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彷徨

作者: 中津

 蒲団が妙に暑苦しい。いや私の身体が熱を帯びているのかも知れない。


 先刻からずっと思考だけがアチコチを飛び回っている。寝床に入ったのはもう随分と前のような気がする。しかし眠れないのだから仕方がない。


 今日はどうも変だ。トテモ眠たいのだがどうしても寝付かれない。目を開けているのが億劫なほど身体は疲れているのにアタマだけがギンギンと冴え渡っている。今ならスバラシイ小説が書けるような気がするがしかしキット机に向かえば書けなくなるのだと思う。


 幾度となく寝返りを打って最高の体勢を探ってみるが恐らく最高の体勢を探る等という考えが頭の内にある間は寝付く事が出来ないのだろう。眠る為には頭の中を空ッポにしなければならないのだ。誰かがそう言っていた。誰かは思い出せない。誰だったか。……ハテナ……。


 今、僅かに眠りが訪れようとした気がする。しかし眠りが訪れようとしていると自覚してしまった時点でモウ駄目だ。睡魔はアッという間に逃げてゆく。嗚呼。


 眠れない時には羊を数えれば良いとしばしば言われるが、あの根拠は何なのだろう。多分他の何かに集中させて眠りを誘おうという思惑なのだろうがしかし何故羊なのか。羊は眠りと何か関係があったろうか。他の動物では駄目なのか。


 ……また気付いてしまった。今の思考の流れは非常に良かった。あともう少しだった。しかし気付いてしまった。睡魔は直ぐに逃げていく。


 人生とは何だろう。急にソンナ思考が訪れる。今までに何度も考えている気がする。答えは決して出ないのは分かっているがそれでもこうして暗闇で物思いにふけっていると否が応でも頭の中に沸いてきてしまう。そして不安になる。生きる意味がワカラナクなる。蒲団を被る。蒲団の外が何だか悪意に満ち満ちているようで押しつぶされそうになる。息苦しい。だが出られない。蒲団から出ると……キット何も起こらない。起こらないのが分かっているのに出られない。ただただ怖い。理由のない恐怖。母親の顔を思い出す。死にたくない、けれど生きていたい訳でもない。人生とは……嗚呼……嗚呼……。


 バッと蒲団から出る。何かが分かりかけたような気がした。しかし実際は何も分かっていない。それも分かっている。こんな感覚は幾度も味わっている。いつかそれに気付ける日が来るのだろうか。来ない方が良い気もした。理由は分からない。


 暑い。身体を起こして少し頭をヒンヤリと冷やした。そしてまた横になった。


 そもそも俺は何故寝れないのかしら……と考える事にした。何かを考えていると決して寝付けないのだろうが、どうせ眼がシパシパとして到底寝付けそうにないのだから徹底的に考える事にした。こんな日があっても悪くはない。明日は用事があるが一晩位の徹夜なんて問題はない。どうせ大した用事でもなかった筈だ。多分、そうだ。キット……そうだ。一晩位の徹夜なんて問題はない。ウン。どうせ大した用事でも……思考が堂々巡りしている。ソモソモ何故明日の用事のことに思考が引き寄せられていったのだろう。確か……徹夜がどうとか……アア、俺は今寝付けなくて、そして明日の用事があるけれども徹夜してもキット大丈夫だろうとかナンだろうとか考えていたのだ。アア、そして俺は今何故寝れないのだろうかと考えようとしていたのだ。だから明日の用事が大したものではないのだ。アハアハ、頭が上手く回っていない。そういえば明日は雨らしい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うーーーん。 センスを感じる。 いや不条理小説のようで私小説のようで、だけど緻密な計算によるあざとさを織り込んでいるような、ええ、素晴らしいです。
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