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シンデレラルーム  作者: Wolfぽん
1/4

プロローグ

週一投稿でいきます!


お願いします!




時計の秒針が、僕の散らかった室内で静かに揺れる。


ごちゃごちゃと物が散乱している中、窮屈そうに置かれている机の上の、またさらに少しだけ空いたスペースで、教科書とノートを広げて僕は明日のテスト勉強をしていた。


深夜2時。寝たら負け。そう、これは己との勝負。


クラクラする頭を抱えながら、必死で数学の設問を解いてゆく。


明日、というか今日か……休み明け考査が控えている。ここで寝てしまっては、もうあとは後悔が残るかそうじゃないかの雲泥の差だ。耐えろ。耐えろ。


耐えろ……。


「あっ」


指を滑らせてシャーペンを床に落としてしまった。

物と物のあいだへどこか消えてしまい、そこらへんをごちゃごちゃとあさる。


「あれー、おっかしいな」


僕は諦めて再び机に向かった。


「ねぇ、君」


背後から突然声がしてくる。


「はっ?!」


僕は驚いて後ろを振り向いた。だが、そこには何もない。


おかしい。さっきなんか聞こえた気がしたんだけど。疲れてんのかな。


「こっちこっち」


「っ……!」


僕の耳に吐息がハァーとかけられた。

思わず身体をブルブル震わせる。


(なんだ……?)


「あはは! こんにちわ!」


すると、僕の傍らからひょいっと姿を表した、一人の小柄な女の子。


白くて長い髪に、色白の肌、真っ白なワンピース。一瞬背景と同化してしまいそうな錯覚を覚える。そのくらいに存在感は消えかけ寸前のようなもの。


「……は?」


「こんにちわ!」


え、だれー。

その消えそうな少女の足元では、僕がこの前出したっきり散らばっているCDたちが、ミシミシと嫌な音を立てていた。

割れそうなんだけど。


「あー、今、お前誰だ? って顔したでしょー」


「いや、ちょ、んー……?」


「私はシンデレラ」


へー、シンデレラ。


少しだけ、僕はじっくりと目をつむる。これは夢かもしれない。ていうか夢でしょ。


ゆっくりと、今度は目をあけた。


…………うわ、いるんだけど。


やばい。シンデレラ……。いやふざけとんのか。


「君は不法侵入っていうの知ってる?」


「ここはね、鏡の世界」


いやいや。ここはね、僕のお部屋。

シンデレラの次はアリス的な世界爆誕させやがりましたよこの人。


「うーん……?」


「お兄ちゃんオモシローイ」


「棒読みやめい」


少女は足の踏み場もない僕の部屋の中を、今度はふわふわと飛び回り始めた。


僕は思わず眉頭を指で抑える。


「いやー、んー、疲れてんのかな」


「あ、てゆーかお兄ちゃん今すっぽんぽーん」


「すっぽんぽ……てえええええ?!」


僕は自分の姿を見下ろすと、そこには一糸まとわぬあられもない姿をした自分がいた。

ぽっくり膨らんだお腹。全身の比率にあっていない短足。

て普段の自分そのままやないかーい。


「なに、そーいう趣味なのシンデレラさん、でぶ専? キモ専?」


「いやなわけないでしょ」


「じゃあぁなんだよ!」


「……なーーんだと思う?」


ぐっと少女が顔を近づけてきた。

大きな疑いようのない瞳が僕の目を捉えて離さない。


数回の瞬きを挟んで、口を開く。


「ちょっとわかんないっす」


「隼人」


「え?」


「あなたの名前、隼人でしょ」


ーー原田 隼人。僕の名前だ。


「なんで知ってんの?」


「だってわたしシンデレラだもん」


「……ちょっとわかんないっす」


少女は再びそこらへんをふわふわと浮遊しだす。

なんだ一体。なんなのこれ。


「 ……なにしにきたの? ジャパニーズ プリーズ」


ピタっ、と少女が空中で動きを止める。そして僕の方をじっと見つめ直し。


「それはこっちのセリフだよ」


「ほぉ……?」


「私はあなたに呼ばれてやってきたのよ」


「呼んだ覚えもないのだが」


「じゃあ聞くけど」


地面にトンと着地し。


「原田隼人さん、あなたの希望を一つ叶えて差し上げます」


「え」


おぉ、何だ急に夢のような展開。つーかこれ夢じゃね? 夢だろ。

そう思って自分のほっぺたをつまんでみても、一向に目が覚める気配がしない。

現実世界の僕、早く起きろや。

……ほっぺた痛い。


「じゃあ、僕の願いを言えばいいのか?」


「そーゆーこと」


「まじかよ」


「うそ」


「うそかよ!」


うん、はあ。疲れる。

普段運動をしないせいでこれだけで若干息が切れてきそうだ。


「でもぉー」


「なんすか」


「ちょっとだけ、いいコトしてあげるね」


「いい……コト……だと……?!」


瞬間、僕の頭の中を邪な映像が駆け巡る。

はぁ、はぁ。

真っ白…。真っ白…。


「よし、こっちの準備はできているぞ」


「おや、話が早くて助かるよ〜」


「さぁ、こい!」


「はぁーーい!」


その刹那。


僕の意識は一瞬にして、消え去っていった。









ーーピピピピピ。

ーピピピピピピ。

ピピピピピピピピピピ。


「っ……!」


目が、覚める。

僕の手は無意識の内に目覚まし時計を抑えていた。


……夢か。


僕は自分の身体をベッドから起こして、散らかった床をつま先でかわしつつ自室を出ていく。


「……ってちがぁぁぁう! テストがぁぁ! 僕の成績がぁぁ!」


結局、机の上には未完成の数学のノートが静かに置かれているだけで。それ以上でもそれ以下でもない。もう最悪な朝。これこそ夢であって。


……数学教師になんて言い訳しようか。


最前の策をいろいろ考えながら、僕はフローリングの廊下をフラフラ歩き始める。

今日はなんだかいつもより体が軽いような気がする。あ、これってあれだ。心が軽くなっちゃってんだ。


家の廊下の壁に途中かけられているカレンダー。そこに今日の日程がチョチョイっと書かれてあった。


始業式。


僕、原田隼人は今日から高校二年生。


学校が始まるまでに時間がないので、僕は急いで1階まで階段を駆け下りた。そのまま向かいの洗面台へヨロヨロ入っていく。


コップに突き立てられた歯ブラシを手に取る。親によって片付けられたここらへんは、とても綺麗だ。ダボダボのパジャマを脱…………。


…………ダボダボ、じゃない。


そこではっと気が付き、僕は慌てて洗面台の鏡を見る。


寝ぼけた目で、視界がボヤつくのが、徐々に像を結んでいき。


ーー僕の顔が、鏡に収まりきっていない。


少し腰を下げて、自分の姿が全部写るようにした。


すると、そこにあったのは。


サラサラのストレートの髪の毛、クマの跡すらないパッチリとした瞳、キリッとした眉毛、整った鼻筋と輪郭。


「……なっ…………」


僕は額に嫌な汗を流しながら。


「な、……んじゃこりゃぁぁぁぁ!!!」


目の前に写る爽やかイケメンフェイスの男が、自分であるということを否応なく自覚してしまった。







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