四話
才能が欲しい。。。
普段は閑散としたこの村でも祭りの時は大いに騒がしくなる。
普段は質素な食事で満足していた村人が羽目をはずしてエールを喉に流し込み、あちらこちらで酔っ払いが歌を歌い始める。
それは大人のみによらず、むしろ祭りの主役であるこの三人の子供達も普段よりも楽しそうに騒いでいる。
「ホルスーお前、どんな祝福をうけたんだー?」
「なんか、よくわからない。そういうレイスはどうなんだ?」
「聞いて驚け! 豊穣の神様の祝福さ!」
「わーレイ君凄いー。私は光の神様だったよー」
三人とも、話しながらも食べる手は休めていない。普段の節食がなんだと言わんばかりの、村の中心に持ち寄られたテーブルの上には、様々な肉料理や野菜、果実などが並んでいる。
小さい村といっても五十もの人が集まればそれなりに騒がしいものだ。結果、誰ともなくしゃべる声も大きくなっていく。
「なんだよよくわからないって!? それにミナ、そこは驚くところじゃなくて笑うところだ!!」
「あれーそうなのー? でも、これでレイ君の家は安泰だよねー」
のほほんと笑うミナの姿にがっくり肩を落とし目尻に光るものを貯めるレイスを見て、憐憫を覚えるが、特に自分が出来ることはないと思いとりあえずまだ食べていなかった鶏肉のソテーにてを伸ばす。
そんなホルスを見てさらにレイスが肩を落とすのはご愛嬌。
「でもすごいよねーこれ。なんか朝から不思議と力が体の奥底から湧いてくる感じー」
普段通りえへへーと笑うミナが言ったことは、この祝福を受けた全員が感じたであろうことで、無論ホルスも感じていた。朝飯を食べた後に日課になっている槍を振ろうとしたら、今まで以上の速さで槍先が奔ったのだ。
思わず楽しくなって体力が切れるまで槍を振り回し、家族に呆れられてしまった。だが、それぐらい今までの体とは全然違うものなのだ。
「おう、本当だよなー。俺も今日鍬を普段通り振り下ろそうとしたら、今まで以上に土に入っていっちまって、こけそうになっちまった」
「あーレイスもか。俺もびっくりした。ここまで変わるものなんだなー」
身振り手振りで話すレイスに、普段通り感心したように返すホルス。それを横でのほほんと見ながら、時折会話にミナが加わるのが彼らの今まで通り。
それをいつの間にか心地よく思っていたホルスは、心の中ででも、と続ける。
「ホルス君は、いつ村を出ちゃうのー?」
会話が切れたとき、なんでもないかのようにミナが切り出す。
(いつまでもこうって訳にはいかないよな)
「多分、十二歳になったら出るよ」
「かー羨ましいなぁ。俺も祝福があったらなー」
「もうレイ君、そんなこと言っても、お家の畑があるじゃないー」
(そう、この村にいるのも心地いい。でも、折角ファンタジーなんだから、浪漫を追いかけなきゃ!)
「でも、あと二年間は一緒なんだねー」
「おう、まぁ、村を出てもちょくちょく帰ってくるしな」
三人で固まっていつも通りのおしゃべりをしていると、テーブルの上の料理が殆どなくなっていた。
そしてその頃合を見計らったかのように村長のアーネストが一同をぐるっと見回すと、今まで楽しそうに騒いでいた村人が静かになる。
「さぁ、宴もたけなわだが、そろそろ今日の役割をはたしてもらおう! さぁ、ホルス、レイス、ミナ。こっちに来なさい」
会場の丁度中心に作られた祭壇のようなものの上には、産まれたばかりの仔羊が三匹乗せられており、アーネストに先導され、ホルス達はその前へと連れて行かれる。
「さぁ、これを持って」
三人が渡されたのは火の付いた松明だ。思わず引き込まれそうになる意識を、アーネストの方に向けるホルス。三人を安心させるように軽く微笑み頭を撫でていくアーネストに気恥ずかしいものを覚えないでもない。
「わかっているかもしれんが、一人一匹づつ、それぞれの神様に感謝をしながら火をくべるのだ。そのとき羊に付いた火の色で神の階級がはっきりする」
赤なら下級、緑なら一般。青なら中級で白なら高級。黒は特級とされていて、その色合いの濃さでも神の力がわかるという。
四年前にジュウが出したのが、薄い緑色で、村人全員が驚きの声を上げたのだ。
そのジュウは今、彼が恋心を寄せている少女を呼び出しているのでこの場にはいなかったりする。
「ふむ、それでは、誰からいくかの?」
「私からー行きますー」
レディーファースト、と言うわけではないが、緊張がまったく見られないミナが真っ先に声を上げる。
こういう場では真っ先に進んで行きそうなレイスは、緊張でがちがちになってしまっていて、それを見たホルスに肘を入れられていた。
「えいっ!」
可愛い掛け声とに、くべられたミナの火は、綺麗な紅に近い赤。満足そうなミナの顔を見て村人みなで微笑ましく見ていた。
次は俺だっ、と自分に気合を入れたレイスが前に出て、火を投げるようにくべた。
「「おぉ!?」」
その瞬間に上がった火の色はくすんでいるかもしれないが、確かな緑色。レイスの祝福は一般神からであるとわかり、村人にもみくちゃにされている。
「やったじゃねぇかレイス! これで畑を任せても安心だ!」
「おう、お前は畑を耕す才能があるってことだ!!」
「よかったねーレイ君」
「うるせー!」
喜べばいいのか、悲しめばいいのか。確かに強い神の祝福は嬉しいが、それでも自分の夢ではない。こうも祝福されても素直に喜べないレイスなのだ。
「ほっほ。では最後にホルス。リラックスして行ってきなさい」
「はいっ!」
(出来れば中級以上で!)
期待に目を輝かせながら、火をくべようとするホルス、前世と合わせると三十路だ。
そして最後に残った仔羊に火がつき、上がった火の色は……輝くような、白。実は知られてはいないが、この特級の黒い炎が出るような神は、世界を創造したと言われる二柱だけであり、ホルスが受けた祝福は実質最上級ともいっていいものであった。
「お、おぉ?」
ホルスがバカみたいな声を上げるが、それに反応する、否、出来るものはいない。目を飛び出しそうになるほど見開き、手でこすってもう一度見開く。
変わらずに目に痛いばかりの白い炎をみて声を上げられるものはなく、皆呆然としたまま時間だけが過ぎていくのであった。
次はちょっと時間が飛んで、旅立ちを予定していますー。
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