一話
世田谷区のマンションの一室から火災が発生し、八階建てのマンションの五階から上はほぼ全焼。
軽重症併せて十五人。死人が二十歳の大学生が一人であった。
なお死亡した大学生の部屋が出火元と考えられており、近くの住民によると、火災の直前にその男性と付き合っていたと見られる女性が目撃されたもようで、現在警察はその女性の行方を……。
「ホルスー! 村長さんの所に行って、明日の段取りを確認しておきなさい」
ミズール自由都市領のシャゼン村。森を切り拓いて建てられたその村は、大体五十人程の住人が住んでいて、ある程度自給自足が出来ている村だ。
女子供含め四十人ばかしが畑を耕し、残りが森に猟で肉を狩りに行く。有事の際には村人全員であたる、小さい村落特有の仲間意識の強い場所だ。
「はーい、母さん! なにか伝えておくことはある?」
そんな村だからこそ、お祝い事は村ぐるみの祭りのように盛大にやるのだ。
そして明日の祭りの準備で、村全体が浮ついているのだが、その主役の三人のうちの一人が彼、ホルスだ。
シャゼン村のホルス。今年で十を数えることになる、少し痩せてはいるが、子供特有の活発さが溢れている、薄汚れて縮れた茶髪の男の子だ。
まだまだ成長している最中なのだろうが、体全体を薄くおおった筋肉は、余分なものが見てとられないほど引き締まっている。
成長仕切っていない身長は百と四十ばかしと他の平均な子供よりは大きいほどであろう。
「ないわ。気をつけていってらっしゃい」
小さな村では珍しいことに、そんなホルスと同い年の子供が後二人いて、明日の祭りではその三人が、神からの祝福を受ける、大切な日なのである。
初夏のまだ涼しい気候になった頃にこの“アズガルド”大陸で一斉に行われる『祝福の伺い』と呼ばれる、その年に十になった子供達にとって、いや、人にとってもっとも大切な日と言えよう。
整備されてないあぜ道を軽快に、鼻歌交じりでホルスは走りながら、畑作業をしていた村人に挨拶をしていく。
「坊主〜明日はがんばれよー!」
「なにをがんばるのさー」
「まぁ、それもそうなんだけどなー。親父さん見たく“鷹の目”の祝福、もらえるように祈っておけよー!!」
「うん、ありがとー!」
アズガルドでは、十歳になる子供達に、神様達が祝福を贈るのだ。まさに、その人の一生を左右するプレゼントだと言えよう。
豊穣・鷹の目・戦乱・炎、等と言った神々からの祝福は、その神によって様々なスキル《祝福》を人に与えるのだ。
例えば、ホルスの父親であれば、鷹の目の下級神の祝福を受けていて、職業は三十四レベルの狩人。その恩恵としてのスキルは暗視と、遠視といった具合だ。
先に出てきたように、神にも位というのが存在していて、高位の神の祝福のほうが受けずらく、受ける恩恵も大きい。
下級神・一般神・中級神・高級神・特級神といった具合だ。おおよそ一般的には下級神の祝福が普通であり、一般神の祝福が与えられれば、その分野ではとても優遇されるのだ。
そう、神々の祝福はスキルだけではなく、その人に才能も与えるのだ。
(いや〜ファンタジーだよなぁ〜)
目標の村長の家までは、ホルスの足では走っても二十分ばかしかかってしまう。普段だったら長い距離なのだろうが、彼の軽快なスキップはそれを感じさせない。
(あいつに殺されて、“この世界に産まれてから”こんなに心踊った日はないね!)
シャゼン村のホルス。産まれ変わる前は、日本で大学生をしていました。
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