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中だるみの時期 4

賢者の杖は目を覚ます

トマ達賢者の杖が山猫を探して森を歩き続けていると急に激しい雨が降り注いできた。


「よぉ。」

リナルドに声をかけられてボロ雑巾のような姿で座り込んだ賢者の杖(強制退場治療中の魔法使いは除く)の面々は急激に頭がハッキリとしていく感覚に違和感を感じつつ彼を見つめた。

「あ?リナルド・・・さん。これは?」

トマは急にしっかりとしてきた意識を疑問に思いながらあたりを見回す。

なぜか魔法使いアレクの姿が見えなかったが、ロベルトとルカはびしょ濡れの姿で呆然と座り込んでいた。


「お前らは依頼に失敗した。あれから何日たったか、わかるか?」

「え?どうして?」

「依頼主がもういいとさ。ドゥドゥは昨夜自分から家に戻ってきたそうだ。」

「そんな・・・。だったらもう少し早く。」

座り込んだ彼らに視線を合わせるようにしゃがんだリナルドの視線には憐みのような感情はいっさいない。

「なぁ?もう1回聞くがお前たちは何日ここにいたのかわかってるか?」

「せいぜい3日くらいか、と。」

トマが荒い息をつき寒さに震えながらなんとか答える。

「残念。10日だ。」

「10日!!!」

急に襲い掛かってきた底なしの疲労感に俯いていたルカとロベルトが思わず顔を上げる。

「ああ。ドゥドゥがお前ら気に入ってな。なかなか解除させてくれなくてな。あまりに汚いからティナが2度ほど丸洗いした。」

2度ほど降り注いだ雨だと思っていたのは洗浄魔術らしかった。


「みんな!!」

ロッソとティナに支えられて姿を現したアレクは治療を受けたのか傷はなかったが服があちこち焼け焦げている。

「よかった。俺、お前たちとはぐれちまって。すまない。」


「あ。猫は?」

アレクがそう言って謝罪する間に意識がはっきりしてきたのか顔つきが徐々に変わってくる様子をロッソとティナは黙って見守っている。

それでも自分たちがなぜここにいるのか?と思い出したルカが慌てて確認する。

「今頃は我が家の暖炉で昼寝だ。お前ら、自分が何を相手にしたのか、ほんとにわかってる?」

「森山猫だろ。聞いたよ。」

「どんなだ?どんな森山猫だったんだ?」

ロッソが感情の籠っていない声で上から尋ねる。

「森山猫は森山猫だ。」

ロベルトが吐き出すようにそれだけ答える。

「ここんちの森山猫はね、齢50で尻尾が三又の特別種っては聞いたの?」


山猫は長命種だ。その中でもめったに現れない三又の尾を持つそれは魔力がけた外れに強い。

場合によっては討伐対象となることもあるくらいの種類だ。

自分たちが相手にしていた魔物の真の姿に賢者の杖の顔色がさらに悪くなる。

「え?そんな?」

「お前らは聞かなかったよな。ちなみに白魔森山猫の特徴は?」

「精神感応魔法を使い、幻覚作用で惑わす。」

「わかってんじゃねえか。対策は?」

「精神干渉防御の魔法、もしくは呪符。」

「それもわかっててうかうか引っかかった訳だな。」

リナルドは淡々と話を進める。



「今回の案件はな、お前らみたいなひよっこの殻を抜け出す寸前のやつらに落とし穴をチラッと見せてやる案件さ。つまり最初から失敗は予測されてたわけだ。」

「・・・な、ふざけんな。そんなのギルドがやっていいのかよ?」

トマが立ち上がりリナルドにつかみかかろうとするが、ロッソが間にすっと立ちはだかった。


「あぁ、そうだな。ハメたのは事実だ。だがな、これが本当の依頼で当たって魔物や相手が本気で殺る気なら、どうなってた?」

ゴクリと唾を飲む音までが聞こえそうな静けさが満ちる。


「甘かったんだよ。お前たちはな。同じ森山猫でも魔の森への探索ならここまで無様なハメにはならなかったろうさ。だけど、お前ら城内で、ペットの森山猫を自宅の敷地内で探すってんで舐めてたろ。

俺たちがわざわざ銀翼の名前を出したからさらに気が逸った。」

で、結局このザマになったわけだ。とリナルドが締めた。


返す言葉もなくて賢者の杖の面々はみるみる萎れていく。

その様子を見たリナルドは、すっと表情を変えてにこやかな笑みを浮かべる。

「ま、そんなお前達は運がいい。ちょうど初心者講習が残ってたよな?」


ギルドによる講習は経験なく冒険者になった者には基礎の基礎から教えてくれるとてもありがたいシステムだ。

自分の技を磨くために定期的に受けることが望ましいし、推奨されてはいるけれど貴重な時間をかけることも事実で。

武器の握り方もおぼつかなかった若者たちを一通り基本を教え込むシステムはギルドの人材育成の基礎的システムで、講習は無料だけどその間稼ぎは入らないわけだから懐も寂しくなる。

だからランクや経験が上がってくるとどうしても講習をさける傾向になる。

講習をまめに受けたからと言って必ずしも腕が上がるとは保証はできないけれど。



「ああ。そうだな。前衛職、後衛職、支援職それぞれ2回。もう十分だと言って使わずに狩りに出るようになってたからな。どうだ?槍の腕前を俺に見せてみないか?」

ロッソの言葉に賢者の杖は小さく肩を竦める。

最初の講習では基本を教えて恐怖心をなくすことが目的だが回数を経てくるごとに訓練が苛烈になっていくのはギルド所属冒険者の間では周知の事実だ。

勧誘しつつ明らかに強制だが断るには状況が悪すぎる。


「今回は職種変更体験もしたら?随分連携が乱れてたし。」

ティナの提案に賢者の杖の面々の顔色がさらに悪くなる。


現実に目を背けとりあえずの収入を安定させるだけの冒険者で終わるのか。

それとも一時の恥は一時のそれとしてさらなる上を目指すのか?

賢者の杖の面々は無言で顔を見合わせてお互いの意志を確認する。


「わかりました。次の講習を申し込みます。」

「10日もさまよってたんだから次じゃなくて4日後にしときな。登録しとくよ。」

リナルドはそう言うと、あ、と思い出したように付け加える。


「今回は依頼未完遂だから次回は取り分が少し減る。訓練して早く実績あげてくれよ。」

ギルドでは規約により依頼達成できなかった場合は次回受けることのできる依頼に制限がかかる。

選べる依頼が限定されたり取り分が5分ほど減らされたりなど様々だ。

「・・・・・・。」

「不服そうだな。」

「いいえっ!!ありがたく受けさせてもらいます!!」


賢者の杖の声が暗い夜空に響き渡ったのだった。


新人の仕上げ教育はとりあえず終わりました。

登録した冒険者は大事に育ててフォローするのがギルドのお仕事な世界です。

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