表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

狂い咲きの雑音

「五月蠅いわね」


ノイズをかき鳴らすラジカセの停止ボタンを軽く押して、石津サキは呟いた。

県立朱絹高校写真部、その唯一の部員にして部長である彼女の元に、霜河ジュンがやって来たのが3日前。

その時の置き土産のCD-Rを、サキは幾度と無く、再生しては停止する。


「――雑音しか聴こえない、か」


イジェクトボタンを押し、中のCD-Rの裏面を見る。

青地に、書き込まれた部分だけが緑色で示されるそれを、サキは30秒ほど眺めていた。


「違うのよ」


ため息。


「雑音しか、聴かせる気がないんだわ、彼」


もう一度、ラジカセにCDを納め、おもむろに部室のカーテンを開く。

そこから校庭を覗けば、陸上部の練習風景が広がっている。

サキはその中にジュンの姿を確認すると、校庭の周囲にミキヒコが居ないかどうか、キョロキョロと見回す。


陸上部員の声だけが響く、44秒。

直後、部室に小さな呟きが漏れた。


「――やっぱり、居ない」


ミキヒコが、居ない。

そのまま、サキの右手人差し指がラジカセの再生ボタンへ伸びる。


が。


その指がボタンに触れる寸前、サキの背後で扉の開く音がした。


「……何をしに来たの」


振り返ることもなく、サキは言い放つ。

その返事は聴こえない。

ただ、背中からそっと抱きしめられる感覚が、彼女を包む。


「魔法を、かけてもらいに、来た」


何度も、そうしているはずなのに。

サキの背中を抱きしめる身体は、かすかに震えている。

まだ、拒絶されるのかもしれないと思っているんだろうか……なんて事を思いつつ、少女は振り返る。


「おいで。また、魔法をかけてあげる」


言って、鈴鹿ミキヒコに口吻をする。

いつものように。


その日も、ミキヒコとのキスは血の味がした。


ラジカセからは、二人の全てを外界から遮断するかのように、雑音が響く。

口吻の音。

押し殺した、ともすれば悲鳴に聴こえそうな、声。

それらは全て、ノイズに包まれ、視えなくなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