移動は大変 (後)
短めです。
2日目の行程は初日とは少し違ったものになった。
魔物の一種であるサライトモンキーの群れに遭遇したのだ。
サライトモンキーは尾の長い猿の一種で雑食だ。普通は木の実を中心の食生活を送っているが群れが大きくなりすぎるとエサを求めて凶暴化することがある。
今がちょうどその時期にあたるのか、森で隊商を襲ったり周辺部の農村を襲撃したりと被害が出始めているのでギルドでも討伐の依頼を数多く出していた。
今回遭遇したのは40匹ほどの群れだ。
「ティナ、まず魔法でざっとでいい、数を減らしてくれ。それからビアンカは弓、ロッソは・・・好きにしてくれ。」
「了解だ。ティナ。」
「大爆発・・・は無理だから連鎖爆発。音と光に注意して。」
「リナルドさん!!」
「っと、ニコロとクリスタは馬車で待機。ノーチェとペルラをそれぞれ頼む。」
(ノーチェ、ペルラ、こいつらがパニくって暴走しないように頼むわ。)
(わかったぁ。)
(手伝う?ブレスでティナ援護しようか?)
(森が燃えたら困るし、お前らの正体もばれたらマズいから却下。でもありがとよ。)
クリスタルを通じた会話がなされているけれどもちろん二人は気づかない。
ふわふわの小さな存在を守ってあげねば、という思いでぎゅっと抱きしめてくるので2頭はそっと防御結界で自分たちを包み込むのだった。
「渦巻く風よ サラマンダーの子らを運びて喜びのダンスを躍らせよ。軽やかに 華やかに 力強く 舞え。炎の舞」
ティナが杖を持ち、範囲を定めるように宙に円を描く。
杖の先端に灯った炎が吹く風に煽られるように飛び出すとサライトモンキーの群れを大きく取り囲み、次の瞬間はじけ飛ぶ。
「詠唱は面倒だけど今日は仕方ないんだよねぇ。バラ打ちがクリスタたちに当たったら大変だしね。」
10頭ほどのサライトモンキーが宙に弾け飛び地に落ちる。
爆発魔法の範囲から外れた運がいいサライトモンキーが体勢を立て直す間もなく矢が突き立つ。
「弓は久しぶりだけど、腕がなまってなくてよかったわ。」
「ご謙遜。」
ビアンカの呟きにティナが言い返すと
「ばれた?さっすが私。」
「そっちのほうがビアンカっぽい。」
と言いつつ散らばって襲い始めたサライトモンキーをティナは魔法で、ビアンカは弓矢で迎え撃つ。
「また放った。ティナさん、いったい何発連続で魔法が打てるんだろう?」
ノーチェを膝に乗せたままニコロはうわ言のように繰り返す。
ロッソの槍さばきは風のようで穂先の銀色だけが閃くように宙を裂く。
「すごい・・・。本当に・・・。これが本当の冒険者。」
ティナ、ロッソ、ビアンカは新人に武芸講習をしている姿を見て彼らが並以上であることは知っていた。
でも講習と魔物相手の実戦ではやはり違った。
軽口を叩きながら動いているように見えて目は油断なく周りを見据え、足の運びでさえも無駄がない。
みるみる数を減らしていくサライトモンキーに
「すごい・・・」
クリスタとニコロにはそれしか口から出る言葉がなかった。
「サライトモンキーで素材として使うことが出来そうなものはざっと15頭分くらいか。子ザルもいたから正味9頭くらいか。」
回収したサライトモンキーを点検していたリナルドがそう言った。
「サライトモンキーは今討伐案件だし、もともとそんなに素材価値があるわけでもないからな。」
「だな。ティナが必要な魔石は抜いたって言ってたからここで処分しとくか。」
そんな会話をしながらロッソが捌いているのはサライトモンキー討伐の流れ矢でビアンカが仕留めた山鳥だ。
血抜きをし、手早く羽を毟りとり下準備をすると荷物から取り出した調味料を摺りこむまで流れるように作業を進める。
リナルドがそう言うと鞄からさっと液体をかけてサライトモンキーの死骸を燃やす。
瞬間白い炎をたてたあとすぐに火は消え、白い灰が風に舞飛んでいく。
結界を張った中で燃焼加速剤を使って処理した。これなら残存魔力に他の魔物が寄ってくることもないし腐敗もしないので環境にも優しいらしい。
その後リナルドは火を起こし、食事作りの準備をしたりと慌ただしく動き続けている。
ビアンカはサライトモンキーから回収した鏃の傷み具合をチェックし、新しい矢の準備に忙しそうだ。
ティナは魔力を使って回復が必要だとかで荷馬車の中で横になって休んでいる。
ロッソが捌いた鳥をニコロが受け取り串にさして火で炙る。
戦闘が終わればその間働けなかったニコロとクリスタが食事の準備をするのはある意味当然だ。
食べにくい部分や骨を水とリナルドが見繕ってきた野草を一緒に鍋に放り込み、煮込んでスープを作る。
「今日は食事を作るのね。」
ティナに言われたように薄く切ったパンにチーズを載せて火であぶりながらクリスタが聞く。
「昨日は基本に忠実にしてみたの。冒険者たちもそれぞれ工夫して食べてるよ。食事は大事だからね。」
「魔力回復薬を飲むほどでもないってティナが言うからそれなら食事で回復させたいからな。」
「さすがにずっとあれ食べてるのはねぇ。きついもん。パーティーによっては糧食は最低限で狩り暮らしってのもいるんだって。」
「ま、それはそれで獲物がないとえらいことになるんだけどさ。」
そんな会話をしているうちに山鳥も焼け、スープの具材も煮えあがる。
串に刺して炙った鶏肉は脂の甘みがスパイスの刺激と相まってとても美味しかった。
「明日はパルマに着くからきちんと食べて、明日もまたしっかり歩くのよ。」
「はい。」
ダンジョンへの旅、2日目は冒険者らしい活動。
次回ダンジョンに到着します。




