魔術具メンテナンス
備品のお仕事
朝の受付に取り掛かる面子を外れてティナは魔術具のメンテナンスに取りかかる。
素材の持つ特性を補填強化する魔法陣が記入されてそれぞれ設定された機能を発揮するものが魔術具だ。
ティナの今日の仕事はギルド支部に設置してある魔術具の点検とメンテナンスだ。
便利な魔術具は魔力の補給をきちんと行っていればぼ永続的に使うことができる。魔力の補充は比較的簡単で魔力が多めの者が直接補充するか補充用魔石を使用するだけだ。
だが経年劣化で部品が壊れたり、中に書き込まれた魔法陣に損傷があれば動きはすぐに止まってしまい、使用された素材によっては暴走することもある。
冒険者にとって一番身近な魔術具はギルドカードだ。
冒険者はまず名前や生年月日、出身などの必要事項を記入し少量の血液とともに読み取り魔術具にかけて冒険者として記録される。
その必要事項にこれまでの経歴や完了依頼件数、現在受領中の依頼、賞罰記録などが記入されたのがギルドカードだ。
ギルドを訪れ依頼を達成するとそれをまた記録してカードに書き込む。
記録用魔術具はギルドのカウンターに設置されている。その魔術具に特殊インクで記載された魔紙を取り外し可能なはめ込み型の読み込み専用魔石に記録する。
そして別の読み取り部分にギルドカードを設置して情報を上書きしていき、同時にバックアップとして記録を読み取り保存用魔石に移して保管したり紙に記録し直して保存したりする。
バックアップは無駄になりそうな気もするけれどカードを破損したり、他の街のギルドから照会を頼まれたりして必要な時もある。後者はわりと緊急事態だったりする。
(だからギルドカードは大事に扱えっていうの。)
酒場とかでズボンの尻ポケットなんかにカードを入れて管を撒いているおっさん冒険者なんかを思い出してティナはひとり毒づく。
そんなうっかりで破損したギルドカードを復元するのはとても面倒で時間も魔力も食うのだ。
様々な記録を読み取らせた魔石を用心深く取り外し魔石立てに順番に立てて一息つく。
記憶された魔石は些細な魔力干渉で中身が飛びかねないので特製の手袋を嵌めて扱わねばならない。
今回のバックアップ作成用に取り出した魔石を魔力封鎖空間にしまい込んで一息つくと次の作業開始だ。
記録魔石の次は読み出し用魔術具の番だ。これも壊れたりしたらせっかくの記録をパーにしてしまうので慎重なメンテナンスが必要なのだ。
本の形をした魔術具を見開いて開いたページの所定箇所に記録魔術具から外した魔石を羽目込めばページの部分にカードの記録が浮かび上がる。
「見た目では破損箇所なし。魔力の流れも。」
言いながらティナが魔力を流す。魔術具をぐるりと一回りするように魔力が通るとほんのりと発光する。
「異常なし。」
ひっくり返してさらに魔力を流すと魔法陣が浮かび上がり、記録魔石がはめ込まれる場所へと流れを作る。
「補充用魔石使用は6個、だいたい月1回のペースだね。ダンジョンでの活動があまり活発でないのかな?」
「どうでしょう。ダンジョンよりも周辺の森の探索が多いなってのは受付してればわかりますけど。」
ティナの傍らでメンテナンスの様子や手順を書き記していたアルドが答える。
「ダンジョンの素材に魅力がない?」
「まぁ今はそれも少しはありますけど、魅力ある魔物とか出てきたら上層階の仕事が成り立たないですよね。」
「しばらく会わない間にいっちょまえの口きくようになったねぇ。」
「言うだけなんですけどね。」
アルドが肩を竦めながらそう答えた。
「カード書き込み魔術具も異常なし。金庫の鍵も異常なし。なしなしなしで楽ちんだけどつまんな~いな。」
業務カウンタの魔術具一式を分解修理していたティナはあっけなく終わった作業に物足りなさを隠せない。
「ねえ、アルド。誰もギルドカード破損したりしてないの?」
