。それに説明も、て聞いてなかったからこうなったか。」
ぽかんとしたルッツを見てティナは頭をぽんと叩く。
「ルッツさんの最近の活動歴を確認するとポーションを服用したのはこの1年で月2度のペースでしょ。で、先月は牙イグアナ含めて3度使用してるよね。
ポーションはさ、薬の効果を魔力でさらに増幅しているのね。人間の体内の魔力と反応して治癒能力を限界近くまで高めてるわけ。」
「すまん、ティナ。もっとざっくりと言ってくれるか?」
ティナの言葉をルッツはさくっと遮った。
「じゃ、結論ね。ポーションは使いすぎると体が慣れちゃって効果がなくなったり暴走しちゃったりするから規定量を越えたら使えません。今回のルッツはこれ。これでわかったかな?」
「じゃ、俺はこのまま骨折った状態なのかよぉ。」
にっこりと満面の笑みを浮かべて断言したティナにルッツはヘナヘナとテーブルに崩れ落ちた。
しばらく呆然としていたルッツだったが、自失から立ち直るとティナに改めて説明を受けた。
「じゃあ俺は自然治癒になるわけか?」
「えっとルッツさんの使用履歴と使用銘柄から計算するとルッツさんが次にポーション使えるのは2週間後だね。で、薬の種類によってはまたしばらく使えなくなるからそこは聞いて。」
「とりあえず半年後に大きな護衛の依頼が入ってるからそこまでは無理して直す必要はないけど。不便だなぁ。」
「じゃ、それまでは休業補償のほう使う?条件は満たしてるよぉ。」
「そうすっか。ポーションて注意しないといかんのなあ。」
「これに懲りたら用法容量に注意してよね。」
にっこりと笑うティナ。
「・・・・わかりました。」
結局ルッツは2週間後に治癒促進効果のポーションだけを使用することにしたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇
ギルド提携治療院は冒険者以外の患者もいてなかなかに混雑していた。
先日ルッツをどつき倒したたき出した助手の娘はキビキビ動き回り患者たちをにこやかに相手をしている。
「ルッツさん、こんにちわ。今は混んでるから順番待ってくださいね。」
(こないだ鬼みたいな形相してたくせに。)
ルッツの心の声が聞こえたのか、彼女はくるりと彼の方を振り向いた。
「この間はその・・・ごめんなさいね。その、叩いたことは、ね。」
身構えたルッツにそれだけ言うと彼女は治療室にパタパタと戻っていった。
ギルド提携治療院で回復のためのリハビリに励んでいたルッツが治療院の助手の女の子と婚約にこぎつけ、無事に『嫁なし』の称号を返上したのはギルドの福祉サービスの思わぬ恩恵として冒険者たちに語り継がれていくことになるが、それはそれで別の話になる。
「いや、ギルドの保障は受けといた方がいいって。」
冒険者福利厚生制度、負傷補償の場合。
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