表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/15

十一話

ホルス君が変態になっていく気がしますが、デフォルトです。

「あぁあああぁ!」


 斬、と。手に持った黒炎刀の刃が、あまりにも軽い手応えを残しながらガルムの首を胴体から飛ばした。

 今までの槍では、突くか払うしか選択肢がなかったのに対し、新しく購入した黒炎刀(呪い付)には大きな刃が付いているので薙ぐ、斬るなどと言った新たな選択肢が出来たために、戦闘の幅が大きく増えたのである。

 またランクアップにより軒並みステータスが強化されているのも大きい。今まで使っていた槍より優に三倍近い重量の武器を軽々振り回せるのだから。

 

(でもこれって、絶対なんか呪いがいい方向に作用してるよな)

 

 いくら振っても、疲れがこない。ホルスは失念していたのだが、たまに試しと魔力を込め、黒炎刀の能力である発火を作用させるときに、血槍鬼の固有能力である血槍も同時発動しているので、微々たるものではあるが斬った相手の体力をも吸収していたのである。

 更に言うと普通の人には呪いにしかならない代物も、ケイオスの祝福を受けたホルスにとっては祝福のようなものになっていて、槍に対しての親和性が上がっているのだが、それも全部ランクアップのお陰だと思い込んでいたりする。

 

「よし、次だ! ヒャッハ!」


 ご機嫌である。というのもレンクアップしてから始めての戦闘なのだが、身体が軽くて仕方ない。これだったらいくらでも戦っていられると思うほどに。

 ついつい敵を求めて奥に奥にと進んでいると、ふと通路が広くなっている場所に出る。

 

「およ、階段……ガイデンさんの話だと、三階まではガルムばっかりらしいから、このまま奥に進んでも平気かな?」


 ホルスが今いる上層と呼ばれる中でも入り口の部分なのだが、ランクアップしていない駆け出し三人のパーティーで丁度いいくらいで、一度ランクアップを経験している中堅と呼ばれている部類(ガイデンもこのランクに当たる)は大体十五階以下の中層に足を進めるものなのだ。

 ホルスにとって一階では物足りなくなってしまうのも仕方がないことで、経験が足りないだけで、実力的には十階程度をソロで攻略できるくらいのものは持っているのだ。

 

「っと、降りて直ぐにガルム二匹か」


 唸り声をあげ、こちらを威嚇してくる狼に対し、気負わずに槍を構える。力みは槍を遅くし、焦りは身体を動かなくさせる。

 ホルスの生前は柔道と空手をやっていた、一応格闘経験者ではあった。命の取り合いなの転生してから経験したことだが。

 彼の長くはない、でも決して短くない人生経験から、自然と生きるために必要なことを身体に染み込ませていった。

 実際戦場で生き残る確立が高いのは槍兵だ。階級が高い人間ほど戦場では剣や弓は使わなくなる。馬上からでも、どんな局面に対応できる槍、とりわけ中世では完成した武器などと呼ばれていたハルバードを持つことになるのだ。

 リーチが長いということは、それだけで大きな利点だ。大人と子供の喧嘩ではまず子供は勝てないだろう。では、子供が拳銃を持っていたら? その子供は大人にでも勝つ可能性が高いであろう。

 では拳銃を持った子供と、ライフルを持った子供では?

 言わずがな、ライフル、というロングバレルを持った銃火器の方が有利であろう。

 

「ふっ!」


 短く呼気を吐き、ほぼ同時に飛び掛ってきたガルムに、身体のバネで横薙ぎに槍を振るう。ついでに魔力を込めてやることも忘れない。

 

「ギャァ!?」


 一匹のガルムは刃が頭に当たり即死。もう片方も腕を跳ね飛ばされ、傷口が燃やされる激痛に溜まらず地面を転がりまわる。その隙をホルスは見逃さず、苦しみを長引かせないようにと首を刎ねてやる。

