七話
綺麗な木造の作りの扉を開けると、これまた小奇麗に掃除された一室。広さはそれなりにあって、正面には大きな一枚板のカウンター。その奥には昔はよく見た事務所のような作りになっていた。
「ようこそ、ギルドは初めてですか?」
イメージのギルドとはまったく違ったので、思わず見渡していたホルスに、カウンターの奥の女性の方から声をかけてきてくれた。
「え、えぇ。ギルドに登録したいんですけど……」
「はい、ようこそいらっしゃいました。それではステータスカードを出していただいて、こちらを上に被せてください」
未だにきょろきょろと見回しているホルスに苦笑いをこぼしながら、事務的な応対で一枚のカードを差し出したギルドの女性。
ホルスが見ると丁度ステータスカードと同じような大きさの一枚のカードだった。
「これは? ステータスカードの上に被せるんですか?」
「こちらでギルドに登録した、と証明できるものなんですよ。迷宮に入るにはギルドの登録が必要ですから」
「ほぉー」
早速ステータスカードに被せてみると、ギルドから渡されたカードがステータスカードに取り込まれていった。よく見ると
ホルス:ヒューマン 槍使いLv29
祝福:混沌の神のケイオス(混沌と破壊を司る神々の長。混沌の系譜でもっとも強い力をもつ)
筋力:Ⅲ85
耐久:Ⅱ50
俊敏:Ⅳ98
魔力:Ⅲ25
体力:Ⅳ13
備考:ミズール都市ギルド所属
となっていた。
「はい、こちらで登録は終了です。基本的に冒険者の方に責任というのは発生しません。ただ迷宮で得たものは出来るだけギルドの方に売って頂くことをお願いしていますが、こちらも強制ではありません。その代わりギルドも迷宮や都市ないでの争いといったことには一切関与いたしませんのでご了承ください」
ホルスが疑問に思ったことは、他の人からもよく聞かれることなのだろう。一切のよどみもなく一息で言い切られて、情報の整理の方が時間がかかったりした。
「つまり、自己責任でってことですかね?」
「自己責任で、ということです」
語尾に♪が見えたのは気のせいだろうか? 可愛いのだが、狙ってやったとしたらあくどいことこの上ない。
つまり、とホルスは自分の中の情報を整理する。ギルドは冒険者が気持ちよく冒険できる状況までは作ったから、その代わりにこっちにも利益が出来るようにしてね、でも面倒ごとは自分で片付けてね、といったところだろう。
むしろこのシステムは、お互いの立ち位置がはっきりしていて想像していたより全然いいのかもしれない。変に責任とかも押し付けられないし。
「わかりました、あと二つ聞きたいのですが、素材の買取は魔獣のものもしてくれますか? あと、お勧めの宿なんかありますかね?」
今のホルスにはこの二つは死活問題だ。村から多少のお金は貰ってきてあるが、所詮は多少でしかない。ならまずは金銭の確保。ついで寝床の確保は急務なのだ。
「はい、魔獣の素材でも買取は行いますよ。右手に仕切られたカウンターが五つあるのがわかりますか? あちらが買い取り所になります。宿に関しましては、ギルドと提供を組んでいる場所がありまして、そちらがお安くお勧めかと。丁度ギルドの左隣の建物がそうですので、後程ご確認ください」
対応も完璧だなーなんてホルスは考えているのだが、ギルドの窓口には他国の貴族なども訪れることもあり、その為に接客の質は高いものが求められているのだ。宿に関しても、ギルドが推奨するのは安い、大人数が一つの部屋に寝るタイプのもので、ある程度余裕がある冒険者なら自分の行きつけの宿屋、ホームとなる場所を購入しているのだが、彼がそれを知るのはまさ先のお話だ。
「なるほど、丁寧にありがとうございました!」
「いえ、また何かございましたら、お気軽にお尋ねください。それでは、お気をつけて」
笑顔で受付の女性と別れ、次に何かあったらまた彼女に頼もうと心の中で決め、いまは当面の問題である金銭の問題を解消するため、買取所に足を向ける。
「いらっしゃい」
なかにいたのは無愛想な感じのおじいさんで、途中で狩った狼の皮や牙。村から餞別として送られた鳥や狐の素材を換金してもらう。
「あー魔獣か。全部で二千八百ってところだな」
「じゃ、それでお願いします」
この世界の通貨はギルである。
大体五百ギルでかなりお腹いっぱいまで食べられる。手持ちは餞別でもらった三千ギルなので、合わせて五千八百ギルだ。安い宿だと二千ギルから泊まれるので、今日の寝床の確保は出来るだろうとあたりをつけ、日が落ちるまでに一度迷宮がどのようなものか確認しに行こうと考える。
(宿は逃げない。でもイベントフラグは逃げるかもしれないし!)
