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受付は今日も大忙し(前)

このお話の冒険者ギルドは独自設定ですww

冒険者ギルドの受付カウンターは毎朝二の鐘で仕事を開始する。

ニベアの街の城門が開く三の鐘に合わせて仕事を開始するためだ。


平時(裏方仕事がない時)はニベアギルドで受付嬢をしているビアンカは掲示板に張り出された依頼をひととおり見回す。

隊商の護衛依頼、街の酒場の護衛依頼、魔獣の素材採取依頼、薬草の採取依頼。珍しいのはニベアを訪れた貴族の護衛だろうか。

払いはいいが貴族の対応ができる人材でないと後後揉めるからパーティによってはお断りしなくてはいけないだろう。

(この依頼を誰が受付に持ってくるかだよね。・・・あ、あそこに『酔いどれ狐』の面々が見える。あいつらはダメね。)

ビアンカがそんなことを考えながら備品の用意をしていると同じように依頼の内容を確かめていたニコロが確認するように言う。


「今日は毎月の25日、ということはツケの回収日。みんな必死に来ますね。」

商会の締め日も近いので素材が必要になり注文が多くなることもあって毎月この日は需要と供給が満たされて依頼が特に殺到する。


ビアンカに話しかけてきたニコロは最初は冒険者として登録するためにニベア近郊の農村から来た、茶色の髪と瞳のおとなし気な印象でもう19歳になる。

農家の四人兄弟の末っ子だった彼は実家で継ぐべき土地もなく兄たちにこき使われるくらいなら、と冒険者を目指したこの街にはよくいる経歴の青年だ。

やる気と向上心とハングリーさに満ちたニコロは、しかし残念なことに絶望的に素質がなかった。

ロッソの体力測定でも失格。リナルドのレンジャー査定でもアウト、ティナの魔力測定にも不合格。

「農家ってよくわかんないんだけど、あんなに力がなくても農作業ってできるんだっけ?」

とティナが聞いてくるくらいだ。

遠方の村から片道の交通費しか持たずにニベアに来ていきなり目論見が外れ呆然としていた彼だったがたまたまその日も月の25日だった。

いらつく冒険者たちを相手に話を聞いたり、人員整理でニコロはよく働いてその場で採用になったのだ。

本人は未だに冒険者への夢を諦めきれていないが道はたぶん厳しい。




「インク壺は補充済、ペン先削ってる。受託書類も大丈夫。」

真面目に備品整理しているラウラを横目にクリスタは手鏡で髪の乱れを直すのに余念が無い。

二人とももうすぐ18歳になるギルド職員としては十分に若い部類に入る。

ラウラも元々はニコロと同じ冒険者志望だったが今は職員をしている。

ただ、ニコロと違うのは素質がなくて冒険者として外に出すと危険すぎる彼と違って彼女は親が許さなかったせいだ。

登録に来た彼女を引き留めに来た親とのすったもんだは今も触れてはいけない黒歴史だ。

結局あまりに反対ばかりしているとニベアを飛び出してしまいかねなかったので妥協点として選ばれたのが冒険者ギルドの職員だった。

友達は登録した冒険者で、彼らが依頼を受けに来ると今でも少し羨ましそうだ。

魔力が少しあるからいずれは錬金術師を目指すらしい。

何事も目指すとなれば真剣なラウラだし親とのもめた経験から自立を目指しているから支度金を稼いだらそのうちギルドを辞めて本格的に修行するかもしれない。


もう一人のクリスタも親の頼みで働いているが、こちらは冒険者にはまったく興味がない。

彼女はニベアでもそこそこ有名な織物問屋の末娘だ。

実家は兄が継ぐし、姉2人が見事な織り手で彼女も工房務めを期待されたが不器用なんだそうで、他の道を探すためにまずは学堂に行った。

学堂を卒業する年になった時、女ばかりの職場は嫌だと我儘を言ったため急きょ冒険者ギルドにきた。

ピチピチに若くて可愛い二人の存在に言っときは浮かれたニベアの冒険者たちだけれど冒険者にはすぐに見切りをつけたらしいクリスタの今の狙いは出入りの商人だ。

フワフワしてるだけなら迷惑だけど勤務時間内はきっちり仕事をする割り切りのいい娘だ。


「奴らが見てるのは依頼であんたの髪が逆だってようが関係ないよ!」

艶々とした栗色の髪を複雑に編み込んだクリスタが手鏡を覗いているのにニベアギルドの受付のボスであるジュリアがからかうように言いながら自分の席の備品を片付ける。

「これは私の戦闘準備なんです~。本当の勝負は明日の納品の方ですよ。今日のあいつらの反応しだいで明日の髪型決めないと。」

冒険者たちがギルドに納入し、鑑定士が値付けをした収穫物を引き取る商人たちがギルドを訪れる日はクリスタにとってまさに狩猟日なのだ。

「やれやれ。ま、仕事が捌ければなんでもいいさね。」

肩をすくめながらジュリアが言った。


「討伐依頼は複数受けてもいいけど、必ず順番や計量、鑑定に気をつけること!護衛依頼は重複させないように。クリスタ、ラウラ、エデン、気をつけな。」

そういうジュリアは旦那が冒険者で留守がちで不安定な収入を補うために働き始めた、と聞いている。

小生意気な冒険者をしかり飛ばしたり、若かりし日の失態を知る熟練者に恐れられ敬われていて、荒くれ冒険者ですら恐れるギルマス・マルコが頭の上がらない唯一の存在だ、とすら言われている。

ジュリアが勤務している日に暴れるような不届き者はほぼ皆無だ。


親が働いているうちにギルド養育院で育った子どもたちは誰も冒険者にはなっていない。彼女の息子は魔石工房、木工工房で働いて独立した。

今は末娘が料理人、末息子が薬師の見習いをしているけれど彼らも冒険者になる気はないそうだ。

「親を見てたら堅実になっちまったかね。」

と笑っていた。




設定メモ(1)

一の鐘(朝5時)朝の祈り

二の鐘(朝7時)労働の開始:ギルドの開所

三の鐘(朝9時)開門:商人や旅人が入ってくる。

四の鐘(正午)祈りの鐘

五の鐘(3時)

六の鐘(5時)終業の鐘:駅馬車などはこの時間に最終が多い。ギルド受付終了。

七の鐘(8時)閉門の鐘



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