 ふぅ、と残心を一呼吸分だけのこし、腰に刺してあったナイフでガルムの魔石を回収する。

 始めはなれずに魔石事態に刃を当ててしまったり、傷を作ってしまったホルスだが今では慣れたものだ。

 

「しっかし。一人で荷物を持って敵と退治して回収してって、なかなか厳しいものがあるよな……」


 普通の冒険者の場合。食料を持つのは斥候役の役目で、回収した荷物を持つのはタンク役の役目。補助は全体の雑用や後方の警戒をしたり、地図の確認をしたりするものなのだ。

 それを一人でこなさなくてはならない場合、冒険活動に大きな支障が出るだろう。簡単に、深く潜れば潜るほど、負担が大きくなるのだから。そして迷宮とは深く潜ったほうが危険度が大きい物なのだから。

 

「んー帰ったら、仲間でも探して見るかなー」


 やっぱ異世界トリップの基本といったら、ハーレムですよですよ。

 なんて一人でテンションを上げられるホルスは、自分では気付いていないだけでぼっちの典型的な例だろう。独り言が多いところなんて特に。

 

 よっし、とガルムの魔石の回収を終え、更に深くに潜るためにホルスは立ち上がる。

 ガルムの素材なので多少重くなったバックは、動きに支障が有るほどでもない、と確認し、今日の目標は三階まで行くこと、と自分の中で決める。

 ガイデンの話で幾つかの情報を得たホルスは、一ヶ月の間に十階まで行くことを決めていた。

 この迷宮では、まず出てくるのはガルム、次に出てくるのはドラクルと呼ばれる蝙蝠なのだそうだ。普通はバットとかじゃないの? と思わず聞いてしまったホルスだが、その理由はなるほど、と思わされるものであった。

 

 迷宮の下層大体八十階当たりに生息している吸血鬼ドラキュラがいるのだが、それが使い魔として蝙蝠を使役しているのをみた冒険者が、ドラキュラをもじってドラクルと名付けたのだとか。

 

 次に八階辺りから物理攻撃に対し耐性をもったスライムが生息しているらしい。そして、十階からようやくRPGではお馴染みの、経験値稼ぎでお世話になるゴブリンが出てくるのだそうだ。

 ゴブリンって弱いんじゃないの!? と驚いたホルスだが、二足歩行で二本の腕に武器を装備しているゴブリンが弱いはずがないのだ。力は大人には適わないほどではあるが、剣や槍、弓や簡単な魔法まで使えるゴブリンが隊列を組んで襲ってきたら、ソロではなす術なくやられる可能性すらある。

 中層に入って直ぐ冒険者を洗礼するのはトロールやミノタウルスと言った二足歩行の、人間よりも優れた筋力を持つ魔物で、更に下に下ると、知性を持ち、武器を振り回したい列を組んで襲ってくるオークなどが驚異とされている。

 実際、噛み付くか爪を振り回すしかなく、リーチの短いガルムなどは駆け出しの経験値稼ぎの相手などと言われている位だ。

 

 

 

 迷宮に入って既に二時間程は経っているだろう。二階に入ってから三十分は歩いている。

 今日は昼はギルドや武器の新調をしていたため、ホルスが迷宮に潜ったのは正午を完全にまわった二時位であった。

 そろそろ荷物も一杯になってきたし、宿が取れなくなるかも知れないから帰ろう。そうして今日の探索を終わりにするために足を反転させる。

 

「にしても、これ深くに潜る人はどうしているんだろ? ワープ、なんて見てないし……テントや食料を持って迷宮の中でキャンプでもするのかな?」


 迷宮踏破の上位ランカー達になると、優に一ヶ月近く迷宮で過ごしている、なんてホルスは後で知って驚愕するのだが。因みにガイデンのパーティーも大体一回に一週間は潜って、一週間休む、といった具合で迷宮に挑んでいるのだ。

 

 

 

 

 

「うむ、16450ギル、じゃな」

「おー過去最高!」


 と言っても、三日間の中で、だけど。いつも通りのおじいさんに鑑定してもらい、お金を受け取る。若い人もいるのだが、こういうのは歳をとっている人の方が正確そうなのでいつも同じお爺さんの所にホルスは並んでしまっていた。

