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十話

迷宮に入れなかった、だと!?

 柔らかな日差し。すごし易い気温で、藁の匂いも慣れれば気にならない。

 まどろみを繰り替えし、体中の疲れを取る為に更に深いまどろみに潜り込んでいく。

 つまりホルスは都度二度寝ならぬ三度目の眠りを貪ろうとしていたのだ。


(昨日のガルムが大量に湧いたせいで死ぬ思いをしたし、今日はお休み! ガルム君は閉店でございます!)

 

 誰にむけたものかも言い訳をしつつ、他の人は既に誰もいなくなった部屋で惰眠を貪ろうと身を捩る。

 

「起きろクソ坊主!!」

「ふぉっ!?」

 

 丁度よく深い眠りに突いた瞬間に、頭に衝撃がはしった。ホルスが目に涙をこさえながら見上げると、店の店主なるガチムチなおじさんが立っていた。手には鉄の棒を装備して。

 

「テメェが起きないとこっちも仕事が出来ねぇんだよ! 惰眠を貪って引きこもりてぇなら個室を取れ!」


 このギルド提携の宿は雑魚寝の部屋は1800ギルとお安いのだが、個室は多少高くなる。ホルスが個室はお高いのでしょう? なんて聞いたところ、2500ギルと普通よりは安いと返されたことから、このミズールの街でもこの宿は安めのようだ。

 眠りを無理やり中断されて、眠気が一気にどこかに吹っ飛んでいってしまったため、しぶしぶ、といった体で起き上がり荷物を纏める。

 長期的にこの街で活動するなら、やっぱり個室を取らなきゃなーなんて小声で呟くが、既に仕事にはいって藁敷きのベットの埃を鉄の棒で叩いて落としてる店主には届かなかった。

 

「ん~あぁー」

 

 普段より四時間も寝坊をし、むしろ凝り固まった身体を伸ばしながら宿から出る。今日も今日とて、やらなきゃいけないことは多いのだ。

 既に手持ちのお金は宿代や食事代で使ってしまって5000ギルもなく、少し心元ない。昨日の成果をギルドに売りにいって、ランクアップの詳しい仕組みとついでに槍の新調をしなくてはいけないのだ。

 むしろ寝すぎだ、と自分で反省をしてみる。実際はランクアップの為に無理やり造りかえられた体が休養を必要としていたのだが。

 


 昼時近くにも街も活気に溢れかえっている。昼食を取るためにか、色々な人がごった返していたり、昼から酒を飲んで騒いでいるような者まで見受けられる。その中には見知った顔もあったり。

 

(あれ? どこかであった……?)

 

 というか、外門のところで話をしたガイデンであった。

 

「っておい、坊主じゃねーか! どうだ、飯でも喰わねぇか!?」


 ガイデンも気がついたようで、ホルスに向かって街の雑踏にかき消されないようにと、大きな声をかけてくる。何が楽しいのか、相変わらず豪快な笑い付だ。

 

「僕が一緒しても大丈夫なんですか?」

「本当は美人な姉ちゃんの方が嬉しいけどな。一人よりはよっぽどましだ」


 断る理由もなく、ガイデンの向かいの席に腰を下ろし、ホルスは気になっていたことを聞いてみる。

 

「前も一人でしたし、ガイデンさんって友達いないんですか?」

「ぶっ! お前な……普段は五人でパーティーを組んで迷宮に潜ってるんだ。今は中層に入ったから、各々装備を買い換えたり、リペアしてるだけだ」


 どうやら、ガイデンはぼっち仲間ではなかったらしい。苦笑いに乾いた笑いをあげる二人組みは、周りから惹かれていたりするのだが、そんなことを気にしていては冒険者は出来ない。

 とりあえず安い定食をホルスは頼み、ガイデンはチキンの照り焼きと酒を頼む。

 昼間から酒ですか、なんてジト目をしても、冒険者の特権だと涼しい顔で流されたり。

 

「で、坊主はこんな昼間からうろついてどうしたんだ?」

「昨日、迷宮に潜っていたら、大量に湧いたガルムに殺されかけまして。今日は朝は休養してました」


 隠すことではないので、さらっと話してみたら、なんかガイデンが凄い顔をしていた。モンスターボックスと呼ばれる現象なのだが、これにあったにしてはホルスの傷がなさ過ぎるのがきになるのだ。

 

