九話
ガルムと死闘を演じた部屋から出て、大きな岩の裏に身を隠す。
もう一度あれをしろなんて無理っ! ということで、動けるくらいに体力が回復したらそそくさと移動してきた次第だ。
(ランクアップて、レベル百にならないと出来ないものじゃなかったのか?)
そう、ステータスカードに表記されていたランクアップが可能だという三つの職業を検証する必要を感じたのだが、命の危険があるような場所にいる気はおきず、とりあえず死角の多い場所に移動してきたのだ。
荒い使い方をした槍は今すぐにでも手入れをする必要があったし、体中の傷で満足に動けそうもない。一匹二匹程度なら大丈夫だろうが、出来るだけ避けた方がいいのは確かだ。
「ステータスカード、っと。確かに三つあるよなぁー」
手にステータスカードを出し、新しく条件を満たしたらしい三つの職業を確認する。
槍術士――槍使いの上位職で、槍の熟練度と俊敏に補正がかかる。
戦槍士――バトル・ランサー。格闘と槍術のスキルをしよう可能な職業で、魔力の補正は低いが、戦闘に対しては飛びぬけた補正がかかる。
血槍鬼――ブラディランスは槍の熟練度に大幅な補正がある特殊職。また固有スキルとして、血槍があり、敵の体力を奪うなどと言った技が使えるようになる。
とりあえずレアな職業らしい戦槍士と血槍鬼の二択なのだが、今の所ホルスはソロで迷宮に潜っている。
ギルドで紹介された宿は駆け出しが使うグレードの低い宿で、大人数で一つの部屋を使うシステムで、本来はそこで冒険者同士の結託、つまりはパーティーを組んでくださいと言う裏の意味もあったりするのだが、夜遅く帰り朝は早くに出てしまうホルスはそのことに気づけていない。
「よし、敵の体力が奪えるって言うのは、探索時間も延びるし、今の俺には持って来いだよな!」
どうせ格闘系のスキルが使えるようになったところで、うまく使い分けられるほど器用でもないし、と決断し、血槍鬼へのランクアップを決意する。
ホルス:ヒューマン 槍使いLv49
祝福:混沌の神のケイオス(混沌と破壊を司る神々の長。混沌の系譜でもっとも強い力をもつ)
筋力:Ⅳ81
耐久:Ⅳ15
俊敏:Ⅵ21
魔力:Ⅲ25
体力:Ⅳ97
備考:ミズール都市ギルド所属
血の中の産声・生存咆哮・大量虐殺・強さの証明(槍)を達成を確認しました。
槍術士へのランクアップが可能です。
戦槍士へのランクアップが可能です。
血槍鬼へのランクアップが可能です。
血槍鬼へのランクアップでよろしいですか?
確認致しました。ホルスを槍使いから血槍鬼へランクアップ致します。
ステータスカードに表示された文を読み、これも神様が管理しているのかなぁ、なんて気楽な声を出したホルスだが、次の瞬間に飛び跳ねた。
「おぉーう!? なにが!」
体の奥底から何かがこみ上げてくる感覚。レベルアップのそれに似てはいるが、強さが全然違う。向こうはほんのりと暖かくなる程度に対し、今のは胸を突き破りそうなほど強い衝動だ。
これがランクアップか! なんて考えながら胸を押さえていたら、その感覚は直ぐに引いていった。
衝動に耐えるで必死で気付いていなかったが、いつの間にかガルムによって出来た傷の大半が塞がりかけている。ランクアップの衝動が収まり、しっかりと体を確認したホルスがそのことに気付き、また驚愕の声を上がる。
「おいおい、どこまでも異常だなぁ。なんか疲れも全然なくなってるし……よし、これならまだ行けるかな?」
そうそう、と立ち上がる前にステータスカードを表示して確認をしておく。身体の調子がいままで感じたこともないほど力に溢れていることを考えれば、しっかり血槍鬼にランクアップできたことはわかりきってはいるのだが
ホルス:ヒューマン 血槍鬼Lv1
祝福:混沌の神のケイオス(混沌と破壊を司る神々の長。混沌の系譜でもっとも強い力をもつ)
筋力:Ⅰ1
耐久:Ⅰ1
俊敏:Ⅰ1
魔力:Ⅰ1
体力:Ⅰ1
スキル(血槍)
備考:ミズール都市ギルド所属
「って、おい!?」
誰ともなく突っ込むが、答えが返ってこない空しさに一人黄昏てみる。
村でランクアップしたものがいなかったので知られていなかったのだが、ランクアップをするとステータスが初期化される。
ゼロに戻る、ということではなく、造り変えられた身体で、新しくⅠからになるのだ。今まで培ったものは当然、初期化はされていない。
つまり、
筋力:Ⅰ1+Ⅳ81
耐久:Ⅰ1+Ⅳ15
俊敏:Ⅰ1+Ⅵ21
魔力:Ⅰ1+Ⅲ25
体力:Ⅰ1+Ⅳ97
となっているのだが、今のホルスにそれを知る術はない。
「ま、いいか。帰ったらギルドの人に聞いてみよう」
命の危険が去り楽観的になっていることは否めないが、何よりも今まで付き合ってきた身体だ。弱体化してないことなど、いやむしろ今までより圧倒的に強くなっていることがわかっているのだろ。
深くは考えずに、とりあえず自分の今の状況を検証するために、槍を構えてみる。
何度も何度も繰り返してきて、自然体に出来るようになった水平に槍を構え、まずはゆっくり突きを繰り出してみる。
いままでよりもしっくり来るその感触に、それだけでランクアップの恩恵をしっかり感じながら、槍を縦横無尽に振り回し始める。
「おぉお!」
確かに、今までより槍が早く、力強いのだが、動きが滑らかなので音は殆ど出ない。
しっかりとした手ごたえを感じて、これならいける。などと感じる。
「とりあえずは、槍を買い換えなきゃ駄目かもなぁ」
ランクアップで筋力もあがったようで、今までの槍では心ともなく感じてしまう。
帰ってからすることの上位のリストに入れつつ、とりあえずは帰ろうと思う。肉体的にはランクアップのお陰であまり疲れてはいないのだが、精神的には磨耗しきっている。
早く帰って寝たい、などと愚痴りながら、その日の探索を終了させるのであった。
さー次からはぼっちで戦いまくるホルス君が待っていますよ!
誤字脱字、感想をお待ちしておりますー