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海の恋歌  作者: 椿ユウ
海賊と海底の姫君
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大陸史2



■ヴィリヴァルディット歴 618年■



セシルスト・キア大陸の西を領土としていたファンシラー王国はこの年、その名を歴史の表舞台から消した。


ファンシラー王国の北に位置していた宿敵であるカルベリア帝国によって制圧されたのだった。


最初こそ紛争の絶えない国であったが、カルベリア帝国はやがて、大陸一の大国となる。


南には花の王国と揶揄されるほどに穏やかな小国ローレルが、北には古くから鬱蒼と茂る薄暗い森だけを領土としているディリガー国があるばかりで、カルベリア帝国に仇なす国など周囲にはなかった。


ローレル国もディリガー国も共に国と呼ぶにはあまりに小さく弱い為、カルベリア帝国から協定を持ち掛けられた際も、管理下に置かれることは明確な協定だったにも関わらず、受け入れるしか選択肢は持たなかったのである。


カルベリア帝国の東には未開の地であるキューレ砂漠が広がり、西には海ばかりであるこの状況で、最早カルベリア帝国の繁栄は約束されていた。


そればかりか帝国には幸いにも賢君が続き、この安寧は永久に続くとさえ思われていた。





■セルストア歴 1346年■



奇跡のように美しい、セシルスト・キア大陸。


その、外海。


ラウラ海と呼ばれるこの海の底を見た者は、まだ誰もいない。


そんな海の底には、ひっそりと暮らす者たちがいる。


内海で暮らす人魚ではなく、人の子の姿を持った者たちだ。


彼らは、陸から遠く離れた海の底で、ひっそりと静かに暮らしている。


このセルストア王国王家にも、この年新たな命が誕生した。


しかし、既に美しい姉姫のあるこの王宮で、その存在は姉姫の身に何かがあった時の為のものでしかなかった。


女王もその伴侶も、名付けたのを最後にこの姫にわざわざ会いに来る事はなかった。


乳母以外では、この王家に古くから仕える老婆だけが世話をやき、小さな姫は両親からの愛情をその身に受けることなく老婆に育てられることとなる。





■セルストア歴 1352年■




「昔々、マリー姫は敵国の王子と恋に落ちた。

決して結ばれぬ運命の二人は、あの世で添い遂げようと誓い合った。

しかし、命を断とうというまさにその瞬間、二人を哀れんだこの世で最も強大な魔力を持つ魔法使いヴィリット様が現れ、二人の為に海の底に国をお作りになって、二人をそこに住まわせた。

それがここ、セルストア王国さ」



教育係である老婆の声に一生懸命耳を傾けるのは、海底に広がるこの国の幼き王女ナギである。


彼女は今年で六歳になる。



「マリー姫と敵国の王子が、ナギ姫たちのご先祖様だよ」



老婆はそう言い、微笑んだ。


その横顔に、悲しみが揺れる。


ナギ王女には姉がいる。


姉も含め、この王家の面々は見目麗しかったが、そんな中でナギだけはあまりにも平凡な外見をしていた。


両親や国民の愛情を一身に受けている姉とは対照的に、ナギは生まれてすぐに乳母に預けられ、両親ともあまり顔を合わさずひっそりと、城の奥深くでこうして老婆に育てられてきたのだ。


そしてこれからも王家の者とは思えないような、華やかさとかけ離れた質素な生活をナギは続けていくのだ。


美し過ぎる姉を持ったばかりにその身に降りかかった不幸を、彼女は不幸だと気付くことすら出来ずに。



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