「坊主、まさかランクアップでもしたのか?」

「え、よくわかりましたね?」

「まぁーモンスターボックスに出遭うと下手すりゃ駆け出しは死ぬほど危険性が高いものなんだが、それにしちゃ坊主はそんなに怪我をしてないみたいだしな」


 大小様々な怪我を負ったホルスだが、あまりに大きいもの以外は朝起きてみたら大体治ってしまっていたのだ。これがランクアップの恩恵か!? なんて戦々恐々して見たりもした。

 

「つーことは、迷宮に入って数日でランクアップかぁ? それまた、前途有望なこって」

「そうなんですか? まぁ、死にもの狂いでしたからねぇ、それなりに見返りがなきゃやってられないですよ」

「いや、普通ランクアップするにゃ、何年もかかるものなんだがなぁ……あと、職業のことはあんまり人に話さない方がいい。特に特殊職や上位職は知られてないものも多いしな」

「人はいい感情だけ出来るものじゃないですからね」


 やってきた、思っていたよりも量のあるから揚げ定食に舌づつみをうつホルスが口数が減り、ガイデンはアルコールが入ることで更に舌が滑らかになったのか、口数が増えていく。

 

「因みにランクアップしてステータスが全部Ⅰになったのを見て驚いた口だろ? 俺も驚いたからな!」

「あーまぁ」

「ランクアップするとステータスはⅠになるが今までのものは全部蓄積される。スキルや魔法なんかも繰り越されるしな。ここら辺は覚えておいて損じゃないぜ。自分のいままで培ったものは決して無駄にはならねぇんだ」


 その他にも酔って口が軽くなったガイデンに迷宮のことを聞き、食事代まで奢ってもらったホルスは意気揚々とギルドまで人を掻き分ける。

 迷宮は十五階までが上層と呼ばれていて、それ以降五十階までが中層、それ以下は下層というくくりになっている。階層が下がれば下がるほど、迷宮の大きさは増し、難易度が上がっていく。

 迷宮の大きさが増えるということは、それだけで敵とエンカウントする階数も増えれば、食事事情などもシビアになっていく。迷宮の中には、食べれる実がなる木や飲み水の湧く泉があったりもすれば、草一本はえない不毛な大地が続く場合もある。

 そしてソロでは一人の負担が大きすぎてそこまで深く潜れないのだそうで、これからのホルスの進路を考えさせられる、計らずとも有意義な時間となったのだ。

 

 

 

「ふむ。全部で17800ギルだな」


 昨日は何匹殺したかも覚えてないほど殺した(ガルムに限るが)し、妥当なもんかとホルスが考えていたら、

 

「ガルムの尾なんて、また珍しいものを拾ったもんじゃの。これだけで5000ギルじゃ」


 レアドロップがあったらしい。昨日はまったく考えずに袋に詰めただけなので、まったく気がついていなかったのだが、思わぬ幸運だ。

 

「では、ありがとうございました!」


 多少暖かくなった懐にホクホクしながら、隣に寄り添うように併設された武具防具屋へと足を運ぶ。

 今まで使っていた鉄槍は、昨日の滅茶苦茶な扱いに耐えられず、歯がぼろぼろになってしまっているのだ。

 ホルスが始めて訪れた“異世界”の武器屋はイメージとはかけ離れたものだった。綺麗に掃除され、十分なスペースがとられた通路に、種類ごとに整然と木の入れ物に陳列された武具の数々。

 二階は防具の売り場になっているそうだが、こちらも大差はないのだろう。

 

 一言で表せば、舐めていた、である。もっと狭くて汚くて、頑固なドワーフがいるものだと思っていた店内は、爽やかな店員が接客しているではないか!

 思わぬ事実に膝を突きそうになるも、これも神が与えたたもうた試練かと自分を振るい起こし、槍が並べられた一角を見て歩く。

 結果、負けて膝を地面につく事になった。

 

「くぅ……」


 思わずうめき声まで上げちゃうホルス。そんな彼の一人芝居に店員は近づけずにいるのだが。

 

(量が多すぎじゃないですかー!?)

 

 そう、槍だけで百以上はあるのだ。今まで独学で学んできたホルスには槍の良し悪しなんてわからないので、全部同じに見えてしまうのだ。

 

(同じ、そう。だったら値段で選んじゃえばいいんじゃね!)

