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潜入・幻獣保管庫

少し長めになったので今日は2つ投稿します。

やっと本命に会える~

「よぉ。遅かったな。トラブル発生かと思ったぞ。」

「ごめんね。急に仕事が入って来て手間取っちゃった。」

今夜、倉庫周囲の見張り番を担当しているロッソがティナの姿を見てほっとした息をつく。

「時間はきっちり30分で済ませてくれ。そうでないとごまかしようが難しいからな。」

「わかった。気を付ける。出てこなかったら声でもかけて。」

ティナはそう言うと足元まで覆う隠蔽の魔法陣を縫い取ったマントに魔力を通して起動させるとさらに認識阻害の呪文をかけた。

「相変わらず見事だな。目の前にいるのはわかっているのに目には見えないんだからな。」

「作り手の執念かなぁ。でもロッソに気配がわかるってことは護衛士の中には見つける者もいるかしら?」

「目の前で消えたからわかるってくらいだろ。これに気が付くヤツなら俺でもちょっと危ないかもな。」

ロッソの腕はティナが知る限りで超一流だからそれなら安心しても大丈夫だろう。ティナはそっと扉を開いて中に入った。


獣臭い臭いに一瞬顔を顰めたが身体強化で夜目を効かせる。小屋の中は大きな檻の上に小さなものを重ねたりと居住性にはあまり重きを置かれていないようだった。

無造作に置かれた檻は空なモノがほとんどで幻獣が入ってるものも中の幻獣は興味なさげか、怯えた様子で身を竦めた。

イタチのように小さな獣から、一見鉢植えの植物のように見えるものなど噂には聞いていたが幻獣も様々な種類があるのを実感する。

捕まっている幻獣は子猫のような比較的小さいサイズのものがほとんどで、性質も穏やかとされるものが中心のようだ。

(救出したつもりでがっぷり噛みつかれたりとかなったら困ってしまうもんね。)

