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十二話

現実は甘くないのです

(出会いと別れ、といったら酒場だろう!)

 

 生前の当てになるのかもよく分からない知識(思い込み)で仲間を探すなら酒場!

 と意気込んだはいいものの、まずはお腹の虫さんに餌をやらないと、盛大にストライキを起こされそうなホルスがギルドから出て向かったのは、ガイデンと一緒に食事を取った店のある大通り。

 昼間は仕事人や買い物中の奥様方、子供達で溢れる道なのだが、昼も暮れかかったこの時間になると酒目当てのガテンのお兄ちゃんたちで騒然としている。

 

 オラァ! やら、この、てんめっ! などの声とともに何かが壊れる音がしてくるが、総じて笑い声で溢れた通りを歩きながら、暖かくなった懐とは反対にくっつきそうになったお腹を満たすためにいい店はないか探し回る。

 パンとエールを運ぶスカートがきわどいことになってるウエイトレスさんがいる店や、落ち着いた雰囲気のカウンターの奥で初老の男性がグラスを磨いているバー。

 

「ちょ、ちょっと待って!? お昼まではあったんだから!」


 そんなホルスが目星を付けた、お肉のいいにおいが漂ってくるお店から、そう甲高い悲鳴に近い声が聞こえてくる。

 おや? っと思う。見てみると黒髪をポニーテイルにした、レザーが上半身を覆い隠すようになっていて、心臓の位置などに鉄板の軽装な鎧を着込んだ女性が自分の腰周りに手を忙しなく動かしていた。

 

「な、なんでないのー?」


 ホルスよりも年上そうだが、涙目になってわたわたしているのを見ると可愛いななんて思ってしまう。胸は残念そうだが。

 格好から見るに冒険者のようで、この場を見るに財布を落としたのだろう。

 さて、ここで恩を売るのも悪くないかも、なんて自分の夢に忠実なホルスは声をかけることにした。

 笑顔なのにとてつもない威圧感を出している、店員のお姉さんに。ピンクのフリルドレスを着た、ホルスと同じくらいしか身長がないはずなのに、異常発達した二つの山に目が眩んだわけではない、はずだ。

 

「これで足りますか? 足りないなら自分の会計に付けておいてください」


 すっと、今日の稼ぎから1000ギルを取り出し、冒険者の女性と店員さんの間に置いたホルスに対し、えっ? っと声を上げた女冒険者。対して店員さんは何事もなかったかのようにお金を受け取り、ありがとうございまーすとにっこり笑った後に店の奥に戻っていってしまう。

 

「えっと、あの? あれ、どうしてですか?」

「え、何がです?」

「いや、なんで私の会計を――」

「まぁ、美人に奢るのも悪くないですし、ね」


 そう、なによりホルスが目を引かれたのはその冒険者の容姿が整っていたから、ではない。つい、昔の彼女を思い出しそうにってしまう容姿だったから。

 そんなキザッたらしい台詞は、もう少し大人になってからですね、と微笑で女性に返され、しまらないなぁと頬をかいて苦笑いをする。黒髪が懐かしくて見捨てられなかったというのも多分に含まれていたのだが、それを言ったところでどうになるわけでもないので、女性から目を切って席に着く。

 

「あれ?」

「ん、どうしましたか?」

「いや、なんで座ってるのかな、なんて」

「おや、美人の相席は不必要でしょうか?」


 ホルスの目の前に陣取る女性にまた苦笑いを返しながらも、美人なら大歓迎です、とホルスは返し直ぐにやってきた店員さんにお勧めの肉料理、それと彼女にお酒を、と注文する。

 

「おやおや、私、口説かれてしまうのでしょうか?」

「それもいいかも知れないですけど、今は食事ですかね」

「おや、綺麗な花より目の前のお肉とは。お姉さんはそんな男の子は嫌いではないですけど」

「ホルス、です。よければお花の名前を聞いても大丈夫ですか?」


 お互いがふざけているからこそ成り立つ会話だが、はたから見ていたらナンパが成功したようにしか見えない。酒を飲んで騒いでいた雰囲気に多少険が含まれているのだが、我が道を行くホルスは気付くはずもなく、女性――ベサニーと言うらしい――は気にしてはいない。

 ホルスの対面に座っているベサニーの後ろからこれでもか! といわんばかりに軽そうな赤髪のアンちゃんたちがガンをつけているが無視である。

 

「ベス、でいいわ。仲がいい人はみんなそう呼ぶから」

「じゃ、ベスさん、お財布落としたんですか?」


 そうホルスが聞いたとたん、これまでの明るいお姉さんな雰囲気が一転して暗いどんよりしたものになる。先ほどの奇跡の双壁をもつ店員さんがお酒と料理を運んで来てくれるが、変わらない雰囲気に、地雷ですかー!? なんてホルスが慄いていたりする。