 

「そういえば、トップの人たちはどれ位一回で稼ぐんですか?」

「む? まぁ、二週間潜ってるやつらで大体5,000,000ってところかの」

「ちょ!? そんなに稼げるんですか!」


 まぁ、やつらはその分出て行く金も多いがのーなんて暢気に笑う老人だが、ホルスとしては溜まったものではない。駆け出しとは言え、自分の何百倍もの金額を簡単に稼がれてしまうなんて。あと、やっぱり迷宮は中でキャンプしなきゃいけないのか、なんて軽く鬱つ。

 

「昔は一ヶ月潜っていたやつらがレアドロップを百二十階から持ってきたときは、確か20,000,000じゃったかの」

「…………」


 開いた口が塞がらないホルスに、ニヤニヤとした老人の視線が送られるがそれどころではない。それだけあったら豪邸が建つ程の金額だ。それを一ヶ月で稼ぐ冒険者の想像がホルスには付かないのだ。

 

「ま、武具防具でかなり金が飛ぶし、何よりクランの維持費もバカにならんから、それぐらい稼がんとやってられないってことじゃの」


 おっと、また知らない単語が、なんてホルスは開きっぱなしだった口を無理やり閉じる。


「クランってなんですか?」

「おや、坊主はクランも知らんのか? 本来はこういうのはワシの仕事ではないのだがな……」


 ま、特別じゃて、と一つ置いてからの老人の説明は、かなりわかりやすかった。

 

 つまりは、昔よくネトゲとかであったギルドみたいなものか、と思う。

 

 最低五人から作れ、自分たちで名前やエスカッシャン(盾)を作成して、各々が好きなように団を作るのだ。

 目的は特に制限されていない。固定パーティーで名前を売るために。金を儲けたり、迷宮に挑む為に大人数を集める必要があったためだったりだ。

 クランを登録するにはホームとなる建物を所持していなくてはいけない。大人数のところは、それこそ豪邸を所持しているところもあるのだとか。

 さらにクランには都市から税がかけられるのだが、その特典として、都市内での自由が利くようになる。食料や備品の融通とかだ。都市が後ろ楯になってくれると考えたらわかり易いだろう。

 

「ま、トップと呼ばれているやつらは大なり小なりのクランに所属しているもんじゃて。やはり個人で出来ること以上のことをしたいのなら、人数は必要じゃからな」


 そう締めくくる老人に対して、ホルスは俯いて何も返事を返さない。

 肩を震わせる姿を見ると、自分の無知をようやく恥じているのかのようにも見えるが、もちろんそうではない。

 

(ギルドキター! あれだよね、最底辺の弱小ギルドをトップギルドに! ギルドマスターは俺で! ヒャッハー!)


 ぐぅぇっへぇっへぇと、なにか黒いものが溢れ始めたホルスに危機感を抱いたのか、老人が早口に次の客を呼び、ホルスを追い出す。

 

(夢が広がりますよね! 浪漫が溢れている街って、大好きですよー!!)

 

 ニヤニヤが止まらない、口調までおかしくなっているホルスだが、本日当面の目標が決まりました。

 

 一ヶ月以内の迷宮十階到達。迷宮踏破型クランの作製(むろんハーレム希望)。

 

 

 ホルス:ヒューマン 血槍鬼Lv8

 祝福:混沌の神のケイオス(混沌と破壊を司る神々の長。混沌の系譜でもっとも強い力をもつ)

 

 筋力:Ⅰ51

 耐久:Ⅰ1

 俊敏:Ⅰ82

 魔力:Ⅰ33

 体力:Ⅰ50

 

 スキル(血槍)

 

 備考:ミズール都市ギルド所属

ハーレム希望……現実は厳しいのです。なぜなら彼の周りにはガチムチしか(ry


誤字脱字、感想をいただけたら大喜びします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