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ダンジョンのお仕事

新章開始です。

「今回のパルマ出張は俺にロッソ、ティナ、リナルド、ビアンカ。まぁいつものメンバーだな。」

定例会議でダンジョンメンテナンスに話題が移り、ギルマス・マルコがいつものように、とそう言った。

今日の冒険者ギルド職員会議は、来月行われるダンジョンメンテナンスの派遣人員決定のための会議だった。


この世界には魔力があり、魔物も多く存在する。それを生活に支障がないように退治したりするのが冒険者の主な仕事だ。

ニベア近郊には魔物が多く住む森があり、冒険者たちの主たる活動の場になっている。

さらに森の深淵部には様々な洞窟があり、確認されているだけでダンジョンが三箇所ある。

駆け出しの冒険者は森を主戦場にするが中堅以上はダンジョンも魔物の主な狩場にしている。

三か所のうちひとつは隣の都市アトリの管轄で二箇所がニベアギルドの管轄だ。

ニベアのダンジョンは山に向かう途中にあるかつてドワーフ族が採掘していたという廃鉱山跡地のものと、森の中程にある湖の近くにあるいわゆる魔力淀みが変化したものだ。


魔の森と言われるエリアはただの平野部よりは地にある魔力が多いが、ダンジョンのある周辺は更に濃い。

ダンジョンがあることでそれらはいきなり地表には溢れないが魔物を生み出す温床と化しており、森の魔物よりも魔力が強く凶暴なのだ。

冒険者の安全な狩りを援助することはギルドの大事な業務のひとつでダンジョンメンテナンスと呼ばれている。


ダンジョンメンテナンスとは


①冒険者たちが探索し提出されたマップを確認しメンテナンス。公式地図を発行する。

②実際にダンジョンに入り魔物の分布を大まかに把握する。多くは冒険者に委託される。

③ダンジョン階層ごとに簡易な脱出用転移陣を設置。冒険者の非常時の脱出にそなえ同時に魔物が転移しないよう対策する。


の仕事を一般的に指す。

その他にも定期的に冒険者を送り込み魔物を間引いたり、中の構造を探索したりしている。

通常はそれでよしとされるダンジョン管理だがその報告に不備や抜けがないかをギルド職員で確認にも行く。



今回のメンテナンスはパルマのミスリル銀採掘跡地だ。寿命が長いドワーフ族の採掘で地下10階層の複雑なダンジョンである。

ドワーフ族が採掘していたミスリル銀鉱山が廃棄された後に人間が利用している。

ドワーフが無秩序に掘り進んだ跡地に森の瘴気が満ちて魔物が生息している。

ただここ数年で魔物退治のためというよりもダンジョンという特殊環境を生かした活動が中心になっている、珍しいダンジョンだ。

入口や安全が確立した浅い階層ではギルド直営や契約した職人が住み込みで作業をしている。

下層のほうにはまだ魔物が存在するが強力な魔物こそ少ないが水蜥蜴や嫌光の魔物など資源性が高い物が多く出没するので安全確認が必要なのだ。




ダンジョンのメンテナンスは文字どおりダンジョンに入る作業なのである程度戦闘ができる人員で行うのが望ましい。

ギルマス・マルコはニベア冒険者ギルドでは並ぶものないツワモノだから洗濯は当然、と思われた。

が、ここでロッソが言い放つ。

「マルコは留守番。ギルマスが出張るな。」

「何でだよ!戦力は必要だろうが!レジーナもいないんだぞ。」


日頃書類仕事に追われているマルコは外仕事、しかももれなく魔物戦闘があるダンジョンメンテナンスが好きなのだ。

「今は副ギルマスのアンナさんが本業の社交時期で王都だ。レジーナはその護衛でいないんだからギルマスが残らないとダメなのはわかってるだろうが。」

冒険者ギルドにはその職業上どうしても荒っぽい性格のものが多く集まる。

中にはそれこそが冒険者たる証、とばかりに街でも騒ぎを巻き起こす者もいたりして、それを押さえつけることが出来る者、マルコやロッソ、レジーナのような人間が誰か居残るのは必須だった。

