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悪役令嬢は婚約破棄されてから、なぜか町に捨てられ、宿屋の少年に拾われました。

作者: ひな

「どうして私が主人と知り合ったかですって?」


 私は宿屋の帳簿に書き込む冒険者に笑いかけました。

 ここはラストダンジョンのほとり、魔王城の近くの町です。

 勇者が魔王を倒しに来たと町はお祭り騒ぎですわ。

 宿屋に泊るのならサニーサイドアップだと言われたと勇者様は頭をかいておられます。

 この名前、主人がつけましたが微妙ですわよね。

 主人は今買いだしにいってますから、私が留守番ですわ。


「どこかで出会ったことはありませんでした?」


 勇者様が私の顔を見て不思議そうに尋ねられました。


「あら私は10年前まで王都にいましたのよ」


「あ、王太子殿下の……確か豊穣のお祭りの時、子供だった僕はあなたを見た記憶が」


「はい、そうです。私は王太子殿下の婚約者でしたわ」


 私が笑うと、あの時の私と変わらぬ年齢の勇者様はどうしてこんなところに? と尋ねてきましたわ。

 そうですわね、あれは10年前、まだ私が17歳で、王太子殿下から婚約を破棄されたところからはじまります。

 私は静かに話はじめましたの。




『公爵令嬢、アリシエル・フリーデ、ここに婚約を破棄することを宣言する!』


 高々と王太子殿下が私の罪状を読み上げました。

 しかし身に覚えのないことばかりでした。


 まず私は王太子殿下の婚約者でありましたが、王太子殿下の浮気相手であるエリスさんをいじめていません。

 しかしいじめてなんと殺そうとしたというのです。


『そんなことはしていません!』


 私の言葉は否定され、証拠として目撃者たちが現れます。

 伯爵令嬢ユーリカ様は私がエリスさんの教科書に落書きをしたのを見たといいますが……。

 そんな幼稚なことはしませんわ。


 しかし、ほかの目撃者は私がエリスさんを窓から突き落としたのを見たといいます。


 さすがにそんな危ないことはしませんわ。

 怪我でもさせたら……。


 貴族の令嬢、令息たちが私の言葉を否定します。

 王太子殿下に寄り添いエリスさんが笑ったのを見ました。


 私は広間でみなに身に覚えのない罪状でつるし上げられ、婚約破棄を宣言されたのです。


 え? 公爵令嬢だった? うそですよねってあはは、まあお話の続きを聞いて下さい。



 そして私はなぜか身一つで町に放り出されましたの。

 え? はい、王太子殿下の慈悲らしいです。

 公爵令嬢を放り出す? ええ放り出されましたの。

 あのお祭りで確か数週間後でしたわ。

 勇者様はご存じない? 醜聞でしたからあまり広まらなかったのでしょうね。

 今の国王陛下の王妃エリスが魔女だった? あら、そうでしたわね。

 この魔王城に逃げ込んだ話は聞いていますわ。

 災厄の魔女と呼ばれたエリスさんは王太子殿下の想い人だったのですわ。

 はい、その人のせいで私が婚約破棄された? はいエリスさんのせいというかその通りです。

 


『おい、あんた何してんの?』


『これからの人生どうしようかと考えていますの』


 私は町の裏路地で座り込んでいましたわ。すると黒髪の男の子がこちらを見ています。

 町民の方ですかと見ると、大丈夫か? と手にもったパンを差し出してくれました。


『腹減ってないか? 食えよ。んでこんなところにあんたみたいな綺麗な姉ちゃんいたら危ないぜ』


『う、うううううう!』


 優しい言葉を聞いて私はついパンを受け取った後、泣いてしまいましたの。

 え? その少年は誰? まあ話を聞いてください。




『あんた、公爵令嬢? なのに放り出されたの?』


『わけがわかりませんの……』


『うーん、たぶん……』


 何か陥れられたんだなと気の毒そうに少年は私を見ました。

 え? 宿屋につれてきてもらって、暖かいお茶をもらっただけの相手にすべてを話したのはなぜか?

 いえ、ついね。誰も話を聞いてくれませんでしたから優しくしてくれた相手につい話してしまいましたの。


『ここにしばらくいればいい』


 そう少年は言ってくれて、彼の宿屋にしばらくいることにしましたの。

 え? やけに優しい人? どうも彼もご両親を亡くしてさびしかったのと、後は私を見て気の毒に思ったそうですの。

 手は絶対に出さないからさって照れたようにいったのがかわいかったですわ。



 はい、話の続きですわね。

 それから数週間たってお父様がきてくれましたが、どうも私が陥れられたが、お父様は無事ということがわかりましたの

 領地や爵位の没収がなかったからもういいかって思ったのですわ。


 はいそれでどうしたかって?

