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シンデレラルーム  作者: Wolfぽん
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第1章(3)


しかし重いなこの箱。

僕は自分の手にぶら下がっている巨大な弁当包みを、半ば恨みのこもった視線で見る。


お腹も痛いし。なんなのこれ。

ほらー、通行人の皆様からもすごい目で見られてるよほらー。こんなもん持ってたらそりゃ目立つに決まってるわ。おかしいでしょ、だっていろいろ違うじゃん。いつもなら僕の家から出てくる若者って、ぽっちゃり系男子だったんだけど。今日突然そこからイケメンが排出されたかと思えば、ちゃんとデッカイ弁当箱抱えてるんだよ。おかしいじゃん。


僕の通う高校は、家から歩いて約10分程度の割と近場。この10分は、それでも体感的にけっこう長く感じる。

家が学校に近いというのは、裏を返すと、僕の通学路全域にわたって同じ高校の学生どもがはびこっているということである。

ここらへんはそれでもまだコンクリート壁の目立つ住宅街なのでいい方だが、もうすぐショッピング店の立ち並ぶビジネス街に道が開けてしまうので、もうそうなってしまえばストレス。そこら一帯、必然的に休日平日問わず学生達の巣窟と化している。ただ交通するだけで、乗り切るにはなかなかフォーマルな精神が必要だ。コミュ力よ、我が元に召喚せしめん……!

まあこれからの時代グローバル社会って言うし、この流れに乗っておけばいつの間にかコミュ力なんてついてたりするでしょ。そうだ、まずは女子と目を合わせられるようにするとこからね。


僕は思わず息を呑む。

ここから先、足を踏み入れたが最期。この道路に敷かれたアクリル性樹脂の「止まれ」という線を超えた時点で、僕の今年度、始業式は即始まってしまう。もうそういう勢い。


なんでも勢いが大事だ。勢いに身を任せてやってみれば意外とできた、なんてことはけっこう多い。これだ、いける。完璧な自己催眠戦術。

……このよくわからない今の僕の状況、変貌っぷりも置いておけるというものだ。気にしない気にしない。


よし。

ウェルカム マイ スクールライフ!

サンキュー !


「きゃあっ!」


「っは!?」


ぐはッ!!


痛い!! なに!?

何かが僕にものすごい勢いで激突してきた。

方向真横。おそらくスピード的に、自転車だ。

……腹がぁ。


はっ。


隊長! どうしますか! さっきまで邪魔くさいと思っていた弁当が悲惨なことになっています! なに……!? あぁ、もうあのエビフライは手遅れだ!! 僕好きなのに!!


「ごっ、ごめんなさいっ!」


「痛ってぇ……んあ?」


僕が地面に頭を垂れながら悔しがっていると、頭上から声がしてきた。

僕は顔を上げた。

すると、そこには見慣れた制服に身を包む同い年くらいの女が、僕に申し訳なさそうな表情を向けながらいた。


ショートボブの毛先が整った黒髪、透き通るような色白の肌。ぱっちりとした瞳からは幼い印象を受ける。


こんな生徒いたっけ? 新しい一年生だろうか。


僕は自分の体についた土ボコリを払いながら立ち上がる。


「いや、その、こちらこそ悪かった……君はえっと、大丈夫?」


「いえいえ、私の方は心配いりません」


「……そか、よかった」


「はい」


「……」


うわぁーーーーー。


え、喋れない。

痛いのもあるけど、それと同じくらい緊張もやばい。女子と話すのはやはり苦手だ。目を合わすことも難しい。


「あれ? お弁当……」


「……ん。あぁ、気にしないでよ」


見事に地面に散らばった様々な具材たち。


この子の自転車に比べたら、まあ、僕の弁当なんてかゆいもんだ。

自転車はたぶん壊れはしていないものの、道路の硬い地面に派手にぶつけられて横たわっている。


「よくないですわ、私、責任とります」


「ええ?」


そこまでしなくていいのに。


「大丈夫だよ、コンビニで適当になんか買って食べればいいし」


「嫌です」


「えぇ……?」


嫌です、ときたか。僕もしかして一瞬にして嫌われた? それはさすがに悲しすぎる。


僕が反応に困っていると、彼女はさらに付け加えた。


「コンビニで食事を済ませるのは健康にもよろしくないですから。それに、見たところ、あなたはけっこう食欲旺盛な方のようですし……おっきい……」


そう言いながら、彼女は転がった弁当箱をチラッと見る。うん、おっきいね。


「そーゆーわけで、今日のお昼は私があなたにご馳走致しますわ」


「……はぁ」


どういうわけだ。

え、僕は今日ご馳走されるのか?


「えっと……一つ、聞いていい?」


「はい、なんでしょう」


「君は誰だ?」


そう聞いた瞬間、彼女は目を丸くしてキョトンとしてしまう。


「…………あ、失礼しました。私をご存知ありませんでしたか」


「うん」


なんだ? 僕はこの子を見たのはたぶん初めてのはずだ。それとも今朝からおかしな事続きで、頭がおかしくなってしまっているのだろうか。


「私はーー」


そして、僕の手を両手でぎゅっと握り。


「あなたの元カノよ、隼人くん」


悲しげな目で、そう言った。





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