ダンジョンメンテナンスの人員も必要だが、出張時のニベアギルドの治安維持のためにも人員は必要なのは当然だ。


狂風と二つ名を持つレジーナはアンナの薫陶で護衛として貴族にも引けを取らない振る舞いもできる貴重な存在だ。

王都では社交が行われる季節である現在アンナの護衛の他に数件出張護衛の依頼が入っていて現在長期出張中だ。



「あのぉ、俺は?」

ギルド職員の中では戦闘スキルもあるエデンが一応、といった雰囲気で聞いてくる。

「エデンも留守番。ギルマスも一応人間だから寝る時間くらいいる。あとは俺がいない間にギルマスが暴れないように頼む。」

ロッソが当然というように言い捨てる。

「・・・善処しますけど、俺にギルマスの相手はできませんけど。」

「やるのはギルマスの相手じゃない。困ったちゃんの相手だ。」

「言い方変えたら楽勝に感じますね・・・ってわけないでしょが。」

「幸い・・・と言ったらなんだがレジーナがいないから研修で暴走することもないだろう。大丈夫だよ。」

リナルドがニコリと笑顔で答えた。


「だが。パルマは一応統制下のダンジョンとはいえ何があるかわからんだろう?」

マルコは未練があるのか食い下がる。


「パルマの現状考えればギルマスが出たら不穏になったかと思われるだろが。」

取りつく島もなくロッソがそう言う。


パルマのダンジョンは世間一般で思われているダンジョンとは少々事情が異なる。

下層には魔物もいるがギルドの管理下に置かれてダンジョンの上層階は生産拠点となりつつある珍しいダンジョンだ。

だからマルコクラスの冒険者がそこに行くとなると思わぬ風評被害を生み起こす可能性が少なからずある、というロッソたちの主張は理が通っている。


「そんな大事なダンジョンだからギルマス自身が出向いてっていうのは大事じゃないか。」

最近デスクワークでストレスが溜まっているのか、マルコもなかなかしぶとい。


「大丈夫ですよ。ギルマス。ティナも随分と攻撃防御上達しました。ロッソと組んでも安定してきましたしね。」

「え~。私、魔法結界のメンテナンスとか以外の仕事は遠慮したいんですけど。」

ティナの抗議はさらっと流してリナルドが黒い笑みを浮かべながら書類や木札の山を指さす。

予算の決算、人員の配置事項、登録冒険者たちの活動記録とその分析・・・・目を通すべき山のような資料の塊・・・。

「ここにはギルマスに『しか』出来ない案件がたくさんあなたを待ってます。ラウラとジュリアが予定を管理してくれますから2人の言うことをしっかり聞いてくださいね。」

「レジーナの邪魔も入らないこの時期にしっかりガッツリ処理しておくれよ。頼れるギルマス」

ジュリアにどすんと背中を叩かれ、マルコがガックリと肩を落とした。完敗である。



「それと今回はダンジョン研修にクリスタ、ニコロを連れて行くのは予定の通りでいきますよ。」

「あぁ。それは予定通りでかまわん。お前とロッソが仕切るんだから問題ないだろう。」

ガックリとした表情は一瞬で引き締めるとマルコは末席でメモを取っていた2人に告げた。

「そういうわけだから二人もそのつもりで引き継ぎがあれば忘れないで準備しておけよ。」


「え?いいんですか?着いていって!」

「えー?私もですかぁ?」

ニコロは元々冒険者志望だから表情が輝いているが内勤希望のクリスタのそれは全く冴えない。

「ああ。パルマなら地図もしっかりあるし、魔物の予測もつきやすい。別に色々仕事もあるしな。別にお前らに魔物退治を期待しちゃいないから安心しろ。ガスコーニュの方がよかったか?」

ガスコーニュは自然発生でできたダンジョンな分今なお変化も激しい。初心者連れで挑むには難易度が高い。



パルマのダンジョンはニベアの街に属していてその管理を冒険者ギルドが委託されて請け負っている。

ギルドはダンジョンから魔物が溢れてこないように定期的に冒険者を派遣し、得た収入を税として収めている。

過去にニベア執政府が直接管理を試みたこともあるが管理がうまくいかずにギルドに再委託されて今に至る。

パルマには出張所があるのでその帳簿を確認するのも今回の仕事に含まれてビアンカとニコロ、クリスタは主にその担当だ。



「よかったぁ。ダンジョンに行ってロッソさんたちの魔物討伐に連れて行かれたらどうしようって思ってたから。」

ミーティングで魔物討伐のためにダンジョンに連れて行くわけではない、と改めて担当業務を説明されてクリスタはほっと息をつく。

その一方でニコロのほうは肩を落としてちょっとがっかりしたような表情を見せているのが対照的だった。

「お前たち連れて行くとかあんまりしたくないけど、ロッソとティナがいいって言うなら行くか?」

そんな二人を見ながらリナルドがとりあえず、という風で聞いてくる。

「・・・・遠慮しときます。得意分野で頑張らせてもらいます。」

「・・・俺、お二人がよければいいですか?」

からかうように提案したリナルドだったが、ニコロの答えを聞いてちょっと眉を曇らせて考え込んでしまった。

「・・・わかりました。自分の仕事に専念します。」

「いや。ちょっと、まぁ考えさせてくれ。」

あんまり落ち込んだ様子になったニコロに思わずリナルドがフォローを入れてしまうのだった。


とにもかくにもダンジョンメンテナンスのための会議は出張人員を決めてとりあえず無事に終了したのだった。

ギルド職員は冒険者を支えることがお仕事です。

久々ストレス解消ができなかったギルマスには残念だけど裏方仕事は粛々と進むのです。

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