107カノマトダンジョン4
狭さを感じる室内で大剣を構えたケントはマルチマンティスの正面から視界に入った。
カマキリの頭も3人の女性も視界内にケントの姿を収めた様だ。
「お願い助けて!」
「私を殺して!」
「来ちゃダメ!」
魔物に取り込まれた3人の三者三様で纏まりのない意見だったがもう腹はくくってやる事は決まっている。
すでにケントの理性は切れていた。
こんな物を作り出した連中に怒りをぶつけるが如く既に頭には殲滅の文字しか存在しなかった。
さすがの肉食三姉妹もあまりにも変わり過ぎたケントの雰囲気に話し掛けられなくなっていたがそれでもサポートをする覚悟で臨んでいた。
3人ともこの魔獣が将来の自分の姿であった可能性を考えてしまい、いつもの様に動けなくなりそうだったがケントの怒気に触れこの人は自分がこうなってもなんとかしてくれる人なんだと思うと自然と足が前に出た。
先制攻撃はカマキリがとった。口から消化液をそれぞれ吐き出し、遠距離攻撃をしてきた。
ケントは避ける気もなく進んでいたが、テルトの水弾で迎撃し事なきを得た。
続いては女性の声を使った精神的揺さぶりを掛けてきたが既にキレて耳に入ってないケントには全く効果を為さなかった。
いよいよケントが直接攻撃の射程圏内に入ったのに合わせて蜘蛛足が振り上げられたがそこはアーネの糸が拘束をしてくれる。さらに近付きいよいよカマキリの鎌が振り上げられ二階建ての建物の上から振り下ろす様な攻撃を大剣で受けたが、正面からは既に手が足りずに回避するにも両側からの圧力の前ではおいそれと逃げ出せないのを前に回り込んできた小さな体が受けてくれた。
そうリーブが滑り込んで、強烈な振り下ろしを受け止めてくれたのだ。
だが攻撃はそこでは終わってない。
再び消化液をカマキリの口と女性の口からも飛ばして来て、リーブが龍鱗の盾で弾いてくれたがその隙に再び合計6本の鎌の練撃で吹き飛ばされてしまった。しかしリーブもただでは転ばない。飛ばされながらも熱線を右のカマキリの顔に浴びせ視界を奪い、その隙に鎌の根元から1本切り落としてやった。
だがここで思わぬ事態が…
カマキリの鎌を切ったのだが切られたカマキリの女性が痛みを訴えながら絶叫しているのである。
意識を失えず神経は繋がり痛みを感じ絶叫をする。
なかなかえげつない構造の様だ。
一旦距離をとり、着地した所を6個の消化液弾が飛んできた。
絶叫してても消化液を飛ばすのは別らしい。
消化液を回避しつつここで得物の交換だ。
大剣に持ち手を接続して全長3.5mになる薙刀に変更した。
これだけあれば間合いが少し遠くても攻撃を当てられるし普通にカマキリにも攻撃が当てられる。
得物の変更している間にテルトが氷刃の弾幕、アーネの斬糸で細かい切り傷を作っているが、カマキリ以外の体に傷を作っても3人の口からは悲鳴が止まらなかった。
やはり3人は魔獣の一部で器官として人型を使われているだけの存在になっている様で、分離は不可能そうだ。
これを悟ってしまうと今までどこか遠慮のあった女性への攻撃も遠慮する事はなくなった。
ケントは薙刀を下段に構えつつ一気に間合いを詰めながら手前の蜘蛛足を1本切り飛ばした。
胴体が右に少し傾いたところで蜘蛛の胴体から生えるカマキリの胴体を袈裟斬りにしつつ鎌を1本も飛ばしながら生えている付け根に食い込ませそこから一気に胴薙を発動させて横一線に蜘蛛の胴体から傷口を広げて三体ともカマキリの胴体を傷付けずに切り離せる寸前の状態にまで持って行けた。
カマキリの胴体にはまっている女性は傷つけない様に無意識ながら体が動いていた。
次にまだ繋がっている胴体に突きを繰り返し徐々に削りついに1匹切り落とす事に成功。
女性の顔は驚きに包まれていたが激痛を感じているだろうけど満面の笑みでこちらを見ていた。
その表情に心を奪われたケントは切り落としたカマキリに向けて、蛇突を繰り広げまるで彫刻の様に女性から余分なカマキリの部分を削り落とし、最後には正面から見ればただ手足を失っただけの女性に見える状態になった。
女性は声こそ出せなくなっていたが口の動きだけはありがとうと呟きそのまま息を引き取った。
最後は人として旅立てたのだけがせめてもの救いだった。
ケントは残る2人も一気に切り飛ばし、魔物部位を削り落とし人の姿に戻して人としての生命活動を停止させた。
本来は欠損再生剤も頭の隅にはあり、人の姿に戻してやりたかったが思いの外早くに活動停止してしまい、この状態で使っても魔物が生える可能性の方が高そうなので、結果何をやっても救えなかった事実に直面してケントの周りの空気は一気に下がった。
3人の亡骸はアーネが回収してくれていた。
カマキリ部分が無くなったとはいえまだ巨大な蜘蛛の部分と卵の繭の様なものが残っているのだ。
無造作に薙刀を持ったケントの両後ろにテルトとリーブが続き、亡骸の回収を終えたアーネも2人の後ろに続いた。
ここからはもう遠慮なんていらない。
オーバーキル?何それ?状態で怒りに任せた後先考えない攻撃が繰り広げられた。
ケントは竜巻の様なかまいたちの斬撃を打ち込み、テルトの冷気に絡め取られた足はジワジワと凍っていき、アーネの斬糸は蛇の様にのたうち回り、リーブの怒りの咆哮は壁をも振るわせるほどの音波攻撃となっていた。
体を切り裂かれつつ危機感を感じたであろう蜘蛛は自ら卵胞を割り子供達を外の世界に解き放った。
それは小さくても蜘蛛の胴体に1匹のカマキリが乗っておりさすがにこいつの子供とわかるものがウジャウジャと出てきた。それこそ文字通り蜘蛛の子を散らすが如く。
しかしそんなことすら想定していたケントは卵胞が割れる瞬間に合わせてヒートプレスで蜘蛛と卵を挟み込んで両面熱した鉄板で挟み込んでいた。それすら逃げだせたのは熱の次は冷気とばかりに蜘蛛の周囲に展開された冷気の渦に捉えられ、みるみる凍っていった。それすら仲間を盾に生き残る奴にはアーネの一本釣りでピンポイントアタックで釣り上げられて潰されるか、リーブのブレスで粉々になるかのどちらかしか残されていなかった。
せっかく外に出た奴らは平均5秒の生存でその生を全うしたのだった。