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ギルマス・マルコは頭が痛い(1)

ちょっと改行などが読みにくい箇所はわざとです。ごめんなさい。


上司はツラいよ。


冒険者ギルドニベア支部ギルドマスターのマルコは2年前に引退した冒険者だ。

少し白いものが混じり始めたとはいえ、豊かな茶褐色の髪を現役の時と同じようにオールバックにしてひとつに結んでいるのは去年結婚した妻レジーナの頼みだ。


ちなみに今年40歳になるマルコに対して妻のレジーナは26歳。レジーナが昔馴染みで、尚且つ童顔なためちょっと不名誉な噂が流れたのは今でも触れてはいけない。


彼は10代の前半から冒険者として活動し、引退するときには大陸でも数少ないAランクに達していた。

少し衰えたとはいえ、今でも見上げるほどの背丈に均整の取れた鍛え上げた体はBランクにも負けないだろう。

マルコの統率力はギルド本部の上層部も認めているところではあったけれど実際の運営にはそれだけではなかなかできるものではない。


2年たって少しは様になってきたと思いたいが、冒険者たちが獲得したアイテムや魔物素材を巡る海千山千の商業ギルドとの折衝や、

頑固だったり繊細だったりする職人気質が複雑な生産者ギルドとの話し合いは今でも正直気が重い。



(いかん。半分くらいは呪文にしか聞こえん。)

マルコは傍らで離脱を訴える冒険者を説得(?)している渉外担当職員リナルドの言葉を噛みしめながら眠気をこらえている。

リナルドは渉外担当職員という職分ではあるけれど、普段は仕事に関する書類を整理する、という名目のもとに長い時間をかけてギルドにたまっていた書類や覚書に読みふけっている事が多い。


そんな普段は仕事をしているんだかどうだかわからないリナルドが別人みたいになるのが交渉の時だ。

糸のように細くて瞳が良く見えない彼だけれど、獲物を得た彼の瞳は絶対にギラギラと輝いているはずだ、と多くの職員は信じている。

マルコ自身としては去るものは追わず、でもいいと思っているのだが、冒険者ギルドはそれなりに大きな組織、そんな勝手気ままを許すわけにもいかない。



「だからね、直接買取にするよね。その代金には税金はかかってるのか?税金は都度払いなのか?まとめ払いなのか?代金には危険手当はあるのか?ギルドに登録しないハンターなのか?

休業怪我補償はあるの?それ専属で食いつなぐって結構大変ってわかってる?ギルドだと体調悪い時は少し楽目な依頼でも稼げるし、城壁外だけでなく護衛もある。

それに君、お子さんが生まれたばかりだよね。奥さんの休業補償や復帰後のお子さん見てくれる人の手配は?一般の預かり婆とかの相場も調べてるのかな?

ギルド養育院では奥さん復帰後だけじゃなく、ちょっとした用事や息抜きなんかでも面倒見てあげることもできるし、まさかの時は親代わりの養育から成年式までの保護もある。

君のいう増収にしてもギルドはたしかに直接買取にかけるより手取りは少ないけど、その分ポーションや備品のギルド割引価格、養育院での一時預かり、これが個人手配でできるかい?

それでもかまわないって言うのなら、そのオフロディテ商会の専属をうけてもいいと思うよ。」



目の前でプシューと音をたてて冒険者の抜け殻が出来上がる。

(・・・お前の気持ちはよくわかる。俺だって今の聞かされただけで抜け殻になるわな。)

そんな内心を隠しながら、いかめしい表情を崩さずにマルコは椅子に腰かけてじっと二人のやり取りを見つめる。

伺うようにこちらをそっと見た冒険者はそんなマルコを見て顔色を変えて視線をリナルドに戻した。



「まぁ冒険者なんて基本脳筋なんだから僕達ギルドに任せたら安心だよ。でも向上心はいいことさ。

君も君なりに家族の幸せや収入の向上を考えたんだもんね。僕たちは君がどちらを選ぶにしてもギルドに所属している間は全力でサポートするだけさ。

それでも個別契約の方が今後の生活にいいと思うなら残念だけど僕たちは君の成功を『応援』する立場に変わるだけだよ。

そうそう。さっきも言ったけど奥さんと二人で薬草や薬効魔物の採取中心だったよね。で、奥さんが今仕事できないんだよね。あってる?