 

「昼間ではあったの! いつの間にかお財布がなくなっていて……」

「はぁ」

「私、ミズールには先月きたばっかりなんだけど、ようやくある程度余裕が出来てきたから色々買い物したりして、荷物を宿に置いて食事に来たら、いつの間にかなくなっていて……」

「ほぁあ」


 ホルスの返事がやる気がないのは、口いっぱいに食事を頬張っているからだが、そんなホルスを気にするでもなく愚痴グチしたベサニーの話は続いていく。正直面倒なので、お肉美味しいな、次もここにしようなんて話九分位聞き流しているホルスである。

 

(正直、黒髪の女性ってのはアウトなんだよねー)


 この世界の女性は大概が茶髪や赤・金髪と言った具合で、ホルスが転生してから黒髪を見たのは初めてである。遠目で見る分にはマシだったのだが、実際会話をしているうちに不快感が沸いてくるのである。何より、自分を殺した彼女に似ている、といだけで先ほどから吐き気がしていて、出来るだけ話を聞かず食事に専念していますよ、なんてアピールしているのである。

 十二年。ホルスがこの世界に生を受けてからまるで夢の世界で遊んでいるかのような感じだが、彼の生前に一番記憶に残っているのは包丁を持った彼女の姿だった。

 

(あなたが、悪いんだから。か)


 よくある話で、浮気されて、それを偶然知ってしまった。

 自分に執着してくれない貴方の気を引きたかったんだと言われても、こっちは裏切られたという思いしかない。別れよう、そう切り出したら、刺された。

 なんで? なんて我ながら馬鹿な聞き方だと思ったが、返答があなたが悪い、では笑うしかない。

 血に塗れて、笑いながら自分に火をつけようとしていた彼女。今更未練なんてないけど――そうホルスは思うのだ。未練はないと。こっちの世界で産まれることが出来た幸運があるのだし、と。

 

「ふぅ」


 ホルスに向かい愚痴る事で多少気が落ち着いたのか、ベサニーはお酒を片手にため息をついていた。といっても先ほどの暗い雰囲気よりは全然軽くなった空気の中でだ。

 

「そういえばホルス君も冒険者なの?」

「えぇ、まぁこの槍を見れば一目瞭然でしょうけど」

「ま、この街にいて槍なんか持っているのが一般人なわけないね。私いつも四人のパーティーで潜ってるんだけど、ホルス君はどれ位潜ってるの?」


 ま、まだ上層だけどねなんて呟くベサニーにこの人ショタの気でもあるのかな、なんて考えながらホルスは卓上に残った最後のお肉を口に運び、水で喉を潤す。

 

「僕はまでこの街には着たばっかりで、今日二階に潜ったところですよ」

「へーソロなの? 普通は宿で気があった人と潜ったりするんだけど」

「ッ!!?」


 そう、ここにきてようやくホルスはギルドが推奨してる画期的なシステムに気が付いたのだ。これでぼっち卒業なんて内心震えていたりするホルスを見て、子供だから軽んじられてパーティーを組めなかったのかな? とベサニーは勘違いした。

 女性や子供が忌諱されるのは仕方がない話だろう。成人男性と比べるとどうしても筋力や体力に劣ってしまうのだから。もちろん祝福や職業などの補正がかかり、成人男性よりもはるかに強い例外もいるのだが、見た目でどうしても避けられがちなのだ。

 

「ホルス君さえよければ、私たちとパーティー組まない? 丁度アタッカーが欲しかったところだし!」

「あ、ありがたいんですけどお断りさせていただきます」

「え?」

「やっぱりほら、自分も男ですから、いけるところまでは一人でいってみたいのです」


 もしこの誘いがガイデンや他の美女(重要)からだったら一も二もなく頷いたであろうホルスだが、このときばかりは即答で首を横に振る。黒髪はアウートです、と。

 

「あ、う。そっか。もし、入りたいと思ったら喜んで入れるからね!」

「はい、そのときはお願いします」


 ホルスは スキル ひょうめんてきひとづきあい を つかった。

 

 ベサニーとは宿の方向が反対らしく店を出て直ぐに別れた。因みに食費は更に200ギルばかしかかってはいるが、酒やツマミも入っての値段なので安い方だろう。

 軽く伸びをし、明日は何階まで潜れるかなーなんて暢気に鼻歌を歌いながら歩くホルスに対し、財布をなくしたショックで明日からの生活をどうしようか悩んでとぼとぼ歩くベサニーの対照的な姿があったり。

まさかの黒髪存在否定。でも作者は黒髪ツインテの貧乳が大好物です(ぉ


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