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六話

「着いたー!」


 狼との遭遇からはや四時間。日も傾きかけた頃にホルスはようやくミーズルまでたどり着いた。三メートルはあるだろうレンガ作りの城壁がぐるっと街全体を囲んでおり、迷宮を中心に綺麗な円を描いている。

 大きさは前世でよく耳にした世界一小さいと言われた一神教の国くらいはあるだろう。

 既に夕刻も近いというのに、いまだミズールの城門に人が並んでるのをみてホルスのテンションはウナギのぼりだ。

 

(これから俺の伝説が始まる!)

 

 遠足に動物園に行った子供のようなテンションで、城門に並んでる人の最後尾にホルスはスキップしていく。この分だと、あと十五分くいかなー等とあたりをつけて先に並んでいた人達の観察をする。

 まず城門には衛兵が三人いて、一人は紙の束をもって、一人一人の顔を確認していた、残り二人が中に入ろうとしている人たちに話しかけている。

 今審査を受けているのが商人なのだろう。でっぷりと太ったお腹に、大きな荷物を荷馬車に載せている。

 ステテコパンツははいてるのかなー等と偏見を持ってみていると、商人らしきおじさんは中に入っていき、列が少し進む。

 

「坊主、お使いか?」


 次はーなどと考えたホルスの上から声がかかる。

 子供の中では背の高いのホルスより優に三十センチは高いだろう身長の男が、前から声をかけてきたのだ。右腰にバスターソードを刷いて、使い込まれ、綺麗な光沢が出ている革の鎧を着込んだ、いかにも冒険者ですと言った風貌の男だ。

 顔は苦労が滲み出て四十近いかの印象を抱くが、声を聞けばまだハリがあり若いだろうことを窺わせる。

 

「いえ、冒険者になりにきました」

「ほう! そうかそうか、悪かったな。村からの雑用かと思ったわ!」


 なにが楽しいのか、豪快に笑いながらの謝罪を、構いませんよの一言で済ませると、ホルスも聞きたかった事を口にする。

 

「そーゆーおじさんは冒険者ですか?」

「おじさんって……これでも俺はまだ二十台なんだぜ? まぁ、この顔じゃぁ仕方ねぇがなぁ」


 こんどは一転、苦味を顔前面に押し出した顔を見せる男に、器用だなぁなんて場違いなことを考える。ついで男がホルスの問いに肯定を返し、自身の幸運を喜ぶ。

 

「じゃーギルドにも登録してるんですか!?」


 そう、ホルスにとってはチュートリアルをしてくれるNPCが欲しかったのだ。丁度よくおしゃべりそうな男に白羽の矢を当ててみたのだ。

 

「おう、してるぞ? なんだ坊主は、ギルドのことは知らないのか?」

「ええ、今まで田舎で過ごしていたもので」

「ふーむ。じゃ、どうせまだ多少時間もかかるし、俺がちょっくら講義してやろう」


 二人で前を確認するが未だ先ほどの商人から二人しか進んでいない。ホルスが思っていたよりも中に入るのは厳しい審査があるようで、この男も暇を持て余していたのである。

 

「ま、まずは自己紹介だな。俺はガイデン。見ての通り剣士のレベル45だ」

「あ、僕はホルスです。レベル29の槍使いをしています」

「よし、まずはホルス。ギルドに関してだが、ギルドは基本的には迷宮で出たものを買い取ってくれるだけだ」


 あれ? なんてホルスは考える。仕事の斡旋や、ギルドランク、なんて前世の記憶から考えていたのである。

 ちなみに、と続けるガイデンの一言にさらに度肝を抜かれることになるのだが。

 

「じゃーどうやって俺ら冒険者が暮らしてるのか気になるんだろう? 自分もこれからそうやって生活しなきゃいけないなら、確かに死活問題だもんな。まず、迷宮で出る魔物には魔石、と呼ばれるものが絶対に埋まっている」


 そこはいいか? と聞いてくるガイデンにうなずき返すホルス。また一人進んだのだろ。ガイデンが前に進むのに合わせて二人で歩く。

 

「次にこの魔石だがな。名前の通り魔力の塊なんだこれが。田舎の村じゃ使ったことはないかもしれないが、少し大きな町になると絶対にこの魔石の恩恵がある。この魔石を核とした魔道具、って形でな。例えば水を生み出すものもあれば、火をつける物もある。レアなものになると馬車を動かすほどの推進力を生み出すものや、遠くにいる人と連絡を取り合えるものまで、だ」


 つまり、電気の代わりになっているのかーなんて前世の記憶と照らし合わせて考えて、ガイデンに話の続きを促してみる。

 想像していたのは違うが、これもまた現実。全てが自分の想像通り、なんて方が面白くないに決まっている。

 

「次にギルドの役割だが、この魔石を俺ら冒険者から適正な価格で買い取ってくれるのさ。そしてその魔石を今度はギルドが国や鍛冶、研究所に卸す。それで市民の生活が潤う。さらにギルドは、魔物が落としたアイテムなんかの買い取りも、しっかり適正価格でしてくれるから、変な店に持ち込んでぼったくられるようなことはないぜ」


 つまり、魔物と魔獣の違いは、その魔石があるかないか、というのも関係しているのだろう。

 もうすぐガイデンが審査を受ける順番になるのだが、そのギリギリまでは話をしてくれるようで、一拍おいてから、更に続ける。

 

「んで、更にギルドってのは鍛冶士達と提携も組んでてな。ギルドの横に大きな店があるんだが、そこには色々な所から、まだ店を持てないような鍛冶士の卵みたいなやつらが作った作品から、しっかりとした熟練が作った名品まで雑多に置いてある店とかもやっててな。買い取った魔物の素材とかを売らないで、そこで武器防具を作ってもらうことも可能って寸法さ」

「はーよく、考えられてるんですね」


 ま、そうじゃなきゃやっていけないってことだろうがよ。

 また始めのように豪快に笑うガイデンに、苦笑いでしか返せないホルス。

 

「次ー!」

「と、丁度時間か。じゃ、頑張れよルーキー!」

「あ、はい。とても参考になりました!」


 気にするな、と手を振って先に進むガイデンの背を見ながら、自分の中から湧き起こる感情を抑えるのが大変だった。興奮しすぎて、今にも飛び跳ねたい衝動に襲われたのだ。

 

(ひゃっはーもう我慢できねぇ!)


 軽く人が変わったかのような顔をしているが、この世界に来て十二年も、ご馳走にお預けを食らった状態の犬が、ようやくよしと言われたような状態なのだ。涎がたれてしまってもしかたあるまい。

 

「次ー!」

「はいっ!」


 こうやって、ホルスは夢の都市、ミズールへ進出を果たしたのだ。

また説明ばっかし……次こそは迷宮でヒャッハーする予定です! 

誤字脱字、感想をお待ちしておりますよー

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