「してないっすね。」
ティナの作業を見守りながらカード書き込み魔術具のメンテ方法を書き出していたアルドの返事はそっけない。
「そっかぁ。ね、アルドのカード、メンテしてあげよっか?」
「遠慮するっす。」
即答である。
「見るだけなのに。」
「前回履歴吹っ飛ばされたから学習しました。」
「あれは!読み取り魔法陣の線をちょっと余計に書いたんだけ!倍速になるはずだったんだけど。」
「ちゃんとギルドの魔術具を使ってメンテはします。ティナさん自作の加速装置は遠慮します。」
不穏な気配を察知したのかアルドはそこまで話すとさっさとビアンカたちのいる別の部屋へと逃げ出して行った。
「あぁあ。つまんないの。でもこれで寄り付かないならいい機会だ、やっちゃおうかな。」
そう言いながらティナは魔法鞄から筆記用具一式と魔獣の皮で装丁されたノートを取り出す。
「ティナ、それなに?」
アルドのいるところではおとなしく見ていただけの2頭がとことこと近づいてきた。
「ん?この記録用の魔術具の魔法陣、メンテのたびにちょっとづつ書き写したたんだよね。本部のは人目があってなかなかできなくてさ。」
ちなみに魔術具の魔法陣はそれぞれ秘密なのであまり推奨される作業ではない。
なのでこの作業はあくまで内密、趣味の範囲。書くのは魔力が発生しない普通紙に普通インクだ。
鞄から取り出した布の上に記録魔術具の魔法陣が浮かび上がるように置くと魔力を通す。
4分の1ほど書かれた魔法陣のつなぎ目部分を探しさっさとペンを走らせるが、書くことに夢中になりすぎると魔法陣が見えにくくなり魔力を注ぐ方に集中しすぎると書き損じが起こる
「ティナ、魔力大丈夫?変わる?」
足元のノーチェが聞いてくる。魔術具の点検に魔力を流し込むのも結構魔力を食うのだ。
「ん?ありがとう。でも大丈夫。君たちの魔力強力すぎるからね。」
強力すぎる魔力を流し込むと魔力回路がオーバーロードすることもあるので残念ながら依頼できない。
「じゃティナにあげるからね。」
「ありがとう。助かる。そうだ。それなら今から仕上げちゃおう。」
「前からちょいちょい書いてた魔法陣なんだけどさ、魔力が足りなくて2人が手伝ってくれる今回一気に書き写すの。ナイショよ。」
「ロッソに怒られるよ?」
「だからナイショ。大丈夫、コピー商品作りでもしない限りバレないって。そのつもりもないもん。」
「いいのかなぁ?」
「じゃ、ティナ。僕の先にあげるね。」
「ありがと。ペルラ。」
魔法陣を浮かび上がらせ、読みやすくしてから書き写すから魔力消費が激しくて一度に全てはできない。 書出しの魔法陣は要素が多くて複雑だから一度のメンテナンスでは書き写しきれずにいた。
前に書き写していた部分の続きからぐんぐん書き上げていく。
「ねぇ、ノーチェ。ティナお仕事止めちゃったけどいいのかな?ティナ。ティナ?」
声をかけたけど作業に没頭してしまったティナには二頭の声はもう聞こえていない。
ノーチェとペルラは顔を見合わせるとそれぞれ丸くなって小さく欠伸をした。
「おい。起きろよ。ティナ。ティナ。」
「んんん?まだ夜だよ。眠っていいじゃん。」
そう言うとティナはますます深い眠りに落ちて行ってついに返事もしなくなる。
「いや、夜だから起きろって。ここ事務室だからな。」
ロッソの大きな手がティナの肩を揺する。
「ロッソぉ。ティナ起きないね。大丈夫?」
「ちょっと魔力使いすぎみたいよ。疲れと魔力不足でパワー切れみたい。」
魔法陣をかき上げて眠りこけてしまったティナに困り果てた2頭がロッソを呼んだけど効果はなかったようだ。
「魔力切れ・・・・か。なら起きないな。俺が運ぶからビアンカに言っといてくれるか?」
「わかったぁ。」
翌朝、宿屋のベッドで目覚めたティナが朝から大騒ぎをすることになるのはまた別の話である。
2日目のお仕事終了~。