実際は、宿は埋まってしまえばそれまでなので、宿も逃げるのだが、有頂天になってるホルスはそれに気がつかない。
ギルドを出て、大通りをまっすぐ、門から反対方向に歩く。迷宮は都市の真ん中にあるはずなので、大通りを歩けば着くはず、と勘で歩き始めたホルスだが、見事に当たっていたようで、二十分も歩かないうちにそれらしきものが見えてくる。
(おぉ! まさにダンジョン!)
昔やったゲームに出てくるような、地面に続く大穴である。ぱっくりと口を開けた洞窟の前に、こちらも衛兵が二人詰めていた。魔物が出てこないかを見張る役目を担う門番であり、それなりにエリートが配属される場所なのだが、ホルスはそれを知ることは出来ない。
「すみません、迷宮に入ってもいいですかっ!?」
「あーおう? ギルドに登録してあるかい?」
思わずバカみたいにテンションが上がって、衛兵が凄くひいているのだが、そんなことを気にも留めずにずずいっとステータスカードを表示させる。
(うオー!俺の槍が唸って光るぜ!)
光る、なんて機能は彼の槍にはないのだが。ちなみに、光る槍というのも存在はしている。
ギルドに加入しているのを確認した衛兵を横目に、抑えきれずヒャッハーっと叫びながら迷宮に飛び込んでくホルスの後ろでは、凄い哀れみの目を四つの目に湛えられていた。
「ヒャッハッーもう我慢できねぇ!!」
迷宮の中は、ほんのりと全体が光っていて、視覚の確保は問題ない。通路の大きさも広くホルスが槍を振り回しても問題ないほどだ。
少し中に入っただけで魔物とエンカウントしたホルスは、嬉々としながら槍を構える。丁度ミズールに歩いている途中で何匹も狩った狼と同じ四足の犬のような影。
だが、外で見た狼より二周りは大きく、ホルスの腰の位置に頭がある魔物は、ガルムと呼ばれる、この迷宮の一階層から三階沿うに生息している魔物だ。
俊敏で、何より集団で襲われ、駆け出しが殺されたりする、外と中の違いをはっきりとさせるような始めの壁なのだ。
たとえ一体しかいないとはいえ、決して油断していい相手ではない。
「は!」
「グルゥアァ!!」
外で狼を簡単に殺した順突きを繰り出すも軽くかわされ、ホルスも意識を入れ替える。これからは、命の取り合いなのだと。
「しぃっ」
「ギャン! グゥウゥ」
腰を落とし、今度はガルムの頭ではなく胸を狙った順突き。かわさせるために、多少速度を落として放ったそれを上に跳ぶようによけたガルムに向かって、今度は槍を叩きつけるように上に跳ね上げる。
槍の強さとは、伸ばした状態からも更に攻撃に繋げなれることだ。次々に円を描くように槍を奔らせる。始めはしっかりかわしていたガルムも、少しずつ追い詰められ、血を流すたびに動きが鈍くなっていく。
「そこぉ!」
ついにはホルスの槍先に右の前足が切り飛ばされてしまい、完全に動けなくなる。
止め、と槍を構えなおすホルスに対して、未だ闘争心を失わないかのように唸り声を上げ、血を流しながらも闘争心を失わない目で見つめるガルムに対し、ホルスも自身のもっとも自身のある一撃を放つために、腰だめに槍を引き絞っていく。
(始めは敵に近づきたくないから槍にしたんだけどなぁ)
思っていた以上に自身に合っていた武器を繰り出し、今まで戦っていた敵の命を刈り取る。自信がある、とまで言えるほどになった自信の得物である槍に伝わる感触に、ふと体の奥が熱くなる。
(お、これは!)
急いでホルスがステータスカードを表示させると、
ホルス:ヒューマン 槍使いLv30
祝福:混沌の神のケイオス(混沌と破壊を司る神々の長。混沌の系譜でもっとも強い力をもつ)
筋力:Ⅲ97
耐久:Ⅱ51
俊敏:Ⅴ3
魔力:Ⅲ25
体力:Ⅳ24
備考:ミズール都市ギルド所属
「っしゃー! 初っ端レベルアップ! えへ、えへへへへへー」
幸先がいい、なんて考えて更に敵を求めて徘徊を始める。彼が我に帰ったのは日も完全に暮れ、宿屋が一杯になる手前だった。
どうしても短くなる……短いのと長いの、どっちがいいんですかねぇ?
誤字脱字、感想をお待ちしておりまするー。