 そうですわね。風の便りにエリスさんが王妃になって、この国が今のように治安がわる……ええはい、勇者様がおっしゃる通り魔族が入り込むようになりましたわ。

 この山の上の魔王城は結界で封じられていたはずでしたのに。

 はい、私の主人はたまに紛れ込む魔族退治はしておりましたわよ。

 あら主人が帰ってきましたわ。


「おかえりなさい、あなた」


「勇者様が我が宿にお泊まりになられるなど思ってもみなかった。歓迎します」


「あの子は?」


「屋台のクッキーは美味しくないと拗ねている」


 あの子が主人の後ろから現れると、勇者様達が笑いかけます。

 おいくつですか? と尋ねられ3つですと答えると、可愛いですねと聖女様も微笑まれました。


「あなた、私がここを引き受けますから、この子お昼寝させてくださいな」


「ああわかった」


 幼子を抱きあげ主人が奥に下がると、勇者様は少し微妙な顔で私に尋ねられました。


「あなたはここにいてどうして宿屋の女将なぞ?」


「勇者様、貴方はどうして魔王をお仲間と退治されようとされていますの? 私の主人は魔王とて必要悪などと言っておりますわ」


「必要悪? 魔族がいるこの状態が?」


「そうですわね、この町は魔族とは割りと共存はしているようですの。私がここに放り出されたのはエリスさんの指示だったらしいですわ。この町にいたのならのたれ死ぬと……」


 にっこりと私は勇者様に笑いかけましたわ。

 三人、剣士と聖女と魔法使い、たったこれだけで魔王を倒そうと立ち上がるなんて若いですわね。


「のたれ死ぬ?」


「はい、あの当時はかなり治安が悪かったらしいですの」


「今は王都よりも治安は良いと聞いている。魔王の城の近くで……」


「主人がいるからとみなは言われますけどね」


 私がころころと笑うと、勇者様は公爵令嬢がこんなところにいて本当にいいのですか? と尋ねてきました。お話を続けましょう。


 はいはい、それでね彼としばらくいて宿屋のお手伝いをしていまして。

 はいはい、あ、もうお客様ですよ。あらあらおやつって、ごめんなさい。


 5年ほどたってから、あの人がねって、この子連れて行ってくださいなあなた。

 はい、すみません。


 私はなぜかこの人と結婚して、はいはい、ここにいるわけです。


 ありえない? はい公爵令嬢が身包みはがれて、こんなところに放り出されることがありえませんわ。


 はいはい、これから魔王を倒しに行かれる? あら、ご立派ですわね。

 泊まりは一泊ですわねかしこまりました。代金は100Gです。


「あなたはあの災厄の魔女の被害者ではないですか?」


「エリスさんは別に災厄の魔女ではないと思いますわ。ただ王太子殿下がお好きだっただけですのよ」


「え?」


「主人から聞きましたが、どうもエリスさん、王太子殿下がお好きだったようですの。しかし魔族が王妃になれば治安も悪くなりますわよね。魔王が全ての糸をひいていたなんて思いませんでしたわ」


「どうしてあなたがそれを知っているのですか?」


「主人は情報通でして」


 魔王の城の近くにある宿屋の親父はなんでも知っている。

 勇者よりも強い、そう噂されています。

 だけどこれは秘密ですわ。


「ご主人とお子さんと三人で幸せですか?」


「ええ幸せですわよ」


 おやつってあらあらはい、わかりました。今日はクッキーを焼きましょうね。

 どうしてこんなことに? まあ世の中色々あります。

 魔王退治がんばってください。

 できましたら封じるだけにしてあげてくださいな、これは私がかけられる言葉ではないですが。

 災厄などと言われていますが、魔王も悪い方ではないのですわよ。

 娘想いだっただけですわ。




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― 新着の感想 ―
[一言] 誑かされた国王(婚約破棄した馬鹿)の処分はどうなるんだろうかと、ざまぁを期待しちゃうけど、 なにやら誤魔化す能力が高い国王は手ごわそうだね。
[一言] むしろ宿屋主人の総て計画通りなだけじゃと思いました 情報通情報 困ってるとこ助けるよって感じ醸し出しつつ実は
[気になる点] もしかして魔王って元王太子かその浮気相手?? もしくは婚約破棄を裏で操っていた黒幕存在とか。 主人公が放り出された場所は辺境かもしれないけど、国内っぽいので魔王城が近くにありそうな時点…
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