いいパーティーが補充募集しているんだよ。一度一緒に探索に出てみないかい?合わなければそれはそれで構わないからね。いやいや、そんなに恐縮しなくったって大丈夫だよ。

ギルド職員はギルド所属の冒険者の円滑な活動をバックアップするためにいるんだから。え?合ってみるのかい?それはよかった。

彼らも君みたいな優秀な人材ならきっと大喜びだよ。じゃ、受付に話を回しておくよ。奥さんともう一度話してみて明日の昼から来てくれるかい。うんうん。

君の考えも考慮してこれからさらに君たちに頼ってもらえる冒険者ギルドを目指すよ。いやいや、そんなに何度もお辞儀しないでよ。

じゃぁ、もう大丈夫かな?ギルマス、納得してもらえたようです。」



黒い、リナルド、黒い。言ってることのおよそ8割まともなのになんだろう?この限りなく漂う悪徳商法の雰囲気。

そんな考えが表情に出ていたのだろうか、マルコを見たリナルドが細いタレ目をさらに細く、感情を読ませない表情になって笑う。

(ちょ・・待て。怖ぇ・・・)


「そうか・・・。お前も家族のためにいろいろと考えたんだってことはくみ取らせてもらうよ。これからも励むんだな。

リナルドが言ったようにギルドはギルド所属の冒険者の円滑な活動をサポートするための組織を目指し続けているんだからな。何かあればまたこうやって言ってきてほしい。」

マルコがそう重々しく言うと、すっかり恐縮した表情になった若い冒険者は深い深いお辞儀をしてギルマス執務室を後にした。



「終わったな。ひとまず冒険者を商会に引き抜かれずに済んだな。リナルド、よくやってくれた。」

マルコがそう言ってねぎらうとリナルドは彼のトレードマークでもある糸のように細い目をさらに細めてニヤリと笑う。


「ま、俺に論破されてる段階で海千山千な商人にいいようにされちゃうだけですよ。ギルドはギルド所属の冒険者の円滑な活動をサポートするための組織ですからね。

『優秀な』冒険者はしっかり守らなくちゃいけないじゃないですか。ですけどオフロディテ、これで何回目ですかね。

大手のクランはともかく中堅どころをこんな風に狙われるとこちらとしては初期投資が無駄になっちまうんですよね。それでいて規定価格での買取は毎度渋るし。」


言いながらリナルドはすっかり冷めてしまったお茶を一口口にして顔をしかめる


リナルドはニベアからは歩きでひと月ほどかかる魔の森(ミスティ・フォレスト)のレンジャーの出身だ。

彼らの家は魔の森のほとりに立つ村で、魔物を間引きに来る冒険者や魔力素材を収集する採集者たちが絶え間なく立ち寄る。

特殊な環境にあるその村ではほとんどの村民が森の案内人として、もしくは自身も冒険者として生計を立てている。

リナルドの実家はその中でも村長的立場にあり、優秀なレンジャーに育った彼はその跡継ぎとして一身に期待を背負っていた。


とあるよんどころない事情でその道を進めなくなり、村を出ざるをえなくなったリナルドを冒険者として付き合いのあったマルコがギルドへ勧誘した。

あれから6年リナルドはギルドの冒険者への処置、生産ギルドや商人ギルドとの折衝、マネーカードの提携先探し営業にと活躍しすっかりニベアのギルドに欠かせない人材になっている。



「じゃあ冒険者の皆さんを変にスカウトしている商会へ集金営業行ってきます~。ふふふ。マルコさん、あそこの王都本店の価格って不思議なくらい安いんですよ。

ここニベアでは素材が豊作で買い取り価格が下げ止まりだって生産ギルドに言ってたらしいんですけどね。あとは一部のお店は支払いにキックバックがあるとかないとか・・・

噂話を生産ギルドにしてみたらどうなるかな?ね、ギルマス。」

リナルドが一瞬だけ細い目を見開いてニマリと笑った。


「おう、行ってこい。集金だけじゃなく今後非公式な勧誘をする気が起きなくなるようにきっちりと締めてこい。」

「言われなくても。では、結果をお待ちください。」



結局リナルドは閉門の鐘までオフロディテ商会で交渉を続けた。

その途中で生産ギルドのギルドマスターが押しかけて来た、とか商業ギルドから「鬼」と言われる査察団が来たのはおそらく「たまたま」なんだろう。


その後、オフロディテ商会がリナルドを二度とよこさないでくれ、と半泣きでマルコに依頼が来たのはついでの話だ。


リナルドのセリフはなるべく改行減らして一気にしゃべってるようにしたかったんですが、うまくいったかな~?


ギルマス・マルコの悩みはまだまだ続きます。

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