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職員と幼なじみ

少しだけ短め。

「ふぅ。午前はこれくらいかな。」

ニコロは一息着きながら眼鏡を外し眉間を軽く指で揉んだ。

貯めていた給料で眼鏡をやっと買った。まだ装着感に慣れ切ってはいないけど視界がこんなに変わるとは思ってもいなかった。

(こんなに視界が変わるなら、確かに眼鏡なしの俺は冒険者厳しいかもしれない。)

元々冒険者になりたかった。農家の末っ子五男に生まれた時から村で農民として暮らす道はほぼ閉ざされていた。

やがて家を出なくてはいけないことは決まっていたから、両親はニコロが学堂で学ぶことを止めたりしなかった。

「お前は土地を開墾するか、農民以外で食べていくしかないんだから知識はどれだけあっても困らない。」

そう言って手伝いの合間でも快く送り出してくれた。

その点は家を継ぐため、働き手として学堂は農閑期くらいしか行かせてもらえなかった長兄や次兄との特別扱いを受けていたのだなと今になって思う。

15歳で成人の儀を迎え、農繁期が終わると村では多くの若者が仕事を求めてより大きな地主の元やニベアや王都、その他伝手のある街へと散っていく。

ニコロの家では長兄と三番目の兄が家に残り、次兄と四兄、それとニコロが家を出た。

実家にはそれぞれ手紙を書くこともあるがそれぞれでは連絡を取ったことがないので彼らが何をしているのかははっきりとは知らない。

でも二人とも故郷の村以外の場所で堅実に働いているのだろう。


奉公先を見つけて旅立った兄たちと違ってニコロは

「冒険者になりたい。」

といって幼なじみアルノーと二人で最寄りの冒険者ギルドのあるニベアへと旅立った。

そこでニコロは大きな挫折を味わう。

冒険者としての登録前の適性検査でことごとく不合格だった。

武器を揮う腕力も、拳で戦う体力も、魔法を用いる魔力も足りない、努力で多少は伸びるが、視力が悪いと限界がある、と。

すんなりと登録の進んだアルノーの申し訳なさそうな顔を今でもはっきりと思い出すことが出来る。

あの時、冒険者を目指してきた別の少年がまったく書類が読めないのを手助けしているうちにあれよあれよとスカウトされてギルド職員になってしまった。

読み書き計算をきちんと収めていたおかげだ。学堂に通うことを積極的に認めてくれた両親に感謝しないといけないだろう。


今、眼鏡を手に入れて冒険者になる中で大きな問題だった視力の問題はある程度クリアできた。

けれど今更登録するか?と言われたらニコロは考え込んでしまう。


そんなきっかけで始めた仕事だったけど、今は誇りもやり甲斐も感じている。憧れからそれを手放すのは考えてしまうのだ。



アルノーはそのまま冒険者としての活動を続けていて、年長者に従ったり何回か仲間を変えたりしながら今はロモロ、グイード、エーベと4人でパーティーを組んで活動している。

ギルドの運営会議でも若手の注目株として話題になるほどだ。

アルノーが活躍すれば自分も一緒に活動しているような気になれた。


そんなことを考えながら午後の仕事をこなしていると

「ニコロ!」

かけられた声に振り向くと幼なじみのアルノーがいた。

依頼を達成して買取査定に来たらしい、疲れた様子でも満足気な雰囲気が見て取れた。

しばらくぶりに会うアルノーは村にいた頃より筋肉で一回りくらい大きく見える。

「て、お前。その顔は。」

眼鏡で顔が変わったニコロにアルノーは不可思議なものを見る顔になる。眼鏡は生産がまだまだ少ないレンズを使う。だから掛けているのは金持ちだし、王都の流行とかでモノクルが主流だがニコロのそれは両目にレンズがあり耳に弦を引っ掛けるタイプだ。

「アルノー、久しぶりだね。今日戻ったんだ。これ?眼鏡だよ。ついに買った。」

「へえ。初めて見た。ああ。森でサライトモンキーが異常繁殖ってあったろ。討伐に出てさ。結構やられたけど成果もバッチリだ。」

成果が入っているらしい皮袋はずっしりと重そうだ。

「それ、普通の皮袋?だったら早く査定してもらわないと。そろそろ魔法鞄の購入も考えた方がよくない?」

「やっぱりニコロもそう思うか。なかなか手ごろなのがなくてさ。職員のお前が進めるなら思いきる時期なんだろうなぁ。」

「本当に買うならお勧めの店とか聞いてやるよ。」

ニコロがそう言うとアルノーはにっこりと笑った。


「ニコロも職員としての貫禄がついてきたなあ。堂々たるもんじゃないか。」

「ありがとう。なんだか、本当かな?」

どうやら先ほどの相手をしていた様子を見ていたようでなんだか背中がこぞばゆい。

「そうだ!今度飯でも食わないか?お前、村には帰ってないだろ?おばさん心配してたよ。」

「手紙は書いたんだけどなぁ。」

元気にしている、という程度のことだけど書いたことは本当だ。

「でも俺の親は堅い仕事に着いたって羨ましがってたよ。」

アルノーは相変わらず気配りができる。


「なあ!思ったより収穫あったんだし早くランプ亭に飲みに行こうぜ!俺、その前に一風呂浴びたいしさぁ。」

「今更だってば。」

「アルノー!お金の管理はあんたなんだから早くしてよ!」

気がせいている仲間たちから矢のように催促が続く。


「ちょっと待ってくれよ。なぁニコロ。」

「あ、俺。まだ仕事上がりまで時間かかるし、もうすぐパルマ行くから準備あるんだ。残業になるかもだからアルノー、仲間が待ってるんだからもう行きなよ。」

「へえ!!パルマのダンジョンか。俺たちまだ行ったことないんだよ。ジュリアさんにパルマに着くまでまだ持たない、とか言われてさ。帰ったら教えてくれよ。」

「うん。帰ったら連絡する。ってか依頼受けに来た時に声かければいいじゃん。」

「それもそうだな。」

アルノーと顔を見合わせて笑う。また仲間が呼ぶ声に答えるとアルノーは手を振ってギルドを後にした。

なんだか自信に満ち溢れた背中がとても遠いものみたいに感じてしまう。思い込みかな?

ううん、たぶん違わない。

「さ。残った仕事しよ。」

冒険者志望だったニコロ。幼なじみアルノーはギルドでも話題になる有望株。

でも少し変わりつつあります。

次回は出発、のはずw

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