そんなことを考えながら言い逃れできないように念写魔道具を使いその様子を記録して歩く。


と、檻の奥に南京錠のかかった扉が見えた。どうやらそこに『本命』が鎮座されているようだ。

触れる前に魔力の流れを確認してみたが、幸い鍵には開錠した者への呪い返しなどは仕込まれていないようだった。


『錠前よ。その堅き戒めを我の前に開け。この良い鍵を受け入れてするりとまわせ速やかに。汝の形にぴたりと嵌る滑らかに。』


呪文を唱えマントから取り出した短杖で軽く錠前を叩く。杖先が金色にキラリと煌めくとカチャリと小さな音を立てて錠前が外れた。


周囲を見回し、背後の動きがないのを確かめるとゆっくりと室内へ滑り込む。ひとつだけ結界で守られている檻がある。

中に入れられているのは貴族や富裕な市民が飼育するような小型犬くらいの大きさの生き物が2頭。

1頭は白銀の毛並みに上質なルビーのような真紅の瞳。もう1頭はつややかな黒い毛並みに満月のような金色の瞳で、どれも薄汚れた様子は見えない。

モフモフと柔らかそうな毛並みに、触りたい、という欲求が沸き上がるけど我慢する。

黒い方は少し警戒しているらしく毛を逆立て気味だけれどどちらも好奇心に満ちた目でティナを見ていた。


と、同時に言葉は乱暴だが可愛らしい声に面食らって文字通り飛び上がる羽目になった。


『おい!お前オーラが違うな。奴らの仲間じゃねえのか?』

『なあ!違うのか?ボヤッとすんなよな!』

白い方の幻獣が催促するようにティナに声をかけた。

いく度か声をかけられたのだがティナが返事をしないでいると声の主たちはひそひそと相談を始めた。


『俺らの言葉、おかしいのか?ヤツらが使うように喋れてねえのか?』

『人間っつうのは国とやらで使うのが違うらしいからな。じゃあ小娘はヨソモノかもな。』

『なんだよ、使えねえな!わざわざ声かけて損したぜ。お前、今のはナシだ。』

『んだよ。人間っつうのは手間のかかるもんだな。俺たちは考えれば通じるのによ。』

『オーラはいい人っぽからもうちっとだけやってみっか?』


最初こそ呆然としたものの人は驚きすぎるとかえって冷静になるのかもしれない。

人語を話す幻獣なんて伝説とかいうレベルじゃすまない。『竜』とよばれる神話の部類に入るレアものの登場だ。

しかも捕らわれてるわりには怯えた様子は欠片もなくてなんだか余裕すら感じさせる。

衝撃って重なりすぎるとかえって冷静さを取り戻せるものらしい。

言っていることはいちいち失礼だし使ってる言葉はため息が出るくらい品性の欠片もないけれど声が可愛らしすぎてなんとなく芝居じみてさえ聞こえる。


「いちいちうるさいな!!しっかり聞こえてるんだからね。このチビども」

ひとつ呼吸をしてティナが厳しめの声を上げると、わいわいと相談していた2頭が一斉に見返してきた。

金色と紅色の二組の瞳に見つめられてティナはもう一度軽く深呼吸する。

「・・・まさか人語を解する幻獣がいるなんて・・・。だけどなんという言葉使いなのよ。」

ティナが思わず独り言をつぶやくと黒い方が不思議そうに小首を傾げながら尋ねた。

『え?俺らの言葉おかしいのか?人ってなこんなしゃべり方だろうがよ?』

『ここのヤツらはだいたいこんなしゃべり方だぜ。』

白い方も丸い目をくりくりとさせながら重ねてくる。


「・・・ここに出入りするような言葉を使うのは・・・そうそういないわよ。人間だったら追い回されるかもね。」


驚きすぎて毒気を抜かれたのと、可愛らしい見た目にティナは思わず緊張を忘れた。

どうやら念話で人語を理解してからは監禁役の会話を参考にしたらしい。教育環境の重要性がヒシヒシと痛感される。

ちなみに彼らは視覚ではない幻獣特有の視点で見ているらしい。試しに位置を移動してみたら二重掛けした隠蔽対策だけれど二組の瞳は正確にティナがいる位置を捕らえている。


「私はここのヤツラの仲間ではない、ことだけは確かよ。あなたたち幻獣が囚われてると聞いて確認しにきたの。」

『確認だけかよ。俺らをここから出す気はねぇのかよ。』

言葉は荒いが、表情はどちらかと言えば落胆に近い。なんだか無性に可愛らしい。


「今すぐ出したら私たちの仕事ができないから無理ね。いずれは自由にして元居た場所に戻すのは約束してあげる。」

『まだこんなところに居ろって言うのかよ。』

黒いほうが苛立たし気に後ろ脚で檻の床を蹴った。イラついているみたいだけど外見が可愛いのでちょっと和む。


白い方の子竜がいいことを思いついた、という表情でティナを潤んだ瞳で見上げてきた。


『なぁなぁ、おとなしく檻に入っててやるからさ、俺たちの頼み聞いてくれね?』



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



きっかり時間通りに出るとロッソだけでなくビアンカの姿もあった。


「お疲れ。なんだか妙に疲れてるみたいだけど、中で何かあった?」

ビアンカが首を傾げながら聞いてきたので見たことを見たままに二人に教えた。


中にいる幻獣はそのほとんどが家庭での飼育を許可されているもので今すぐに突入してもせいぜい飼育環境の劣悪くらいでしか訴えられないこと、

取引禁止にあたる幻獣は比較的小型なものなので突入に手間取れば隠匿して逃亡することも可能なことを報告する。


そこまではまず予測の範囲内。問題は最後の大本命がどうやら人語を解する幻獣の範囲を飛び越えた存在であるらしいことだ。


当初の予定では哀れな捕らえられた幻獣の証拠をつかみ、業者から秘密裏に奪還する、だけのはずだった。

希少な幻獣もいるとは聞いていたが、まさかその中でも伝説級の存在まで来るとは思ってもみなかった。

エリクセンは知らなかったのか、それとも知っていても教える必要もないと思ったのか判断は保留しておく。



「で、希少幻獣は間違いなくいたけれど潜入のことをばらされたくなければ食べ物を持ってこい、と。」

小竜たちの要求を伝えるとロッソはなんとも言えない表情を、ビアンカは面白いそうな表情をそれぞれ浮かべた。

「そう。人語を操るんだからその気になれば看守に報告可能だって。今は気が乗らないから監視役相手にはしゃべってないだけなんだって。」

「周りの状況を見て言葉を話す相手を決めるとか、俺が聞いたことがある幻獣の知能を優に超えてるんだが、本当に竜っているんだな。」

ロッソがなぜか感慨深げに腕組みしながら一人頷いているがこの状況をどうしたらいいのか判断してほしい。


「で?食事ってどういう要求してるの?牛1頭丸ごととか言われたらムリだよ。」

ビアンカが問いかける。

「いやいや、そこまで言ってないよ。ただカピカピになったパンを生ぬるい山羊の乳に浸したのなんかはもう勘弁!だそうよ。」

「それは私も嫌だわねぇ。だいたい山羊の乳なんてうちのあたりの人間だって苦手だもの。幻獣の子が飲むの?」

ビアンカの質問にはとりあえず首を横に振る。

「新鮮な生肉でも出せってか?厨房からくすねるか?肉屋で買うのか?俺が買えば目立つだろ。」

「生肉もお嫌だそうよ。新鮮な果物、野菜、魚、できれば川魚、だそうよ。」


「「魚?」」

意外なご注文にビアンカとロッソが揃って素っ頓狂な声を上げた。


捕まった場所の話を聞くと北の方のアルペンハイム渓谷あたりらしいから確かに魚を食べている可能性は高いんだろう。


「『ママは川魚を食わせてた。俺たちもそうやって食ってきた。しばらく食ってなくて腹減ってるしどうにかしろ。でないと侵入を見張りにバラしちまうぞ!』とのことだそうよ。」

「なんだか生意気そうなお言葉じゃないか。あいつら、自分の立場わかってんのかよ。」

「どうやら人語のお手本が見張りらしくてね。ぬいぐるみみたいな見た目でオッサンみたいに話すのよ。」

「自分たちが傷つけちゃいけない大事なお客さんってことはわかってるんじゃないかしら。」

ビアンカのツッコミにいつもは穏やかなロッソの付け傷がひくついた。


「とりあえず救出までお待たせしないといけないのもこちらの要求を呑んでいただくわけだからできるだけ要望聞いてあげましょ。」



「ビアンカは?ここまで来たってことは何か進展があったの?」

「あ、エリクセン家の背景についてあっちの方との繋ぎが取れてね。来ちゃうよ~。あいつらが。」

「ってことはもうすぐ、あの男が来るかもしれないってこと?」

「えぇぇ。やつらと絡むと危ない橋が増えるから嫌なんだけどなあ。」


ティナが嘆くとビアンカが軽く肩をすくめた。



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