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第5話 全てが変わった日。

これはただの恋愛小説です。

特別、政治活動的な意味合いや、何かに対する批判等は含んでおりません。念の為に。

 三月十四日。 

 午前十時四十五分。


「なんで大阪にいるんだよ? 聞いてないよ!」


「お母さんのお姉さんが大阪にいるの。だから」


「だからって、なんでそんな遠く…」


「だって一号機爆発して危険だって。なるべく遠くにって。浩ちゃんちは逃げないの?」


「まだ分らない。うちの親は様子見ようって」


「うちの親はネット見て、酷い事一杯書いてあって、怖くなってきて。だから着の身着のまま。私もスマホ以外何にも持って来てないよ。急だったから」


「それでも出る時一言言ってくれれば」


「充電があんまりなかったの。急だったから。それで今こっち着いて連絡してるの」


「……戻って、来るんだろ?」


「多分。家も大丈夫だったし。お父さんは仕事の事もあるから一度戻るって言うし。お母さんも仕事どうするのか分らないけど…きっと、一時避難だと思う」


「そう願うよ。このまま会えなくなったら、あんまりだよ」


「ふふ、寂しい?」


「馬鹿! でも、段々寂しくなって来るのかも知れないなぁ」


「私も、そうだと思う」


「圭……じゃあ、早く戻って来いよ。海岸線は津波にヤラれちまったけど、うちらの家の方は大丈夫だったじゃん。家もそんなに酷く壊れてないし、道路も、あちこち陥没や亀裂はあるけど。きっと大丈夫だよ」


「原発が爆発するまでは私もそう思ってた。でも今は、浩ちゃんの方が心配。早く逃げた方がいいと思う。何処でもいいけど、大阪にすれば直ぐまた会えるし」


「うちは大阪に知り合いいないよ。多分。それに此処は三十キロ圏外。避難区域外だ。何て言うんだろう。微妙なんだよな」


「分るけど」


「あ~なんでこんな事で、俺たち離れ離れにならなきゃなんないんだ!」


「仕方ないよ。親も必死だし。私達で勝手には決められないよ」


「そうだけど…」


「あっ!」


「何?」


「今テレビ見てる? 見える場所にいる? 原発がまた、爆発したって! 浩ちゃんは大丈夫!? 浩ちゃん!」




 四月十日。

 午後十一時。


「結局アパート借りて、そっちの学校に編入かよ」


「仕様がないじゃない。親戚の家にずっといる訳に行かないし。こんな風になるとは思わなかったし。一度出ちゃうと、戻るか留まるのかの決断も大変なんだと思う。それに私からすれば、浩ちゃんのが心配だよ。大丈夫なの? 其処にいて?」


「俺は大丈夫。てか、三月中は必要以上には外に出なかったよ。親にも出るなって言われて。あと、そうそう、姉貴は出て行った」


「そうなんだ」


「うん。女性はそうした方がいいって。母ちゃんも言ってた」


「ふーん」


「それにしても大阪は遠いよ。せめて新潟とか山形、会津辺りにしてくれれば」


「もう諦めて、別れる?」


「何でそんな事言うんだよ」


「へへ、ちょっと試したくなっちゃった」


「圭って、そういう所あるよな。負けず嫌いで気が強かったり、直ぐに俺の事試したり」


「じゃあ別れる?」


「また~!」


「へへ! それじゃあ明日から学校だから。昼間は出られないから。寂しかったり、用事がある時はLINEで頂戴」


「ん。分ってるよ。あ~いいなぁ、学校。俺の所はいつになったら始まるんだ~」




 四月十三日。

 午後十一時。


「何でさっきからずっと、黙ってるんだよ?」


「……陰でね。ずっと、『放射能が移る』って言われてるの」


「は? 何それ」


「だから、ちょっと今、誰とも話したくない気分」


「そうなのか?」


「うん。だって、話したって仕様がないでしょ。もう、浩ちゃん、私の事、守れないじゃん」


「……」


「だから…少し、一人にして」


「それは、お前が美人だから、嫉妬して…言ってんじゃないのか? なあ」


「……」




 四月二十三日。

 午前0時。


「ごめん。遅くなっちゃって」


「何やってたんだよ?」


「ん。学校の友達のグループLINE」


「随分仲良くなったな」


「何? 嫌味?」


「男もいるのか?」


「クラスの友達だもん。それは、いるよ」


「……」


「何? 怒ってるの?」


「こっちはまだ学校再開しないし、連絡の取れない奴もいるし。テレビもネットの情報も、不安を煽るし。自分だけが、この街だけが世の中の流れから取り残されていきそうな。そんな不安の中で暮らしてる」


「私が浩ちゃんの不安をまた一つ増やしたって事?」


「俺はただ、圭に会いたい。触りたい。抱きしめたいだけだ。そうしないと、このまま圭が消えて行ってしまいそうで……」


「あらら、浩ちゃん暗い。でもそうだね。暮らしている環境が違うから、今は考えている事も違うかもしれないね。私は此処で今は頑張って生きようと前向きだけど。浩ちゃんは後ろ向いてる。お父さんは単身赴任で街に戻ったよ。だから、いつになるか分らないけど。街に帰る日も来るかも知れない。でも、浩ちゃんはやっぱり私を信じていない。あの仔犬の夜と、その週末の時の様に」


「……」


「ホント。このまんまじゃ、付き合ってるのかどうかも分らないね」


「別れたいのか?」


「浩ちゃん次第。別れるって言えば、私を殺しにでも来る? 私がこっちで誰かと付き合って、いつかそっちに戻ったらまた浩ちゃんと付き合っても。許せる?」


「そんな事考えたくないよ。殺すなんて出来ないし、その為に会いに行くなんて出来ないし…」


「やっぱり信じてない」


「……」


「ホントは私だって会いたいんだよ。どんな理由を付けても会いに来て貰いたいんだよ。でも、こういう事になっちゃって、離れ離れになっちゃって、思い出すと会いたくなって余計辛いんなら……ねえ、私を守るって。前みたいに自信満々で言ってよ。私を守ってくれるんでしょ? ねえ!」


「それは……」





            つづく

 

いつも読んで頂いて有難うございます。

もしかしたら、こういうカップルもいたのかも知れないな。と言う思いが執筆のはじまりでした。

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