↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巣喰い  作者: サクラギ
PR
10/10

明

「いってきまーす」

 自転車に乗った一夜は、明るい笑顔で学校に向かった。

 ゴミ袋を持った紗枝は、一夜を見送ると、家の傍にある集積場へ向かう。

 紗枝と同じようにゴミを運び、そのまま立ち話をしていたご近所の主婦二人が、紗枝を見るとヒソヒソ話を止め、紗枝の方へ視線を向けた。

「おはようございます」

 紗枝がそう言うと、二人も同じように挨拶を返して来る。

「一夜くん、元気になったのね。なに? 学校へ行ったの?」

「ええ、そうなんです。やっと学校に行けるようになって。今日は補習授業があるんです」

 ゴミを置いた紗枝は、立ち話に加わっていた。

「そう、良かった。昨日、救急車が止まったでしょう? てっきり一夜くんかと思って心配してたのよ」

 二人の主婦は、心配そうに紗枝を見ると、話しにくそうにする紗枝を固唾をのむようにして待っている。

「ええ、お騒がせしてすみません。実は、主人が戻って来て、倒れてしまったんです」

 紗枝が心苦しそうに言うと、二人の主婦は、一瞬驚いた顔をして、すぐに体裁を取り繕った。

「そうなんです? それは心配ですね」

「ご主人って確か、何年も戻って来ないって……」

 ひとりの主婦が、隣の主婦の腕を引き、その後の言葉を遮った。

「いえ、良いんです、本当のことですから……。実は、昨日、5年ぶりに主人が戻って来たんです。私も、一夜も心配していましたから、とにかく無事だってわかって安心したんです。……すみません、病院に行かなくてはならないので、これで失礼しますね」

 紗枝は会釈をすると、二人の主婦から離れ、家の中へ入って行った。



「ご主人、5年も戻っていなかったんですって」

「もしかして、浮気かしら?」

「……5年も戻らなかった旦那さんの面倒なんて、良く見る気になるわよね」

「私なら追い出して家にも入れないわ」

 二人の主婦は、紗枝の家をちらちら見ながら、小声で話を続けていた。

「……でも、病気になったのなら、それはそれで楽しいかもしれないわね」

「なに? 面倒を見るフリをして、仕返しでもするの?」

 二人の主婦は、顔を見合わせ、吹き出して笑った。



 紗枝は玄関のドアの内側で、少しだけ開けたドアの隙間から、噂話を聞いている。

 紗枝の顔には、陰鬱な笑みが浮かんでいた。





                     <了>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。