 

 実際は槍も斧槍やハルバードなんて呼ばれる代物から、直槍薙刀円月刀まで色々あるのだが、今の彼にそこを気にするほどの余裕はない。形を見ないで、値段だけみようと値札に目を走らせていくと、一つだけ明らかに値段の低いものがあった。

 

(およ、他のは30000とかするのに、これだけ2000?)

 

 黒塗りの薙刀を変形させたかのような刃をしていて、ホルスの身長よりも長いそれは、確かに2000ギルと書かれた札が張ってあった。

 全体の黒塗りに何か呪文のような文字がプラチナのような白で描かれていて、反り返った刃は炎を模しているかのようで、美しさすら感じさせる。

 

(おかしくないか? 値段の書き間違え? でも、今だったら2000で手に入れられる!?)

 

 根っこが小市民な日本人であるホルス。特売とかにはめっぽう弱い。真夜中のテレフォンショッピングでは、社長さんの声に合わせてまあお安い、お一つ頂戴な、なんてやっていたのである。

 とりあえず手に持っても大丈夫なんだろうかと思い、実はさっきからこっちを伺っていた店員のお姉さんに声をかけてみる。

 

「あ、これって持ってみても大丈夫ですか?」


 声をかけた瞬間ビクゥッってなって、地味に傷ついたホルスだが、振ってもらう為に広くスペースをとっているんだ、と伝えられたので遠慮なく試してみることにする。

 

「って、あ!?」

「はい?」


 ホルスが黒塗りの槍を手に持った瞬間に、店員のお姉さんから奇声が上がり、ホルスの方に走ってくる。


「ちょ、大丈夫なんですか!? この槍、なんか凄い呪いが掛けられて誰も使えないからって投げ売りされてるやつなのに!」


 だったらこんなところにおくなよ! という一言は店員さんのタプンと揺れる胸に免じて胸に飲み込む。走ってきているときにはもう、それはそれは凄かったのだ。タプンタップンって感じで。

 

「でも、なんともないんですけど……」

「そんな!? もう、近くにあるだけで気分が悪く……あれ、なりませんね?」


 そう、ホルスにはむしろ神々しい美しさを感じさせるほどのもので、手に取ってみた感想としても、異常な程に手に馴染む、というものであった。

 店員さんに少し離れてもらって槍を振ってみるが、手に吸い付くような一体感。試し切り用の藁も裏に用意してあるとのことで、ビクビクしてる店員さんが可愛いなーなんて思いつつ案内してもらい、いざ、と気合を入れて切ってみる。

 

「えー……」


 あまりにも“手ごたえ”がなく切れてしまったので、調子に乗ってホルスが三連切り! なんてやってる後ろからは呆れと驚きと槍投げ感がいい感じにブレンドされた声が聞こえてくるほど。

 最後、と全力で自分がもっとも得意な直突きをくりだし、槍を貫通させると、不思議なことに槍が多少発光し藁が燃え始めたのだ。

 

「うぇー!?」

「あーそれは槍の能力らしいですねー。どうにも、魔力を込めて槍をくりだすと、傷口から発火させるらしいですよ?」


 凶悪な能力を、もうどうにでも成れなんて口調で説明されたものだから、いまいちホルスには危機感が沸かなかったが、実際はかなり使える能力であるはずなのだ。

 生き物の身体は水や炭素などで構成される。つまり、燃えるのだ。体内から燃えれば内臓が損傷し手当てが不可能な状態に。体表であろうとも普段皮膚を覆っている水分が飛ばされ、炭化してしまえば、普通は二度と元には戻らないほどの重症になるのだ。

 

 調子に乗って槍を振り回していたホルスだが、ふと気がついたことを口に出してみる。

 

「そういえば、この槍ってなんの呪いがかかっていたんですか?」

「なんでも、破壊の神のアヴェンルセフ様が呪いをかけていたそうなんだけど……なんであなたには効かないの?」


 あはははー破壊の神の長の祝福があるせいだと思いますよー多分。きっと。てかほぼひゃくぱーそれー(おんぷ)なんて心のなかでは思いつつ、対外的には何ででしょうねーなんて返すホルス。

 ホルスは しゃこうてきへんとう(誤魔化し) の すきるをつかった!

 

 ちなみにこの槍は買いました。特売美味しいです。

 

いやーおにゃのこ成分が異常に足りない、ガチムチ70パーな小説って、需要少なくね? なんて考えちゃ負けだと思ってます。


誤字脱字、感想お待ちしておりますよー

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