十五話
今回短いです。
ちょっと明日から木曜日まで新潟にお仕事に行くので、更新が絶望的ですがご了承を∥ω・`)
《霞》を覚えてからというもの、蝙蝠退治が作業のように感じられ始めた。敵がバカみたいに突っ込んでくるので、ただ目の前に槍を出してやればいいだけなのだ。
「ほいっと」
六階も殆ど踏破してしまい、そろそろ七階の階段が見えてくる辺りだろう。
スキルを覚えてから二日目なのだが、既にその使い易さが癖になってしまいそうなホルスは、今日に入って二桁に上る蝙蝠との戦闘を終えたばかりであるが、疲労感はほぼ皆無である。この分なら直ぐにでも八階までは進めるだろう。
蝙蝠から魔石を剥ぎ取り、数分歩いた場所に階段を見つけ潜る。
昨日は《霞》を覚えたはいいものの、時間が足りずに五階を回る事しか出来なかったが、今日に至っては、この三時間ばかしで六階全てをまわってしまっていた。
「おっと、団体さんのお出まし、あれ?」
この数日間ですっかりお馴染みとなった耳鳴りの方に集中すると、既に誰かが戦闘しているのだろう、もの音がホルスのいる場所まで届いてきた。
迷宮では冒険者達には暗黙の了解というものが存在する。これはまたガイデンから又聞きなのだが、そのうちの一つはお互いは不干渉であること。
逆に危険な場合には助け合う、というものもあるのだが。
これはいらぬいざこざを避けるためであり、ドロップ品などの争奪を防ぐためである。もしこれを破るような冒険者がいたら、他の冒険者から敵対されるのである。ギルドは冒険者同士の争いには基本不干渉なので、そうなったらもう迷宮で探索することは絶望的だろう。
これは大きなクラン同士の取り決めもあって、輪を乱すものを排除する方向に動こうとするからである。特に大きいクランには一級線の冒険者が多い。そんなところから敵対されて迷宮で、いやミズールで生活するのはほぼ不可能であろう。
そんな背景もあり、まだお互いが不可視の位置にいることもあって、ホルスはその先に行くことを迷ったのだが、未だ一本道で戻っても階段しかないような通路にいるのである。
もし途中で曲がれるのであればそっちにいこうと考えながらも、前へと足を進めだす。
「――イヤー!」
「――シャァ」
前に進むに連れ、段々と戦闘の音も明確になってくる。どうやら三人から四人のパーティーが蝙蝠とやり合っているようだ。
(あーれー?)
男女混同のチームなのだろう。気合を入れたような声が届いてきたのだが、どうにも聞き覚えがある声が混ざってる。
嫌な予感がする、なんて考えながら進んでいると、戦闘が終わったのか、武器を下ろしてお互いの無事を確認しあっている四人組みが見えた。
赤に近い茶髪が耳元まで隠している、ロングソードを肩に担いだ男性。薄い青い髪を腰下まで伸ばし、それを背中の途中で縛っている手甲を付けてダガーを逆手にもっている女性。黒髪をポニーテイルにして、ヘアバンドでおでこを隠した、レイピアを持った絶壁な女性。茶色い大きくくねった髪が頬辺りでばっさり切られている、杖のようなものをもった胸の大きい女性。
ホルスがそんな四人組を視認して始めに思ったのは、このハーレム野郎が! でも、おーこれが迷宮に潜っている先達の人たちかーとかでもなかった。
唯一の男性は素朴な感じがする、お世辞にも格好いいとは言えない様な顔立ちだが、とても穏やかそうな雰囲気だった。ロングソードは綺麗に手入れをしてあるのか、鈍い光を反射させている。
青い髪の女性は手甲の動きが気になるのか、しきりに手首を捻ったりしている。どうやら新しいのだろう。殆ど傷の無い手甲からふと除く彼女の素肌は、傷で覆われていた。よく見ると、顔や首筋にも傷跡が見えることから、普段から危険に飛び込んでいくような戦い方をしているのだろ。
茶色い髪の女性はそんな青い髪の女性に話しかけている。持った杖を後ろ手に回す姿勢なのだが、その胸を強調させているようにしか見えないのは、彼女の服がゆったりしたローブのようなものであるのにも関わらずにその存在感をはっきり主張しているのは、ホルスの眼の錯覚だと思いたいところだ。
そして最後の黒髪ポニーさんはそんな茶髪さんを見て、自分の胸を切なそうに見て、また茶髪の女性の胸部に虚ろになった目を向ける。そしてそんな女性を苦笑いしながら男性が見ているのだ。
(回れー右ぃー!)
そんな冒険者に気付かれないように慎重に、だけど大胆にホルスは、後ろ向きに前進し始める。これは逃げてるんじゃない、戦略的撤退だ、と。
しかしそんなホルスの努力をあざ笑うかのように、青髪の女性が眼を上げる。丁度ホルスと眼が合うような形で。
「?」
ゴーゴン三姉妹にメデューサと言う化け物がいた。蛇の髪を持ち、眼が合うだけで石にしてしまうギリシャ神話の登場人物だ。
青髪の女性は、顔に傷があるものの綺麗な顔立ちをしていた。むしろその傷が彼女にエキゾチックな魅力を与えているような印象さえ受ける。そんな彼女と眼が合ったホルスは、まるで自分が石に成ってしまったかのような思いを抱いたのだ。
ばれた、と。
「ん? ミィどうし……って、あー!」
青髪のミィと呼ばれた女性の視線を追うように辿った黒髪の女性がホルスを見て大声を上げ、己の胸に無意識に伸ばしていた手を留める。
そんな彼女の反応が不思議なのだろ、他の仲間が怪訝に見ているなか、その女性にホルスは顔を引き攣らせながら、手を上げて挨拶をした。
「こんにちは、ベスさん」
「ホルス君じゃないかっ!」
黒髪の女性は、先日会い、ホルスのトラウマを大いに刺激してくれたベサニーであった。
伏線複線。イベントイラスト回収のた(ry
誤字脱字、感想を求めてイルノデスヨ!